第326話 ハイスコアボーイ&ガール

『ラ〜ラ〜ラ〜ラ〜♪ ……』


 ミオンの甘い歌声が響き終わり、最後の小節まで無事フルコンし終えたところで、


【演奏スキルのレベルが上がりました!】

【演奏アーツ<自動演奏>を習得しました!】

【古代民謡<波のまにまに>を習得しました!】


 ん? アーツ? 自動演奏はわかるけど、曲もアーツみたいな扱い?


<はいー。終了してますよー>


 ヤタ先生の声でライブ中だったことを思い出し、いや、終わったんだよな。


『お疲れ様でした!』


「うん、お疲れ。ミオンの歌、すごく良かったよ」


『は、はい……』


 また合成音声に戻すの忘れてるけど、言わない方がいいよな。


「スウィーやトゥルーたちもね。ルピたちももちろん」


「〜〜〜♪」「キュ〜♪」「ワフン」


 俺は音楽とかよくわからないので、前の時よりも良かったとか悪かったとかは全然。

 ただ、みんな楽しんで歌ってたし、それでいいかなって。


『ショウ君。レベルが上がってアーツと?』


「うん。自動演奏はわかるんだけど、曲もこれってアーツなのかな?」


 こういう時は選択してみればわかるはず……


【波のまにまに:自動演奏可能】

『古代民謡の海の歌。15分間、水泳+1、潜水+1』


「なるほど。スキルレベルにバフかかるんだ」


『すごいです! あ、これでスキルの上限突破とかできるんでしょうか?』


「どうだろ。まあ、俺だけだとなんともだし、ベル部長とか『白銀の館』の人に聞いてみた方がいいかも?」


 スキルを見ると、水泳と潜水は7になってて、たしかに+1されてるっぽい。

 これってセルキーたちも? ルピたちやスウィーたちは? いや、プレイヤーじゃないから、そもそもスキルがあるかどうかも不明だしなあ。

 演奏は俺より詳しい人が視聴者さんにいたみたいなのでという話をしていると。


<計算が終わりましたー。今日はすごかったですねー。投げ銭の合計額が今までの最高を軽く超えてましたよー>


「え?」


『軽く、ですか?』


 飯テロにワールドクエストの1位、そして、最後にミオンの歌でまたすごいことになったらしい……


<ではー、私はそろそろ落ちますー>


「『ありがとうございました』」


 投げ銭のことは終わってからでいいか。

 まずは片付け……はセルキーたちがやってくれてるなあ。あ、そうだ!


「トゥルーちょっといい?」


「キュ?」


「明日にでも、セルキーの里というか集落に遊びに行ってもいい?」


 トゥルーが顔をぱあっと明るくして、


「キュ〜!」


 と抱きついてくれた。

 これはオッケーってことでいいんだよね?


「〜〜〜♪」


 スウィーを見ると、いつものサムズアップ。


『行くのは明日の放課後ですか?』


「ううん、明日の夜のつもりだけど、どうやって行くかっていう問題がね」


 一応、考えてはあって、俺とルピが乗れる筏を作るつもり。スウィーはフードに入ってもらってれば、飛ばされることもないかなと。

 フェアリーズはレダとロイに護衛してもらってお留守番。カムラスのお手入れをお願いしておこう。


『スウィーちゃんも一緒に行くんですね』


「そのつもり。だって、置いてくっていうと……」


「〜〜〜!」


 目の前で大きくバッテンを作るスウィー。

 俺とルピだけでってのも考えたんだけど、ウリシュクたちの集落に神樹があったし、セルキーのところにもあるなら、スウィーにいてもらった方がいい。

 妖精の道だったかな。あれってスウィーにしか使えないけど、知らない神樹にいきなり行けるわけじゃなさそうだし、多分だけど登録しないとダメなんだろう。


『なるほどです。明日の放課後は筏作りですね』


「うん。今日のうちに木材の調達ぐらいは終わらせとくよ」


「キュ?」


「っとごめん。先に引いてもらえるか確認しないと」


 あんまり大きな筏を作るつもりはないけど、小さいと安定が悪いし、四畳半ぐらいの大きさかな。

 ロープをくくりつけて、それをセルキーたちに引っ張ってもらうつもりなのを説明する。


「キュキュ!」


 胸を張って「まかせて!」って感じで胸を張るトゥルー。

 じゃ、さっそく筏作り用の木材を調達しよう。せっかくだし、カムラスの木の辺りに手を入れて、増やしてもいいかもしれない。


 ………

 ……

 …


『ショウ君。部長とセスちゃんがスタジオに来たいと。いいですよね?』


「あー、うん、おっけ」


 ミオンが歌ったことかな?

 イメージキャラの件、ワールドクエストの終わりと被ってちゃんと話せてなかったし、ベル部長とセスには伝えておくか。


『兄上! 見事な演奏だったの! ミオン殿の歌声も素晴らしかった!』


『ホント、びっくりしたわ。でも、ミオンさんは元々いい声だったものね』


『あ、ありがとうございます……』


 俺の演奏はアシストオンの音ゲーをフルコンしただけなので、見事っていうのは……ちょっと違う気がしなくもない。

 それより、ミオンの歌が上手いことの方が重要。


「ライブの歌と演奏の件で何かありました?」


『いえ、何かあるわけじゃないのだけれど、ヤタ先生と相談はしてるのよね?』


 ベル部長が心配してくれたのは、歌えるバーチャルアイドルって認知されると、本格的なバーチャルアイドル事務所からの勧誘が〜って話。

 ああ、ベル部長って、ミオンが母親の芸能事務所UZUMEに所属してることを知らないのか。ミオンがそのあたりのことを説明して……驚いてる驚いてる。


『はあ……ショウ君は知ってたのよね?』


「いやまあ、セスと一緒にミオンの親御さんに会いましたし」


『すいません。もっと前に私の方から話しておくべきでした』


 ミオンの家庭のことになるし、俺やセスの口からは言えないからなあ。とはいえ、もうちょっと前に気づいとくべきだったなと。


「えっと、衣装の話とかもした方が……」


『あ、はい』


 ミオンに翡翠の女神の衣装を用意しようと思ったら、なぜかイメージキャラの依頼が来た件について。

 ベル部長が予想通りフリーズしてるっぽいな。さもありなん。


『ところで兄上。質問があるのだが?』


「ん? どした?」


『兄上のおる島の教会だが、地下室があるのではないか?』


 あー……


「あるけど、なんでそれ気づいたんだ?」


『ふむ。やはりのう……』


 セスの話だと、死霊都市南側の教会も島にあるのとそっくりなんだけど、そこに地下室があるのを見つけた人がいるそうだ。

 で、その地下室から都市の中心部へと続く道があって……っていう、要するに俺が見つけたのと同じ通路があったらしい。

 途中にある制御室は非常用の魔晶石が無くてダメそうだという話も。


「戻ったらもう一度確認してみるけど、島の教会の地下室はただの物置だったぞ」


 等身大の名も無き女神像が置かれてたけどな!


『ふむ。まあ、島の古代遺跡は既に兄上の管理下にあるゆえ問題なかろう』


「俺が口出しできる話じゃないけど、それって放置してて大丈夫なのか?」


『現時点でどうこうなるものではないとのことよ。南側の教会はプレイヤーが、北東側の教会は魔族が……』


「北西側は竜族が押さえてるよ」


『うむ』


 これもうセスにはバレてると思った方がいいかな……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る