第395話 アプデライブと新PV

「ちわっす」


「良き夜よの!」


 俺とセスとがバーチャル部室に入ったのは午後7時50分。アップデート解説ライブが始まる10分前。


『ショウ君、セスちゃん』


「来たわね」


 迎えてくれたのはミオンとベル部長。

 すでにアップデート解説ライブの待機画面が大きく映し出されていて、準備万端という感じだ。


「ところで、2人はもうPVは見てるのかしら?」


 席へと着いた俺にさっそくの質問が。

 ミオンの方を見るとふるふると首を振ってから、


『お昼過ぎに完成したPVが届いて、母と椿さんがおかしい場所がないかの最終確認をしてくれたそうですが、私とショウ君は見てないです』


「あ、そうなんだ」


 俺らは遊びに出てたからなあ。

 ミオンも自分だけで見てってことはしなさそうだし。


「楽しみよの!」


「今日この解説ライブで発表されるのよね?」


『はい。ライブのいつになるかはわかりませんが』


 いきなり最初に流れるって可能性もありそうなんだよな。

 どっちにしても、今日は解説ライブ後はチャンネルが荒れないか気にしておかないと。


「む、始まるようだの」


「あら、時間通りなんて珍しいわね」


 画面に見入る2人なんだけど、


『今日は先生は来られないんでしょうか?』


「俺もヤタ先生いるかと思ってたんだけど……」


「今日は無理だと思うわよ。今ごろは通知表と格闘してるはずだもの」


 とのこと。

 採点はAI任せですぐ終わっても、所見のところは全員分を自分で書かないとだもんな……


『はいはい、皆さん、こんばんは。今日は時間ぴったりスタートですね。

 アイリスIrisレヴォリューションRevolutionオンラインOnline、アップデート解説ライブを始めていきたいと思います。

 いつも通り、司会は私、ゲームマスター統括の雑賀ちよこ、GMチョコ。

 解説に総合プロデューサーの山崎美沙、ミシャPでお送りしていきます。

 よろしくお願いします』


『よろしくお願いします』


『では早速、アップデート内容をお伝えしていきましょう』


 画面が切り替わり、公式のアップデート内容、昼にみんなで見たあのページが表示された状態で解説が始まった。


「PVは最後っぽいね」


『みたいですね』


 新種族は魔王国からのスタートに強制される件で、コメント欄に「無人島スタートもダメ?」ってコメントが流れたりしてるし。

 それにしても、魔王国種族はアクが強いというか、種類も多くて新規さんが悩みそうな感じ。


「セピアエルフは、今のエルフとあまり変わらんようだのう」


「最初に持ってる精霊石に違いがあったりするのかしらね」


 セスと部長がそんな話をしている。

 鬼は身体強化スキル持ちで、HPが高くなる分、MPは少ないんだとか。


『人獣族については個別に違いがあるんですが、まず注意して欲しいのが人馬族ですね』


『はい。いわゆるケンタウロスなので4本足で歩くことになります。最初はすごく大変だと思いますし、初期状態では移動アシストをオンにしてあります。

 この状態だと普通の人と変わらず動けますが、オフにすることでより速く走れたりするようになりますね』


 その発言にコメント欄がすごいことになっている。


「将来的に飛行できる種族がプレイできるようになった時は、飛行アシストのオンオフあったりするのかしら?」


「飛行アシストオフとか、めっちゃ怖いんですけど……」


「いや、飛行できる種族のみとは限らんのではないか? 魔女なら杖なり箒なりで空を飛んでもおかしくなかろう?」


『部長に似合いそうです』


 元素魔法で飛行? いや、空間魔法の移動を使えばできなくはないのかな? MPすぐに切れそうだから怖いな……


 ………

 ……

 …


 解説が一通り終わり、コメントを拾う形での質問タイムも終了っぽい感じに。

 いよいよかな?


『さて、ではそろそろ終わりの時間ですが?』


『ですが! 新しいPVを公開してライブをしめたいと思います。それでは、引き続きIROをよろしくお願いします』


『では、また次のアップデートで〜』


 なんとなく流し見状態になっていた俺たちも、居住まいを正して画面を見つめる。

 画面が暗転し、しばらくすると現れる文字……


【厄災の終結は新たなる時代の幕開けであった】


 映し出されたのは……お城?


『かつての厄災は終結した!

 これより魔王国は他国との門を開くことを宣言する!』


 このダンディーなおじさんが魔王様なのかな?

 やがてカメラがずれて後ろに控えていた人たちを映す。

 王妃が何人もいる? 王子も何人もいる? 最後に死霊都市の地下で出会った王女が映り、ゆっくりと画面が回想シーンへ切り替わる……


『ここに収まる魔晶石があれば、転移魔法陣も復活すると思うのですが』


 困ったような顔でそうセピアエルフが指し示したのは、制御室の非常用魔晶石が収まっているはずの場所。

 ここって、死霊都市の地下にある副制御室っぽいけど……北東側ってことかな?


『ないもんはしかたおまへん。他所よそやったらあるやろか?』


『俺が確認を』


 そう答える鬼だが王女様は首を横に振る。


『皆で行きましょ。めずらし人に会えるかもしれへんし』


 そう言って見つめた先は……映らないままフェードアウト。

 回想シーンが終わり、にこやかに微笑む王女が映って一安心。

 竜族の押さえてる副制御室で出会ったあたりが映ったらどうしようかと……

 カメラは視線の先、広場で熱狂する魔王国の様々な種族を映し、やがて雑踏がすり替わって、いつの間にか死霊都市の風景へと変わる。


【様々な思惑が交錯し、死霊都市は再生へと動き出す】


 そのテロップが消えた頃には、カメラは見たことのある教会の中へと変わり、そこには俺がミオンそっくりにした翡翠の女神像が。

 教会の室内が端から樹々へ、草花へと変わり、やがて女神像もミオン本人へと色づいていく……


『紅緋、翡翠、蒼空の三人の女神が揃う時。

 かつての荒廃は遠い記憶となり、美しい都市へと生まれ変わるでしょう。

 希望への扉が開かれ、喜びに満ちた世界へと……』


 ミオンが、翡翠の女神が手を広げると、そこから溢れる光の玉に様々な映像が浮かび上がる。


『ラララ〜♪』


 巨人族とリンゴを分け合って食べるプレイヤーたち……

 ドワーフに鍛治を教わるプレイヤーたち……

 エルフとコプティを採取するプレイヤーたち……

 ノームとキノコを育てるプレイヤーたち……

 ケンタウロスと取引をするプレイヤーたち……


『ラララ〜♪ ラ〜ラ〜♪』


 ラムネさんと三毛柄のケット・シーが仲良く歩いていく様子と共に、ミオンの歌も終わりを告げる。


『ラ〜ラ〜ラ〜ラ〜……』


 2人が見つめる先には、崩れた古城と夕やけに染まる海。

 そして……


【Iris Revolution Online 第三章 魔王国開国編】

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