翡翠詩吟
第359話 かわいい乱入者
『え? 大変なことですか?』
<はいー。ちょっとスタジオに行きますねー>
ヤタ先生が大変なことって言うぐらいだから、相当なことが起きてる?
かといって、俺がここからどうこうできる話でもないんだろうし、それよりもまず白竜姫様をちゃんと家に帰さないとだよな。
「ワフ」
「ん、どうしたの?」
ぼーっとしてた俺をルピが呼び、あっちと向いた方向は教会の方。
教会の正門とそこから屋敷までの、白竜姫様も走ってきた道が見えるんだけど……
「あー、アズールさん来てくれたのか。良かった……」
白竜姫様が抜け出して(?)来たのに気づいて追いかけてきたんだろう。
足取りは急いでる風でもないけど、大きく手を振ると気づいてくれたっぽい。
「ミオンごめん。ヤタ先生来たら、大変なことっての聞いておいてくれる? 俺、アズールさん来たし」
『任せてください!』
ということなので、あっちはあっちで任せておこう。
で、アズールさんは、
「やあやあ、ごめんね。急に来ちゃったけど……うん。本当にごめんなさい」
島のおいもスティックを美味しそうに食べている白竜姫様を見て、苦笑いしつつ深々と頭を下げる。
「あ、いえ、大丈夫です。アージェンタさんは死霊都市に行ってくれてるんですよね。それはこっちがお願いしたことなんで。
それにしても……白竜姫様ってよく抜け出すんですか?」
「最近、元気になってきたからね。喜ばしいことだけど周りが大変でね……」
今日もお昼寝の時間のはずが部屋から抜け出してたらしい。で、大騒ぎになって、慌ててアズールさんに相談にきたんだとか。
「ここに来たって良く分かりましたね」
「この島への転移魔法陣がある方へ飛んでいったっていうし、そっちに行ったら行ったで、姫様を追いかけていいものか大騒ぎになってるしでさ……」
「なるほど」
「で、追いかけてきたところで、ニーナさんに聞いたってわけ。勝手に聞いちゃってごめんね」
「それは全然」
これでまあ、白竜姫様も竜の都にちゃんと帰れるだろうし一安心。
あとはおみやげを……さすがに今日は作る時間はもうないか。
「姫〜、そろそろ帰らないとアージェが怒るよ」
「は〜い」
白竜姫様も満足したっぽく、大人しくアズールさんと手を繋ぐ。なんか、昔の俺と美姫みたいだ……
「じゃ、今日はごめんね。あとでアージェンタからも手紙が届くと思うけど、何か欲しい本とかあったら言ってね?」
「あ、いえいえ、そんな気にしないでください」
正直、いろいろ貰いすぎてて「いいの?」って気がしてるし。
「またね〜」
「〜〜〜♪」
お互い見えなくなるまでバイバイしてるスウィーと白竜姫様。
いつの間にか仲良くなってるよなあ。最初は睨み合ってたような気がするんだけど……
「ふう……」
『ショウ君。いいですか?』
あ、合成音声に戻ってる。先生が来たからかな。
「えっと……、うん、オッケー。何があったの?」
『はい。最初から説明しますね……』
まず、俺たちのライブより前に始まってた死霊都市での交流会は順調にスタートし、リヴァンデリ所属の料理プレイヤーさんたちの作る料理に竜人族さんたちも大満足だったとのこと。
そのイベントを聞きつけた他のプレイヤーさんたちも集まり、賑やかだけど和やかな感じで進んでいたそうだ。
「そっちが大荒れとかじゃなくて一安心だけど」
『はい。それで、私たちのライブが始まってからですね……』
既にセーフゾーンになってるので、俺たちのライブももちろん見れるのはいいんだけど、どうやら俺が作った料理を即席で再現するお祭りみたいなことになってたらしい。
まあ、ピザとかならすぐ作れるだろうし、それは全然いいんだけど、
「それで揉めたの? 俺は全然気にしないけど」
『いえ。再現といっても完全には無理ですし、出来上がった料理にすごいバフがついたりもしなかったそうなので……』
「あー、まあ、そりゃそうか。薬膳マスタリーのおかげ? いや、島のみんなの手が加わった材料使ってる方が大きいか」
『それで最後に歌うところで、向こうでも同じ曲を演奏して歌ったそうです』
いろんな楽器を持ったプレイヤーが参加したそうで、それはそれは盛り上がったんだとか。
うん、まあ、それも別にいいんだけど。
「えっと、それから?」
『演奏が終わったところで、猫の妖精さんがたくさんやってきて……』
「は?」
しかもその数100人以上。
いきなりの登場に現場は大混乱っていう……
「猫の妖精ってケット・シー?」
『ショウ君、知ってるんですか?』
「うん、まあ知識だけ」
ゲームだと結構出てくるし、セルキーやウリシュクなんかよりずっとメジャーな気がするし。
『猫さんたちはお腹が空いてたみたいで、今は交流会で出ていた料理を食べてるそうです』
「あー、じゃあ、今はちょっと落ち着いてるんだ」
『はい。みなさん可愛い猫さんに興味津々なんですが、あまり構うと嫌われるだろうって』
猫だからなあ。
構いすぎると嫌われるっていうか、距離取られそうだよな。
「じゃあ、交流会は続行中?」
『です。ただ、部長とセスちゃんは猫さんたちへの対応に追われてます』
「なるほど」
『でもー、意思疎通がうまくできなくてー、苦労してるみたいですねー』
とヤタ先生。
ケット・シー、やっぱり「ニャー」としか言わないらしい。というか、妖精はどれも人の言葉は喋らないのかな。
「そもそもケット・シーたちはどこから来たんだろ」
『それも今聞いてるところですね。南側から来たそうですが、街の外から来たわけでもないみたいですし』
『それってー、転移魔法陣の可能性はないですかー?』
「『あ!』」
ゲームドールズの人たちが管理してるって話だったけど、誰も来れないようにしてあったのかな?
今すぐベル部長やセスに伝えたいけど……、いや、セスなら気づいてるか?
『部長とセスちゃんが、ナットさん、ポリーさんと話してますね。あ、ノームくんが混じってます』
「ああ、ノームを通して少しでも通訳できればって感じかな?」
『ショウ君がスウィーちゃんを通して話してたみたいにですね』
「そそ」
ナットのやつ、ノーム連れてきてたのか。
まあ、死霊都市のワールドクエストの頃から来てたから不思議でもないか。
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