第267話 女神がかったタイミング

「ふう……」


『お疲れ様です』


 大型転送室。

 転移魔法陣の明かりが消え、ばいばいと手を振ってくれていた白竜姫様の姿も消えた。

 ライブは白竜姫様が帰るという話になったところで終了。アージェンタさん、今ごろ大慌てしてそうなので早めに。

 突然やって来てかき回された感じだけど、コメントも荒れなかったそうで一安心。

 というか、やっぱり「死霊都市の問題に女神像が使えるのでは?」って話になってる模様。


「ミオンもお疲れ。っていうか、ライブでミオンそっくりにしちゃったけど……」


『気にしないでください。今日もちゃんと……』


「ん?」


『い、いえ。それよりも、部長に報告しておかないとダメ、ですよね?』


 あー、確かに……

 白銀の館の人たちの誰かは見てそうだけど、連絡できそうなのは叔父さんらしいゴルドお姉様ぐらいかな?


<ベルさん見てたかもですがー、コメント欄にはいないですねー>


 ヤタ先生……

 さすがにコメント欄にいたらまずいでしょ。魔女の館は今週はお休みって言っちゃってるわけだし。


「〜〜〜?」


「ワフ」


「あ、ごめんごめん」


 転移エレベーターのボタンを押して上へ。

 まだ10時前ぐらいだし、もうしばらくは遊んでていいはずだけど、どうしようかな。


「「バウ」」


「「「〜〜〜♪」」」


「おっと、お迎えありがと」


 留守番を頼んでたレダとロイ、そしてフェアリーズが階段を上りきったところで待っててくれた模様。

 山小屋へとゆっくりと戻る途中で、今度は制作途中の女神像が出迎えてくれる。


「ルピたちは遊んできていいよ」


「ワフン」


 森の神樹の方へと駆けていくルピたちを見送って、さて……


「あと1時間ぐらいあるよね?」


『はい。続きをやるんですね』


「うん。あとまあ、そのうちセスが来るんじゃない?」


 魔王国側の前線構築の手伝いをしてるんだろうし、生では見てなかったはずだけど、連絡ぐらいは行ってるはず。

 それを聞いたらまずやって来そうだけど……


<それでは私は落ちますねー。心配はいらないと思いますがー、明日遅刻とかしないようにー>


「『ありがとうございました』」


 俺が遅刻するほど寝坊すると、美姫が起きなくて迎えに来た奈緒ちゃん――ナットの妹――に迷惑がかかり、結果、ナットに借り1になる仕組み。

 まあ、今日は普通にいつもの時間に就寝予定だし、どっちかというと真白姉とはしゃいでるだろう美姫の方が心配……


「ミオンは朝は大丈夫な方?」


『あの……椿さんに起こしてもらってます……』


「あ、そうなんだ。まあ、あの人は朝ばっちり目が覚めそうだもんなあ」


 漫画みたいに目がバチっと開いて、スパッと起きそうな雰囲気。ちょっとロボット感あるんだよな……


 カツンカツンと木を削りながら、ミオンと次のライブをどうしようかと話していると、どうやらセスが来たらしい。

 あと30分はあるし、そのままスタジオの方へと通してもらう。


『兄上! 期待どおりの答え! そして見事なタイミングであった!』


「『え?』」


 我が妹ながら、何かどこかネジが外れたんじゃないかと、いや、もう外れてたか。

 セスが言う「期待どおり」は名も無き女神像のことなんだろうし、あれでワールドクエストの言う『区画を浄化』なんだろう。

 いや浄化は別かもだけど、少なくとも聖域を張りっぱなしにして置けるっていうメリットは大きい。

 そっちは良いとして、


「タイミング?」


『今日のライブを見た視聴者さんたちが、女神像を探してくれるからですか?』


「ああ、覇権ギルドってのがダメになって、ナットたちが行ってるところだから、ちょうど良いっちゃ良いのか」


 というか、死霊都市で『名も無き女神像』と『説明書』は見つかってないのかな?

 今日、白竜姫様が持ってきたやつって、多分、死霊都市で拾ったやつだろう。

 覇権ギルドとかあそこにいた人たちが、そもそも調査とかしてなかったって可能性もありそうだけど……


『無論それもあるが、既に死霊都市から持ち出されておった女神像の回収がほぼ終わったそうでの』


「え? 持ち出されてた? 回収した? すまん、俺たちにわかるように最初から説明してくれ……」


 兄は妹が賢すぎてついていけないんだ……


『うむ。まず、覇権ギルドとやらが、死霊都市で得た品についての説明からかの』


 セスの話では、覇権ギルド――および頑張ってあの前線にいたプレイヤーたち――が手に入れたのは、ほとんどが古びた剣や鎧、ごく稀にステータスやスキルに補正のある杖やアクセ、そして『名も無き女神像』だったらしい。

 杖やアクセは当然『あたり』なわけだが、それはそのまま前線組が使い、それ以外の『はずれ』は生産組に回されていたそうだ。

 もっと奥まで行ければ、生産組にも良い物が手に入ったかもだけど、取って取られての繰り返しだとなあ。


『ときに兄上は、覇権ギルドの生産組が帝国貴族に借金をして竜貨を得ていたのは知っておるか?』


「ああ、ナットから聞いたぞ。ってことは、攻略が進んでも利益は出るどころかジリ貧って感じだったのか」


『うむ』


『最初から独占なんてしなければ、攻略も進んだと思うんですが……』


「それな」


 多少の観光地値段なら許容って話はベル部長もしてたし、そっちの方が圧倒的に儲かる気もするんだけど。


『直接聞いたわけではないが、奴らは兄上が得た「古代遺跡の管理者」に目が眩んだらしいぞ』


「やっぱ、俺のせいかよ……」


『ショウ君のせいじゃないですよ』


『そうよの。奴らが勝手に自爆したに過ぎん』


 管理者になるために独占して進めようとしてうまく行かず、それでもまだ独占を維持できていれば、ぼったくりでなんとかなると考えていた。

 ただそれも、魔女ベル・雷帝レオナ・氷姫アンシアというトリプルコラボが、魔王国側から攻略するという情報が流れて……


『お昼に「どうやってお金を返すんでしょう」という話をしてましたけど、ひょっとして女神像を売ろうとしてたんですか?』


『まさにの。ミオン殿と兄上のファンであれば、あの「名も無き女神像」に値がつくのではと思ったのであろう』


「マジかよ……。っていうか、罰当たりかもだけど、鋳潰す方が儲かったりしないのか? 鑑定には出てなかったけど、魔銀ミスリルっぽいし」


『鋳潰せなんだらしいぞ。NPCに頼めば当然断られるそうだ』


 あー、ワールドクエスト用のイベントアイテムだからって理由なら不思議でもないか。


『それで売られそうな女神像を買い取っていたんですか?』


「お前、白銀の館で買い取ってたのか? 使い道もはっきりしなかったってのに……」


 あれがマルーンレイスとの戦闘で『翡翠の女神像』になったことは、ミオンも説明しなかったし、俺も当然伏せていた。恥ずかしかったし。


『いや、これに関しては白銀の館は絡んでおらんぞ。兄上の言う通り、博打な部分もあったゆえの』


「え? じゃ、個人で金出してたの?」


『もちろん後で1体分は出したが、そもそも回収を始めたのは我ではないのでな。世の中IROには恐ろしく肝が座った御仁がおるということよの』

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