IRO運営(3):ワールドクエスト進捗確認

 GMチョコは挨拶もせずに部屋に入った。

 机に突っ伏しているミシャPに「やっぱり」という一瞥をくれてから、ローテーブルにタブレットを置く。コーヒーを二人分淹れるためだ。


「ボスケテ」


 そうポツリとこぼすミシャPに「ボス決して走らず(以下略)」と言いたくなるのを、ぐっと堪える。


「ボスあなたでしょ……」


 そう返すとピクっと反応してから、


「チョコちゃんが冷たい……」


 とぼそっとつぶやいた。

 GMチョコは「めんどくさい人だ」という顔で、コーヒーの一つをミシャPの机に置く。


「良かったじゃないですか。プランBでワールドクエストが予定のスケジュールに戻りましたよ?」


「誰も……誰もプランBを実行していないのである!」


「いや『ねぇよそんなもん』は実行されたかと」


 未来の覇権ギルドが死霊都市攻略の前線拠点を独占し、ワールドクエストの進捗は芳しくないままだったが、運営としては特にテコ入れをという話にはならなかった。

 その理由としては、ワールドクエスト自体は用意されたシチュエーションであり、それをどう進めるかはプレイヤーにゆだねている点が大きい。

 よっぽどのことがない限り、プレイヤーを誘導しない方針があり、かつ、新規プレイヤーも順調に増加中。

 ワールドクエストは様子見しつつ、自分が好きなことに専念&楽しんでいる状況を無理に引き剥がして……とはしたくなかったのもあった。

 それに加え、


「氷姫アンシアが魔王国とパイプを作ったおかげで、魔王国側ルートが夏アプデ前に開いたし、これで徐々にって思ったんだよね」


「あれも予想外でしたけど、おかげで帝国側ルートの独占も早めに無くなりましたし」


 ソファーに腰掛け、コーヒーをすするGMチョコ。

 やっと起き上がったミシャPがコーヒーを手にし、両手でカップを包み込む。


「うん。だからこう、あとはきっちり調査して、いい感じに攻略法を見つけてもらってですね?」


「いい感じに」


「だって、ちゃんと『区画を浄化』の調査してた人たちいたし!」


「それだって島で『名も無き女神像』の存在がバレてたからですけどね」


「ぐぅ……パタリ……」


 とまた突っ伏すミシャP。


「というか、島からスタジオへの配信止めることできたのに、止めなかったんですよね?」


「いや、さすがにそれはあの2人に悪いし……」


 申し訳無さそうな顔を上げる。

 島にいるショウから配信スタジオにいるミオンへの配信は、ゲーム側の配信機能を使っているので、それを止めることも不可能ではなかった。

 ただ、そんなことをしても「なぜ止めた!」的な後の祭りになるだけだし、なによりあの2人は何も悪くないのだ。


 全てが、完全に、偶然であり必然。

 白竜姫がショウの甘味を気に入り、彼に対する竜族の好感度が上限MAXなこと。

 女神像が欲しいと言われたアージェンタが『名も無き女神像』を渡したこと。

 それがマルーンレイスとの戦闘で『翡翠の女神像』になったこと。

 竜族やその配下の者たちが『名も無き女神像』をうまく扱えなかったとき、その相談先は当然……


「最初からアーカイブのロックとかしなければ良かったと思いますよ」


「はい、今後はしません。というか、あの子にかすかにでも作用を加わえると、それがとんでもない方向と威力で打ち出される……」


 メガネを外して右手で眉間を揉み、左手でカップを手に取る。


「カオス理論のかたまりみたいな子ですよね」


「普段、どういう学校生活してるのか気になるレベルのね……」


 ごく普通の学校生活を送っていることを当然2人は知らない。

 少なくとも見た目は、だが……


「で、2人のライブのファンからもすっごい苦情来てますよ。なんでワールドクエスト不参加扱いなんだーって。あ、IROしてない人から六条グループ本社の方にも来てるそうなんで……」


「うぇぇ、後で怒られに行ってくる……。で、どうするかの案もあるんでしょ?」


「ええ。素直に間違いを認めて、離島でも参加扱いにする基準を明確にしましょう。

 ・ワールドクエストに関連するNPCと面識がある。

 ・ワールドクエストに関連するアイテムを所持している。

 どっちか満たしていれば参加扱いでいいかと。彼は両方満たしてますけどね」


 そう話すと同時にエアディスプレイに、それを適用した場合の現時点での貢献ポイントランキングが表示される。

 そのトップに表示される「ショウ」の名前に2人も思わず苦笑い……

 彼自身は何もしてないと思っていそうだが、彼のために動いているNPCを経由しての貢献ポイント獲得が半端ない。


「覇権さん、あんなにアンデッド倒しまくってたのにね……」


 そしてランキングの中程に……ギルド未所属の名前が結構いる。


「この辺って、一昨日かその前あたりから『名も無き女神像』を回収してた人たち?」


「ですね。島のファンプレイヤーです」


「Oh My Goddess...」


 そう言って天を仰ぐミシャP。

 そもそも「ワールドクエストを遊んで欲しい」と「プレイヤーの自由は奪わない」が、矛盾気味で間違いだったなと反省する。

 そして、


「ワールドクエストへの間接的な参加の貢献度を少し上げて、それも告知しましょ」


「もっと事前調査してねってことです?」


「それもあるけど、消耗品の生産や輸送に関わったプレイヤーにも、ワールドクエストに貢献してるんだって思って欲しいかな」


 ワールドクエストは元来、後方支援でも貢献度が上がるが、いまいちそれを実感できてない感じがある。

 今回、未来の覇権ギルドが戦闘組と生産組で揉めて空中分解したのも、そのあたりの意識の差もあったんだろうなと。


「了解です。じゃ、その調整案は明日にでも。えっと、次は……」


「まだあるの!? もうすぐ日付変わるよ!?」


「ありますよ。プランBをやったせいだと思ってください」


「トホホ、もうプランBはこりごりだよぉ〜」


(アイリスアウト)

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