IRO運営(4):ワールドクエスト終了
大画面エアディスプレイに映るのは、死霊都市ワールドクエストのラストバトル。
前衛のキメラスケルトンたちが倒され、小細工を弄していた子爵級悪魔が倒され、残るリッチに対して飛び道具の飽和攻撃が行われている。
そして……
「オワタ……」
机に突っ伏したミシャPがうめくようにそう呟く。
「すごいですね。一時はどうなるかと思いましたが、ほぼ予定通りのスケジュールで終わりましたよ」
「ほぼ予定通り(ただしスケジュールに限る)」
ミシャPの抵抗を無視し、手元でランキング結果を確認するGMチョコ。
1位と2位のスコアが2桁違う現実からは、そっと目をそらした。1位でも100位でも、褒賞SPは変わらないので……
「なんだかんだ、ちゃんと教会全部に女神像も置かれたし、攻略としては間違ってなかったじゃないですか」
「一つだけ女神の聖域の威力が想定外な件」
「本当はもっとあとになって飾られるはずの、真なる翡翠の女神像ですからね」
本来なら、魔王国アップデートがあり、さらに次の竜の都アップデートがあってから登場するはずの等身大の名も無き女神像。
ショウがいる島から運ばれたそれは『真なる翡翠の女神像』となって、死霊都市中心部を覆い尽くした。
運営のロードマップにすら存在しないエンドコンテンツを持ち込まれた結果、もっと手こずる設定のはずのアンデッドラッシュが、かなり残念な結果になってしまったのである。
「キメラスケルトンもリッチも、本当はもっと苦労するはずだったのに……」
「14時開始で22時に終わるぐらいの想定でしたよね」
ラッシュをなんとか夕方までに撃退し、夜からラスボス攻略というイメージだったはずだが……
「終わりよければ全て良し!」
「涙拭けよ」
「ひどい!」
そんなしょうもないやりとりはいつものこと。
GMチョコがタブレットを操作し、
「今回のワールドクエストのPV案がAIから上がってるので確認を」
「はーい」
さっそく再生されるPVを眺める2人だが……
「これダメ」
「ですねえ」
AIが撮れ高スコアの高いシーンを効果的につなげてはいるのだが、教会で等身大の名も無き女神像を、真なる翡翠の女神にするショウが映っている。
ゲームの特異点である彼にこれ以上触れることは避けたいし、本来ならずっと先になって現れるはずのオーパーツを現時点で表に出したくない。
「そういえばミオンちゃんの事務所さんからは、まだ返事来てないよね?」
「昨日の今日ですからね」
「うーん……」
考え込むミシャPに、GMチョコがもう一つ別のPV候補を再生する。
「こっちはNOショウ君バージョンです。撮れ高スコア的にはさっきの半分ぐらい」
再びPVを眺める2人の表情が、外人4コマばりにスンとなる。
「微妙オブ微妙……」
「いや、普通はこんなものかと。今までの撮れ高が良すぎなんですよ」
「島ぇ……」
「スコア上げるなら、ショウ君の島シーンに限って入れるとかですかねえ。当たり障りのないあたりを選んで」
そう言われ、ずらっと並べられた島PV断片のサムネイルを一つずつ確認するミシャP。
一方のGMチョコは急ぐこともないと別の要件を確認している。
「魔王国アプデは予定通りで問題ないですか?」
「うん、予定通りで」
「了解です。じゃ、次のワールドクエストも予定通り秋口ですね」
夏休み開始と同時に一大イベントというのが従来のネットゲームお約束だが、IROは最初から魔王国アップデートをこの期間にあてている。
それに加え、
「死霊都市はどうなりそう?」
「竜族はショウ君のために教会も転移塔も開放しないのは確定。魔王国はアプデと同時に開放して使用料を取る方針ですね。これは魔王国の介入が入った時点で確定ルートです」
「プレイヤーさんたちは?」
「夜に会議するっぽいですが、果たして一月でうまく纏まるでしょうかねえ」
「ふむ……」
もともと死霊都市の今後については、プレイヤーとNPCの動きに任せている。
一ヶ月後の魔王国アップデートが行われる時点でまだ揉めているようなら、帝国からNPC貴族を派遣して、竜族・魔族・人族の共同統治で落ち着かせる予定だ。
死霊都市はどこの国にも属さない交流都市として生まれ変わることになる。
「チョコちゃんの予想は?」
「アンシアあたりが傀儡を代表にするんじゃないかと」
「まあ順当よね。政治なんてめんどくさいことを喜んでやるプレイヤーは少数だし」
そう答えつつもPV候補チェックを続けていたミシャPだが、
「よし! これ先頭に入れましょ!」
「あー、これならOKですかね」
「これでもう一度繋ぎ直させて、出来上がったら見せて。んで、問題なければ公開しちゃいましょ。魔王国アプデの日付も出しておk」
「はいはい」
GMチョコがタブレットにその指示をまとめ、担当AIへと送る。
「さて、もう一つ重要な案件があります」
「夕飯何にするかですね」
「イエス!」
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