第291話 女神の歌声はいつかに

「キュ〜♪」


「いっぱい食べた?」


「キュ!」


 隣に座り、元気よくそう答えるトゥルーの頭を撫でてあげる。

 王子様ってことは、そのうち王様になるんだし、もっと大きくならないとだよな。というか、王様も王妃様もいないよね? 今、トゥルーが一番上っぽいし……


【ガフガフ】「てえてえ……」

【ナーパーム】「トゥルー君とパーン君は会ったことないですよね?」

【ヒエン】「セルキー、本土に来て……」

【グルミン】「手触りはふわふわ? もこもこ?」

 etcetc...


 パーンたちはそのうちこっちに連れてきたいなって思ってはいるけど、あくまで本人たちが希望したらかな。

 転移魔法陣が無事確保できれば、わざわざ古代遺跡の中を通ってくる必要もないだろうし。


『トゥルー君の住んでるところにも行ってみたいですね』


「そうなんだよね。これ、今日、セルキーたちからもらったんだけど」


 インベントリからオリーブを取り出して、カメラに見えるように。

 オリーブは本土でも手に入ってるはず、だよな?


【ドンデン】「おお、オリーブ!」

【サテナー】「オリーブオイル作れるね♪」

【イナカヤマ】「塩漬け、オイル漬けも美味しいよ〜」

【ワショー】「燻製にしよう!」

 etcetc...


 あー、塩漬けとか燻製か。燻製はすぐできそうだし、試してみていいかも?


『オリーブオイルは絞るんですよね?』


「うん。絞って、果汁と油が分かれるのを待てばいい……ですよね?」


【ニクス】「そうそう。簡単♪」

【フォイフォイ】「素材加工のレベル高いショウ君なら余裕っしょ」

【ストライ】「ログアウト前に仕込むといいよ」

【ロサンズ】「回転の魔法で遠心分離!」

 etcetc...


 あー、遠心分離って方法もあるのか。

 ちょっと試したくなるけど、こぼれない容器とか作らないとかな。


『パーン君たちに頼むのもいいかもですね』


「だね。あ、そうそう、崖の上のパーンたちの集落に遊びにいったんだけど……」


 新たな野菜をゲットしたことで、飯テロ、スイーツテロな話でコメント欄が盛り上がる。

 今回はあそこでゲットした野菜はあんまり使わなかったけど、次のライブで何か新作を披露したいところ。

 前回からあったことはだいたい話したかなと思ったんだけど、


『ショウ君、ルピちゃんのバンダナの件を』


「あ、そうだった。これがまたちょっとやらかしちゃった感じで……。ルピ」


「ワフン」


 ルピを膝の上に乗せて、バンダナの鑑定結果を見せる。

 亜魔布のMP回復もそうだし、仙人笹染めの悪疫耐性も初のはず。


【マッチバーリ】「亜魔布って何!?」

【サロンパ】「悪疫耐性???」

【リーパ】「これは間違いなくやらか……すごいですわ!」

【デイトロン】「<これはすごい!:10,000円>」

 etcetc...


「亜魔布はアージェンタさんにもらったやつで、仙人笹のポーションを使って染めました。あ、媒染液は銅のやつで、これも自作っすね」


 ざっくりとした説明だけど、染色の手順なんかは詳しい人がいるみたいで、その話に乗っかりつつ補足説明を。

 グレイプルビネガーで作った媒染液だから、色がちょっと赤味がかってるんじゃないかとか。

 笹ポじゃなく他のポーションで試したらどうなるのかとか、いろいろとネタをもらえたので、レダとロイのバンダナはそっちで試そうかな。

 そろそろ古いポーションを処分して、新しく作り直したほうがいいかもしれないし。


『あ、そろそろ時間です……』


「りょ。じゃ、今日はこの辺でかな。何事もなく終わって良かった……」


 思わずそうこぼすと、コメント欄が苦笑いで埋まる。

 大事だらけだったらしい……。そうかも。


『それでは今日はこの辺で。またお会いしましょう! さようなら〜』


「また〜」


「ワフ〜」「〜〜〜♪」「キュ〜♪」


【マッソー】「<のんびりお疲れ〜♪:500円>」

【キンコジ】「<ナイスのんびり〜:300円>」

【ワショー】「<みんなおつおつ:500円>」

【ブルーシャ】「<今日も楽しかった!:1,000円>」

 etcetc...


***


<はいー。配信終わりましたよー>


『お疲れ様です』


「お疲れっす」


 あたりを見回すと、セルキーたちが食事の片付けをしてくれてて、手伝わなきゃなと。なんだけど、


「キュ!」


「え?」


「〜〜〜!」


 目の前にホバリングしてきて、バッテンを作るスウィー。


『お仕事だから、取っちゃダメなんじゃないですか?』


 ああ、そういうことか。

 うーん、ご馳走した分はセルキーたちが取ってきてくれた魚だし、野菜とかの分はオリーブもらったしなあ。

 ま、ライブ終わったし、ちょっとゆっくりさせてもらうか……


「ありがとな」


「キュ〜♪」


 撫でてあげるたびに思う、トゥルーの着てるアザラシの着ぐるみ、すごくふわふわだよなあと。


『ショウ君、一つお願いしていいですか?』


「ん? 何?」


『翡翠の女神の木像。小さい方を持ってるなら、トゥルー君に譲ってあげればと』


「ああ、そうだ。俺もそう思ってたんだった」


 工芸アーツの自作複製があるし、セルキーたちにと思ってインベントリに入れてたはず……


「あったあった。これをえーっと、トゥルーたちの住んでるところに飾って欲しいんだけど……」


 気持ちを伝えるくらいなら平気だけど、ちょっと込み入った話はやっぱり通訳の女王様にお願いを。


「〜〜〜?」


「キュ? キュ〜♪」


 翡翠の女神の木像をそっと差し出すと、それを両手で受け取って満面の笑みを浮かべてくれた。

 そのまま木像を大事に抱えて、他のセルキーたちに見せに行く。


『喜んでもらえて良かったです』


「だね。トゥルーだけじゃなくて、みんな嬉しそうだし」


 片付けを終えたセルキーたちが次々と集まり、トゥルーを囲んですごく盛り上がってるっぽい。

 そういえば、セルキーたちってそもそもどの女神を信仰してるんだろ? 喜んでくれてるし、翡翠の女神であってそうな気はするけど。


<ショウ君ー、いいタイミングですよー>


「え? 何のです?」


『笛、演奏しましょう!』


「あー、うん」


 もうライブは終わってるからいいか。

 トゥルーたちにも聞かせることもあるかなって思ってたし。

 魔導神楽笛を構えて、アシストは当然オンを選んで選曲を待つ。


【古代民謡<波のまにまに>が選曲されました】


 すごいなあ。このゲーム、いくつ曲用意してるんだろ……

 始まりはちゃぷちゃぷと小さな波のイメージで。次第に荒れて大波がうねりだす。


「「「キュ〜キュ〜♪」」」


「「「〜〜〜♪」」」


 セルキーたちが歌い始め、フェアリーたちが踊り始めると、あっという間にお祭り騒ぎに。


<いいですねー。ミオンさんも歌いましょー>


『は、はい!』


 え? マジで? とか思ってるうちに、ミオンが合成音声ではなく、生声で歌い始める。


『ルルル〜♪』


 うわ、めっちゃうまい……

 ボイストレーニングってやっぱりプロの指導とか受けてるのかな。


「ワフ〜」「「バウ〜」」


 ミオンにつられて、ルピにレダとロイも合唱し始める。低音が入って、一気に合唱(?)っぽくなった感じ。

 荒れていた波が次第に収まり、やがて凪となって曲も終わる。


<とても良かったですよー>


 ヤタ先生が拍手と共にそう言ってくれて、ほっとする俺。

 みんなうまいのに、俺だけギリギリ演奏できてる感がすごい……


「ふう。ミオンすごく歌うまいね」


『あ、ありがとうございます。ショウ君のお陰です……』


 合成音声に戻し忘れてるのか生声のままだけど、言わない方がいいよな。

 少しずつ慣れていって、普段から生声でライブできる日が来るといいんだけどなあ。

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