第342話 まわりがどんどん動いていく

「トゥルー、足元気をつけてな」


「キュ〜」


 そのままみんなで灯台へ。

 と思ったけど、レダとロイには下で待機してもらってる。階段上はそんなに広くないので……


「これです」


 階段を上ったところ、真ん中に据えられている大きな盃のようなものが、確か『古代魔導灯籠』だったはず。


「ああ、これは見たことあるよ」


「あ、そうなんです?」


「えーっと、僕やアージェンタが転移してくる転移魔法陣の先が竜の都にあるのは知ってるよね?」


「あ、はい。聞いてます。竜の都の北の方でしたっけ。なんか半島の先にあるって」


「そうそう、そこにも灯台があるんだけど……」


 この島の大型転送室に不要になったものを送ってくる施設。要するに不燃物の最終処理場みたいな場所で、昔はあちこちからそういうものが運び込まれてたらしい。

 で、当然、船で運ばれてくるものもあったらしく、そこには港もあって、当然、灯台もという話。

 さっきの『使ってない小型魔導艇』も、そこから持ってくればいいしっていうことらしい。


「なるほど。それで、これってどういう機能があるんです?」


「簡単にいうと魔導艇に対しての目印かな。この灯台のあかりが見えてれば、魔導艇はそれを目印に自動で航行できるらしいよ」


「へー……って、らしい?」


「本にそう書いてあったから」


 と笑うアズールさん。

 使ったことないし、使う必要もないので、それを知ってるのは知識欲があるアズールさんぐらいらしい。なるほど。


「キュ〜?」


「クルル〜?」


 うん、トゥルーたちが暇そうにしはじめたし、今日のところは終わりにしようかな。


「魔晶石にマナを入れれば動きそうだけど?」


「今は魔導艇もないですし、あっても島の外に出るつもりもないんで」


『そうですね』


 と女神様からも同意が得られたので、灯台はこのまま放置決定。

 転移魔法陣が手に入ったら、置いておく場所って感じかな。神樹もあるし、転移の魔法を覚えればいいし。


「じゃ、下りましょうか。これからご飯にするんで、アズールさんも良かったら」


「お、ラッキー! あ、姫様用のおみやげとかもらえる? 僕だけ食べて帰ったりしたら……」


「あ、ええ、そのつもりでいたので」


 パププリンの作り置きを用意してあるし、それを持って帰ってもらおう。


 ………

 ……

 …


「いやー、これ美味しいねー」


 アズールさん、オランジャックのエスカベッシュ(アジの南蛮漬け)にハマる。

 美味しく食べてくれて良かった良かったなんだけど、普段もっと良いもの食べてそうなんだけど……


「普段ってこういうの食べないんです?」


「うーん、魚はあんまり食べたことないね。だって、焼くぐらいしか調理法知らないし」


 だそうで、普段の食事とかもあんまり凝ったものとか出ないらしい。

 たいていは肉と野菜を『焼く』か『煮る』かで、それにパンがつくぐらいだそうで。


「料理とかってどうしてるんですか?」


「竜人族がやってくれてる感じかなー。そうそう、白竜姫様がショウ君の作った玉子の料理が好きらしくて、その作り方とかって教えてくれる?」


「ええ、いいですよ」


 スパニッシュオムレツならそんなに珍しい材料はいらないはず。

 肉と野菜はあるみたいだし、玉子がないってこともないだろうし。

 あ、いや、ひょっとして……


「調味料とかってそろってます?」


「ごめん。僕、そういうのよくわからない」


「ですよね!」


 料理しない人に聞いてもしょうがないんだよな。

 調味料を渡すだけだと加減が難しいし、大さじとか小さじとか……あんまり気にせずやってるしなあ。


「ショウ君を竜の都に招待して、竜人たちに料理を……」


「いやいや、俺じゃなくても。本土でも知ってる人たくさんいますし、そっちの方が食材集めるのも早いと思いますよ」


「え、そうなんだ。じゃ、バーミリオンに連絡して……いや、でもなあ……」


 と悩むアズールさん。

 ベル部長、いや、白銀の館の誰かを紹介した方がいいのかな?


【古代遺跡が発見されました!】


「『え?』」


「ん? どうしたの?」


「あ、えっと、どこかで古代遺跡が見つかったって天啓が……」


 その言葉にちょっと渋い顔をするアズールさん。


『調べてきますね』


 ミオンの言葉に小さく頷く。

 昨日の夜、無人島スタートから建国した話があったし、そこのような気がするんだよな。


「はあ……、名残惜しいけど今日は帰ることにするよ。新しく古代遺跡が見つかったって話ならアージェンタに呼び出されると思うし」


「そうなんです?」


「アージェンタは真面目だからねー。はあ……」


 とまたため息。

 フォークとお皿を置いて、さっそく帰るっぽい。


「あ! アズールさん、おみやげ!」


「ああ、ごめんごめん」


 インベントリからパププリンの詰め合わせ、端材で作った木箱に入れてあるやつを出して渡す。

 転移の魔法で帰るんだろうし、手提げ袋みたいなのはいらない……よな?


「じゃ、今日はありがとう。ニーナさんにもよろしくね」


「はい。また白竜姫様やアージェンタさんも一緒に」


「そんなこと言うと、姫が明日行くとか言い出すから黙っとくよ」


 そう答えて、灯台の方へと走って行く。

 転移の魔法を使うのかと思ったら、高く飛び上がってドラゴンの姿へと戻り、そのまま東の方へと飛び去っていった。


「えー……」


 なんで、転移の魔法を使わないんだろう。

 どういう感じなのか、ちょっと興味があったんだけどなあ。


「キュ〜?」


「大丈夫だよ。用事ができて帰ったんだって」


 トゥルーが心配そうにしてるので、頭を撫でてそう説明する。

 ルピたちはアズールさんが飛び去った方向を見てて、スウィーは……カムラスのスムージーに夢中だな。


『戻りました』


「あ、おかえり、ミオン。アズールさんはアージェンタさんから呼び出しがあるだろうって帰っちゃったよ」


『そうなんですか? 古代遺跡が見つかったのは、ラムネさんの島だという話ですし、急ぐ必要もなかったような……』


「あ、やっぱり」


 建国宣言をしてスタート地点に選べるようになったからか、新規プレイヤーがそれなりに増え、廃村を立て直しつつ周囲の探索を進めてたらしい。

 で、洞窟を見つけて、そこから古代遺跡に繋がってたっていう。


「俺と同じパターンなんだ」


『みたいです』


「あ、ひょっとしてライブしてた?」


『はい。ただ、ラムネさんは探索というよりは……』


 興味のある方に行って、ファンがそれを追いかけて護衛? そんな感じだったらしい。

 想像はつくけど……ファンの人もそれで楽しいのならいいのかな。

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