第396話 今回の主役は女神様

『ショウ君が出てませんでした……』


「いや、まあ、そういうこともあるよ」


 うちの女神様がちょっと怒ってます。

 俺も割と「え、俺、出てなかった?」みたいな感じなったけどさ。

 それに、本土の他のプレイヤーさんたちや、ラムネさんがNPCや妖精と仲良くしてたのは良かったなと。


「ごちそうさまでした」


「ワフ」


 セルキーたちが焼いてくれたオランジャックの干物は塩加減も絶妙。けど、やっぱり醤油が欲しいんだよな。ルディッシュ(ダイコン)おろしも作れるし。

 後片付けを手伝い、パーンやシャルたちへのおみやげ分をもらって、今日このあとは神樹経由で山小屋に帰る予定。


「今回の主役はミオンだしさ」


『はい……』


 公式にもミオンの翡翠の女神役就任のページができ、アルバムも『今夏リリース予定』と掲載された。

 当然というか、チャンネルに公式女神就任おめでとうというコメントが殺到。

 ずっと見てるとキリがないので後はモデレーター権限を持つ椿さんに任せてきたっていう。


「俺としては、変な批判とか来なくてホッとしてるよ」


 そんなコメント来ても、速攻で椿さんがBANしてそうだけどね。


『ショウ君。ありがとう……』


「あー、うん。えっと、アルバムの話が今夏リリース予定って出てたけど」


『はい。椿さんの話では、8月下旬の収録で、9月発売になるそうです』


 9月って夏か? って気もするけど、9月下旬にあるTGF(東京ゲームフェスティバル)が終わるまでは夏というのが、業界的な季節基準だもんな。


「キュ〜?」


「っと、ごめん。次に来るのは木曜日だよ。その時は船で北の端っこまで見に行こうな」


「キュ〜♪」


 嬉しそうにしてくれるトゥルーの頭を撫でる。

 さて、忘れ物はないかな? いや、そもそもスウィーとラズはどこいった?


「スウィー? ラズー?」


 そう呼びかけると、


「〜〜〜♪」


「クル〜♪」


 年長のセルキーに連れられて、スウィーとラズがやってくる。

 それはいいとして、そのセルキーが持っているのは中サイズの樽……


「スウィー、また勝手にお酒作ったの?」


「〜〜〜♪」


 そっぽ向いて口笛を吹くスウィーなんだけど、まさかラズもそれに付き合ってた?


「キュ〜」


「クルル〜♪」


 樽を受け取って中身を確認。

 いや、味はわからないから鑑定するしかないな。


【バーボン(ウリシュク栽培)】

『ウリシュクが育てたレグコーンとコハクから作られたウイスキーで、焼き樽に詰めて熟成させたもの。度数が非常に高いので注意。

 料理:調味料として利用可能』


「えー……」


『ウイスキーって、すごく強いお酒ですよね?』


「そのはず。バーボンって名前なのは、確かとうもろこしが主成分で作られたウイスキーだからだよな。じいちゃんが飲んでたような気がするけど……」


 じいちゃんもばあちゃんも大酒飲みだもんなあ。

 親父も結構飲むけど、ウイスキー飲んでるところは見たことないような。


「いやいや、それはいいとして、スウィーこれ飲むつもりなの? キツすぎじゃない? この間の花蜜酒どころじゃないと思うんだけど?」


 そう問うと、スウィーが悪巧み顔になって耳打ちする。


「〜〜〜……」


「あー、竜族に渡して……」


『ショウ君?』


「アージェンタさんあたりに送って、代わりにフルーツをもらえってさ」


『なるほどです!』


 まあ、悪くない手ではあるんだよな。

 こっちで手に入らない食材とかもあるんだろうし、無人島スタートした時はそういうのは諦めるしかないかなって思ってたけど。


「じゃあ、量は少なめでね。この島で探せばあるかもしれないんだし」


 せっかく無人島スタートしたんだし、島にあるものは島でまかないたいところ。

 島を探索し尽くして、それでも無いってわかった時は、苗をもらうとかにしたいかな。


「じゃ、帰ろうか」


「ワフ!」


 ………

 ……

 …


 神樹経由で戻ってきて、まずは山小屋に荷物を置く。

 で、干物の類はパーンとシャルたちに差し入れかな。と、その前に、バーボンを大型転送室に置いてこよう。


「アージェンタさんに手紙も出すけど、ピアノの修理の件とギルド設立するかもって話ぐらいかな?」


『南の方にある施設の話はどうしますか?』


「あー、そういえばアージェンタさんからも言われてたっけ」


 呼びつけていいよ的なことを言われたんだよな……

 アズールさんなら喜んで手伝ってくれそうだけど。


『部長やナットさんにも紹介したいですね』


「そうなんだよなあ。特にベル部長とは元素魔法とかで話も合いそうだし……そろそろコラボやってもいいのかも?」


『あ!』


 前はベル部長に来てもらったし、今度はミオンがお邪魔する形とかどうかな?


「まあ、ヤタ先生に相談してからにしようか」


『はい』


 盆地からの階段を下りて、十字路のところまで。

 ちょっと置いてくるだけなので、スウィーたちには先に教会裏へ行ってもらおう。


「じゃ、また後で」


「ワフ」


「〜〜〜♪」「「バウ!」」


 俺とルピは左へ。転移エレベータを下り、右手にある大きな保存箱にバーボンの中樽を入れる。

 帰りにもう一度、グレイプルやライコスなんかを入れて、山小屋に戻ってきたら手紙を書かないとかな。


『次の水曜のライブはどうしますか?』


「うーん、前回は港でトゥルーたちとだったし、今回はパーンたちとかなあ。あ、でも、シャルたちが教会に住んでる話とかもしてないんだよな」


 そういえば、今日のPVで死霊都市の副制御室が映されてたけど、あれって本土のプレイヤーさんたち的にはどうなんだろう。

 教会の地下からって話、セスは気づいてたし、死霊都市のワールドクエストやった人なら知ってそうな内容な気もするけど。


「教会に地下があるって話、うちにもって聞かれるかな?」


『聞かれるかもです。セスちゃんも気づいてたんですよね?』


「うん。まあ、聞かれたところで、下へ降りて何もなかったですよで済むか……」


『はい。今は何も無いですし』


 転移エレベータに乗り、ぽちっとやって上へと戻る。

 あの地下室、滅多に使わないから、屋敷の蔵のいらないものとか移しちゃってもいいのかもなあ。


「じゃ、久しぶりに教会スタートにして、屋敷の裏庭でおやつ食べながら雑談とかでいいかな?」


『いいと思います!』


 ミオンが公式女神になったことも公表されたし、お祝いパーティーにしよう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る