第392話 海豹王のトライデント

「へー、そっちは焼肉だったのか」


「うむ!」


 俺が家まで送ってもらって帰宅した5分後ぐらいに、美姫がナットの親父さんに送ってもらって帰ってきた。

 そんなわけで、食休みというかお茶をしつつ、お互いどういう感じだったかを。


「へー、ナットはいなかったのか」


「IROでポリー殿と会う約束があるという話よの。焼肉弁当で我慢しておったぞ」


 とニヤニヤする美姫。まあ、気づいてるよな。奈緒ちゃんもそのへん知ってるし。

 それにしても、テストが終わったらすぐにIROとか、いいんちょも随分とはまってるな。


「白銀の館って忙しいのか?」


「む?」


「いや、いいんちょがIROに行ったのも、テスト中はプレイしてなかったからなんだろうし、その分、ギルドの仕事が溜まってたりするのかなって」


 ただぼんやりとゲームにって感じはしないんだよな。いいんちょ。

 おそらくだけど、白銀の館の仕事が溜まってるからとかそういう理由なんじゃないかっていう推測を話す。


「いや、そうではなく、ナット殿のギルドから水晶原石を買うという件であろう」


「あー、そういう話あったな」


 テスト前ぐらいに話してたっけ。

 水晶鉱を見つけたはいいけど、ナットんところは加工とかイマイチだからって。


「白銀の館で買い取るんだ」


「うむ。王都の彩神教会からも頼まれておるのでな」


 王都の教会って大聖堂じゃなかったっけ?

 なんでそんなところまでって感じだけど、こいつのことだしなあ。


「んー、それは理解したけど、王都で必要な水晶をわざわざアミエラ領まで運ぶのか?」


「王都にも出張所があるに決まっておろうに」


「マジかよ……」


 なんでも、大店おおだなが持つ倉庫の一つを、白銀の館で借りてるそうだ。例のセスがキャラを作ってすぐ助けた商人さんのところらしい。

 帝国や公国、共和国から来る品なんかもあるし、逆に送り出す品もあるわけで、それを保管するために使ってるらしい。


「マスターシェフ殿に卸す乾物なども、白銀の館で買い取ってから適宜流しておるのでな」


 とはいえ、全てを白銀の館で差配してるわけではなく、その大店からNPCが入ってくれているそうだ。


「ギルドすげーな……」


「兄上もギルドを作れば、竜族が全力で支援してくれると思うのだがの」


 ニヤリと笑うセス。

 うーん、そこはそんなになあ。お金儲けしたって意味ないんだし。

 それよりも、二人のんびりが目標なんだし、ミオンを早く島に迎えたいんだよな……


***


「じゃ、行こうか」


「ワフ!」


 夜はのんびりと港へと向かう予定。神樹は使わず、展望台ルートでのんびりと。

 またブルーガリスを採集しておきたいんだよな。

 砂糖の減りが早い……


「〜〜〜♪」「クルル〜♪」


 今日のメンバーは、俺、ルピ、スウィー、ラズ、レダとロイにフェアリーズ。

 パーンたち、シャルたちは向こうに行ってから、セルキーの里の神樹で来てもらうかもとは伝えてある。

 なにせ、向こう行ってのメインは、


「灯台の向こう側、どこか上陸できる場所があればいいんだけどね」


 小型魔導艇に乗って、灯台の向こう側を軽く見てくる予定。

 今日のところは軽く下見ってところ。


『危険はないんでしょうか?』


「今回はメンバー厳選するよ」


 俺はもちろんだけど、ルピ、レダ、ロイ、スウィー、ラズでパーティを組み、トゥルーとセルキーたち数人のパーティとアライアンスを組む予定。

 水中戦となると、やっぱりトゥルーたちセルキーの方が何枚も上手だと思うし、上陸地点があるようなら、調査の間は船の警備をお願いしたいし。


『気をつけてくださいね』


「うん。まあ、今日は様子見だけだから」


 島で未踏な部分はだいぶ減ってきた。

 一つは屋敷の向こうの森、南西側に行けばウリシュクの里の崖から見た下側、そして北東側でその先は全然わからない状態。

 もう一つは今日行く灯台の向こう側で、島の北端まで見てこれればいいなと思ってる。


『北側もやっぱりエリアなんでしょうか?』


「多分? 新しい食材があればいいんだけどね」


 一番欲しいのは米、ハクだけど、小豆とかリンゴなんかもあればいいなと。


「ワフ」


「おっと、ごめん」


 雑談してるうちに展望台へと出る扉に到着。

 いつものように、ルピのお母さんのお墓へとお祈りを捧げる。


「〜〜〜?」


「うん。もちろんいいよ。ミオンも歌ってくれる?」


『は、はい!』


 そういえば、今日の収録分はもう明日には発表されるって聞いてる。

 どういう反応が返ってくるのか、ちょっと心配。

 チャンネルのファンの人たちは喜んでくれると思うけど……


***


「キュ〜♪」


「久しぶりになっちゃってごめんな」


 抱きついてくるトゥルーの頭を撫でる。

 テスト期間中、ゲームは1日1時間の縛りがあって、なかなか港の方へは来れなかったんだよな。

 まあ、ヤタ先生もそこまで厳しくはなくて、土日は神樹経由で来たりはしたんだけど、それでも1週間ぶり。


「えっと、準備はできてる?」


「キュ!」「「「キュ〜!」」」


 トゥルーの後ろには年長のセルキーが3人。

 俺が作って渡したトライデントを持って、準備万端って感じ。

 そして、


「キュ〜」


「うん、似合ってる!」


 トゥルーにはトゥルー専用のトライデントを渡してある。

 槍先には魔銀ミスリルを使用しつつ、持ち手部分の装飾には初めてインゴットにした金も使ってみた。

 結果、


【(仮)最高品質の三叉槍】

『戦闘や漁具として使用する三叉槍。軽銀鋼、魔銀、金で作られており最高品質。(解説修正、追記可能)

 攻撃力+32。槍+1。

 作成者:ショウ』


 槍スキルに+1がついたのはご愛嬌かな?

 銘を入れると一品物になることが確認できたし、せっかくなので【海豹王のトライデント】って名前をつけてみた。

 うん。ネーミングするときに、ちょっとセスの感性がうつってたかもしれない……


「キュ?」


「ああ、ごめん。じゃ、船に乗ろうか」


 小型魔導艇を操縦するのも久々だし、今日はそっちにも慣れないとだよな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る