第390話 素材があれば、あとはおまかせ

「っと。まずは洗わないとかな」


『ですね』


 魔導コンロと魔導フードプロセッサーを裏庭に持ってきた。

 コンロの方は開けた収納の天井に脚が差し込まれ、ラッチのようなもので留められていたのを外すことで持ち上げられる仕組み。


「水で洗って乾かせばいいのかな? 洗剤とかないし……」


『浄化の魔法はどうですか?』


「ああ、それがあった」


 神聖魔法、魔石を魔晶石にするぐらいにしか使ってないからなあ。

 一応、治癒とか解毒とか加護の魔法も使えるんだけど、使う機会がないままだし。


「じゃ、水をお願い」


 水の精霊にお願いし、綺麗な水でそれぞれをしっかりと洗う。

 その後は亜魔布の端切れから作ったふきんで拭いてから、乾燥の魔法をかける。

 最後に、


「浄化っと」


 拭いて乾かした時点でピカピカになってはいたけど、やっぱり浄化をかけると安心感が増す感じ?


「ワフ!」


「ん、せっかくだし、何か作ろうか」


『何を作りますか?』


 うーん、フードプロセッサーを使ってみたいし、ルピに美味しいものをってなると……ハンバーグ?


「〜〜〜?」「クルル?」「ニャ」


 とおやつの気配を察したのか、みんなが集まってきた。

 ルピの分だけってわけにはいかないな、これ……


「パーンやシャルたちはハンバーグ食べられそうだけど、スウィーとラズたちはダメだろうしなあ」


『ジュースはどうですか?』


「ああ、トマト……ライコスジュースかな。空砂糖は多めがいい?」


「〜〜〜♪」


 スウィーからグッとサムズアップが帰ってきたので砂糖多めにしよう。

 フェアリーの蜜の方が美味しいんだろうけど、量の問題があるし、効能がすごいから薬の方に使いたいし。


「じゃ、ちょっと待ってね」


 魔導鋼製の蓋を開けて……の前に、裏返してゴルフボールぐらいの魔晶石を発見。マナを注ぐ。

 みんなが見守る中、ライコスを3個、氷を適量と砂糖は大さじ1ぐらいかな? あと、塩をひとつまみ。


「で、このボタンかな?」


 触ってみると、特にウィンドウも出ずにカチッっという蓋がロックされ、動作し始めたのか中身が撹拌されてるような音が。

 でも、本体は微動だにしてないっていう……固定の魔法も発動してる?


『あの、中に刃のようなものってなかったですよね?』


「うん、なかった。この中で何が起きてるんだろ」


 現実のフードプロセッサーって透明の容器で中が見えたりするけど、これって全くわからないんだよな。

 ゲームだからってことで誤魔化してる気がしなくもない……


『いつ終わるんでしょう?』


「俺が止めないとなのかな?」


 そう思ってもう一度ボタンを押すと、またカチッという音がして静かになる。

 蓋を開けて中を見ると……まだ途中っぽい?


「次はしばらく放置してみるよ」


『はい』


 ってことで、蓋を閉めてもう一度。

 なんか音が変わったかなってところで、自動で停止した模様。


「蓋は……開いた。お! できてる!」


 ジュースというよりはスムージーっぽいけど、スプーンですくって一口……


「うん、美味しい!」


 スウィーたちフェアリー用、ラズたちカーバンクル用に深皿へ。小さいスプーンを添えて。

 ルピたち、パーンたち、シャルたちの分も作らないと!


 ………

 ……

 …


「〜〜〜?」


「リュ」


 なんかパーンが興味津々だったので、使い方を教えて……教えるほどでもないけど、あとはおまかせしたら、自分たちで作り始めた。

 なんか、ライコス以外にもチャレンジし始めて、スウィーがあれこれ口出ししてるし……


「まあ、怪我することはなさそうだし、いいか」


『スウィーちゃんの作るジュースはどれも甘そうですね』


「砂糖入れすぎないように言っておかないとかな?」


 魔導醸造器もそうだったけど、使い方を教えて任せちゃった方が面白いものが出来そうな気がするんだよな。


『もっと他にも果物があればいいんですが』


「確かに……」


 パプの実、グリーンベリー、グレイプル、カムラス、あとライコスか。

 リンゴとかイチゴとか欲しいなあ。アップルパイとかイチゴショートとか作れるだろうし。

 探すとなると、あとは向こうの森の奥か……


『そういえば、お屋敷で見つかった転移魔法陣の先は南の方ですよね?』


「あー、あれか。誰もいない島とかなら行ってみるのも手だけど……アズールさんに偵察してきてもらうって手はあるんだよな」


 アージェンタさんから、アズールさんに頼んでもいいよって許可はもらってる。

 まあ、実際にお願いするなら、本人にちゃんと説明しないとだよな。


『南の島のフルーツとかがあればいいですが』


「あー、いいなあ。バナナとかマンゴーとかパイナップルとか……あとココナッツ?」


 そんな話をしていると、


【古代遺跡が発見されました!】


「『あ』」


 なんか久しぶり? いや、ラムネさんの島の話があったっけ。


『フォーラム、見てきましょうか?』


「いや、いいよ。それより……明日が収録だけど緊張してない?」


『はい。ショウ君がいてくれますから』


 あ、うん、それは当然いるんだけど。

 そうじゃなくて……、いや、そういう話なの?


『でも、明日はセスちゃんが来られないのが残念です』


「まあ、それはしょうがないかな」


 セスは明日はナットん家。テスト終わったから、家族で出かけるらしいんだけど、それについていくとのこと。

 奈緒ちゃんもテストの手応えは上々ということで、ご褒美に服を〜みたいな話だそうで。多分、美姫も買ってもらうんだろう。

 そのまま外食、つまり夕飯もご馳走になって、帰宅は午後8時ぐらいと聞いている。

 ホント、柏原家には世話になりっぱなしなんだよなあ……


『翡翠の女神の衣装はセスちゃんにも見てもらいたかったです……』


「あいつが俺の妹だってのは、運営さんも知らないからね。話してもいいんだけど、だからって関係者になるわけでもないし」


 実際、ミオンの収録を見学にくるか聞いたんだけど、そう返されたっていう。

 俺も美姫なら見学ぐらいは許されるんじゃないかなーって思ってたんだよな。


「そういえば、収録は明日だけどPVの公開っていつになるんだろう? 魔王国アップデートって7月下旬って話だったよね?」


『椿さんの話だと収録した翌日にはPVになるんじゃないかと』


「え? そんな早いの?」


『はい。ストーリーラインはもうあるそうですし、素材さえ集まればあとは編集AIさんに指示して、出来上がりを微調整で終わりですよ』


 ミオンがぱぱっと短編動画を作っちゃうのもそういうことらしい。

 ただ、優秀な編集AIはめちゃくちゃお高いらしいので……うん。

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