第376話 (元)団長の腕前

「キュ〜」


「あ、やっぱりトライデントなんだ」


 夜になって港から帰る前に、トゥルーから昔使ってたっていう道具? 漁具? 武器? それを見せてもらったんだ。

 で、やっぱりただのヤスじゃなくて、ちゃんとしたトライデントだった。


【壊れたセルキーの三叉槍】

『セルキー用の三叉槍。壊れており修復は不可能』


 三叉になっている根本部分が曲がってしまっていて、確かにこれは無理矢理直そうとするとポキっと……っていう感じだと思う。


「キュキュ〜」


「ふむふむ……」


 トゥルー曰く、外海からやってくるモンスターと戦うための武器って感じらしい。

 で、それが壊れちゃってるせいで、今はすぐ逃げられる内海だけで生活してるんだとか。


『修復できないみたいですが、新しく作れそうですか?』


「やってみるしかないかな」


 素材はどうやら軽銀鋼っぽいので、それなら用意できる。

 作り自体もそんなに複雑ではないし、ヤスみたいに打ち出し用のゴムとかないし。


「じゃ、借りていい? これを参考にトゥルー用のトライデントを作ってみようと思うから」


「キュ〜!」


 トゥルーのオッケーももらえたので、今度来る時までにはかな?

 ただ、やることいっぱいあるんだよな……


 ………

 ……

 …


「ただいまっと」


「ワフン」


 神樹経由でさくっと山小屋へと戻ってきた。

 フェアリーズは神樹の周りや、グリーンベリーの手入れをするそうで、スウィーだけが山小屋へと来た。カムラスのコンポート狙いかな? まあ、白竜姫様に送らないとだし、作るんだけどさ。

 それはそれとして、


「レダ、ロイ、ごめんだけど、しばらくはシャルたちと一緒でいい?」


「「バウ」」


「ニャ〜」「「「ニャ〜」」」


 快くオッケーしてくれる二人に、シャルとケット・シーたちが頭を下げる。

 仲良くしてくれて何よりだけど、やっぱりシャルたち用の家を作るべきかなあ。

 いや、そもそも……


『シャル君たちのお家ですか?』


「それもだけど、レダとロイの寝床も倉庫に皮を敷いただけなのが……」


『あ、そうですね』


 ルピも板の間に皮を敷いて直だけど、そろそろ敷布団的なものを用意してあげたくなってきた。いや、うん、俺もだな。


「布団っていうと、中綿が必要なんだよな」


『綿……植物なんですよね?』


「うん。綿花から取れるんだけど……」


 綿花、要するにコットンだけど、栽培はできたはず。

 あとはワタノキっていう木になるやつもあるらしいけど、じいちゃんに話聞いただけだし。


『綿以外はダメですか? えっと、羽毛とか……』


「ああ、羽毛か! いや、エクリューの毛があったじゃん!」


『あ!』


 鑑定して確かめてたはずなのに、すっかり忘れてた。

 さっそく……、いやいや、トゥルーたちのためのトライデントを作らないとだった。


「いや、ごめん。ちゃんと優先順位つけて、一つずつやろう」


『は、はい』


 ………

 ……

 …


「よし、できた」


【高品質な三叉槍】

『片手でも両手でも扱える三叉槍。高品質。攻撃力+31。

 槍:片手、両手持ち武器』


 なかなかいい出来じゃないかな?


『高品質ですね!』


「うん。後はトゥルーに使ってみてもらって、大丈夫そうなら量産かな?」


 量産するとなると、鍛治スキルも上限突破したいところなんだよな。

 今この使ってるハンマーを魔銀ミスリルで作ればいいのかな? あ、ヤットコ・・・・の方がいいか。


『どうしました?』


「いや、鍛治スキルも上限突破したいなって」


 ケット・シーの守護者でまたSPをもらったし、工芸(鍛治)スキルがレアでもSPは足りている。多分、アンコモンだと思うけど。


『いいですね!』


「で、この『やっとこ』を作ればいけそうな気がするんだけど、だったら、トゥルーのためのトライデント作る前にやっとけば良かったなって……」


『あ……』


 まあ、そこまで気にしてもしょうがないか。

 うまく上限突破できるとも限らないし、ダメだったことを考えると、先に作っておくのも悪くない。


「それはいいとして、先に魔銀ミスリルを掘りに行くよ。確かそろそろまた復活してるはずだし」


『はい!』


 魔銀ミスリルは魔導鋼インゴットにも必要だし、掘れる時に掘ってインゴットにしておかないとだよな。


 ………

 ……

 …


【鍛治のスキルレベルが上限を突破しました】

【工芸(鍛治)スキルが獲得可能になりました】


「よし!」


『おめでとうございます!』


 魔銀ミスリルでヤットコを作って、無事、鍛治+1がついたので、それを手に取って上限突破完了。

 上位スキルは工芸(鍛治)スキル、アンコモンで必要SPは4なので、迷わず取得。


「さて……」


 パーンたちに鎌とか、シャルたちに細剣レイピアとか……細剣レイピアでいいんだっけ?


「ちょっと試しに細剣レイピア作ってみるかな」


『シャル君用ですか?』


「うん。昼にミオンが見せてくれた感じの剣でいいと思うんだけどね」


 失敗してもいいように、普通に鉄だけでカンカンと。

 工芸(鍛治)を取ったからか、思い通りになる過程が早まってる気がする。

 遮熱結界の魔法のおかげで、熱さにやられることもなく……


【工芸(鍛治)スキルレベルが上がりました!】


 さっそく、出来を鑑定してみる。


【高品質な細剣】

『片手持ちの細剣。高品質。攻撃力+29。

 剣:片手持ち武器』


「まあまあかな? でも、命名がどうこうとかないんだなあ」


『鍛治は作ったものに名前を入れるとそうなるらしいですよ?』


「名前? ああ、銘を打てばってことか!」


 木工は……教会に飾ったやつは彫刻刀で名前彫った記憶があるな。

 料理はそもそもそういうのは無理だけど、なんか別の判定があるんだろうなあ。


「まあいいや。もっといいやつ作った時ってことで、そろそろ時間かな?」


『はい。もうすぐ10時半です』


 ということは、そろそろルピたちが来るはず。


「ワフ!」


「おかえり」


 ルピを先頭に、ラズを肩に乗せたシャル、ケット・シーたちが続き、最後にレダとロイが入ってきた。

 この島に住むということなので、まだ見てない南側をぐるっと。俺が鍛治やってる間はルピたちも暇するだろうし。

 ちなみに、スウィーたちフェアリーズは、教会裏でパーンたちのお手伝い(つまみ食い)に行っている。


「シャル。これ、どう?」


「ニャ!?」


 作ったばかりの細剣を渡すと、驚きながらもそれを恭しく両手で受け取る。

 そして、


「ニャニャ」


 試しに使ってみるのかな?

 ちょっと周りとの距離を取ってから剣を胸の前に立てる。

 なんかかっこいいな……


「ニャ!」


「おお!」


 軽快なステップからの鋭い突き。そして流れるような斬り。

 体が柔らかいからか、本当に踊ってるような見事な剣舞を披露してくれるシャル。


『すごいです!』


 思わず俺もケット・シーたちも拍手!

 これは、もっといい細剣を作ってあげないとだなあ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る