土曜日

第215話 増えた?

 目が覚めたのはいつもの山小屋、ロフトベッドの上。

 土曜なので完全ソロプレイだけど、あとでアーカイブを見るミオンのために、限定配信を開始。


「ワフ」


「ルピ、おはよ」


 ルピを一通りわしゃわしゃするまでワンセット。

 さて、ご飯にしてから港へと出発予定だけど、まずはスウィーやフェアリーたちを呼ばないとかな。


「ルピ。スウィーたち呼んできて」


「ワフン」


 玄関を開けると矢のように飛び出していくルピ。

 じゃ、ご飯の準備を……ん? なんか、通知が来てる?


【回答(問い合わせID:E12F8EBB)】


 ああ、隠密スキルでカメラが置いてけぼりになるやつの回答か。

 AIですぐに返事が来なかったからバグかと思ってたけど……えーっと?


『プレイヤー自身が隠蔽されている状態での配信カメラの挙動は「設定>配信>カメラ」の項目にある「プレイヤー表示」を、<他者視点>から<常に表示>か<隠蔽時は半透明>のいずれかに設定してください。

※隠蔽状態を配信することによりゲームの公平性が失われる場合、強制的に配信が停止される場合があります』


 こんなのわかるわけないって……

 ともかく設定を開くと、確かに書いてある場所が選択できるようになってて、多分デフォルトの<他者視点>になってる。

 つまり、隠密スキルを発動すると、ゲーム内では俺が消えて、見失った状態になってるのか。そりゃ強い……

 いや、さすがに気配感知か何かでカウンター掛かるよな? ……検証もできないし、いいか。


 で、うーん……。<隠蔽時は半透明>がいいか。<常に表示>は隠密スキル使ったかどうか、ミオンがわからなくなるし。

 てか、この<隠蔽時は半透明>とかって、隠密スキルとか隠蔽効果が発動する状態にならないと選択肢が出ない?


「ワフ!」


「〜〜〜!」


「うわっ! あ、ごめん!」


 ぼーっと考え込んでるとルピがスウィーとフェアリーたちを連れて戻って来てて、じーっと……視線が痛い! 急いでご飯作らなきゃ!


 ………

 ……

 …


「出発……の前に手紙来てないか確認」


 昨日、ミオンに気をつけるように言われてたの思い出した。というか、魔導転送箱、確認忘れないように、ずっと上に置いとこう。

 光の精霊のあかりを伴って1階に降りると、着信の点滅に気づく。

 ひょっとして、また甘味足りなくなった催促かな? さすがに今からはちょっとスケジュール的に厳しいんだけど。

 箱ごと抱えて2階に戻り、ひとまずテーブルの上に。

 手紙が「女神像、地下に送っておきました」とかだといいんだけど……


「え? 何だこれ?」


 箱の中には30cm弱、スウィーと同じぐらいの大きさの女神像、本、手紙。

 まずは女神像を鑑定してみるか……


【名も無き女神像】

『古代魔導文明の時代に各家庭に置かれていた女神像。どの女神の像かは不明』


 んー? もらっておいてなんだけど、なんかのっぺりとしてて微妙な女神像。

 ただ、大きさの割にめちゃくちゃ軽いから、これ全体が魔銀ミスリルで出来てるとかなのかな。

 次に本。


【古代彩神教典】

『アイリスフィアの女神、彩神の教義が解かれている本。神聖魔法+1』


 これは納得なんだけど、神聖魔法スキルを取るには女神像が必要だし、そもそも取るかどうかも悩んでるんだよな。しばらくは教会に、教壇の上にそれっぽく置いておくか。

 で、最後に手紙。


『ショウ様


 ご要望いただいた女神像ですが、こちらの手元には、お送りした小さい像しかありませんでした。大変、申し訳ありません。

 件の暴走事故が起きた後、生存者が少なく廃棄した都市などにあった女神像は、全て現在の人間の国へと引き渡し済みとなっておりまして……

 同梱した彩神教典には、それぞれの女神の絵姿が描かれておりますので、そちらを参考にショウ様の方で作成してみてはいかがでしょうか?


 最後になりましたが、こちらの要求に都度都度応じていただき、ありがとうございます。引き続き、よろしくお願いいたします』


 なるほど……

 人がいないところに女神像を放置するぐらいなら、渡しちゃった方がいいって話になるか。

 例の暴走で酷い目にあった後なんて、神に縋りたくもなるだろうし。

 そりゃ手元に女神像がないって話に……ん? 竜族って女神様を崇めたりは……しないか。きっとすごく強いんだろうし。


「ワフ」


「〜〜〜♪」


「やば。そろそろ出発しないと」


 インベに女神像、教典、手紙を放り込む。

 教典は向こうで時間ある時にでも読むことにしよう。

 女神像の件はミオンと相談かな……


 ………

 ……

 …


「またな〜」


「ワフ!」


「バウ!」


 いつも通り護衛してくれたドラブウルフの家族と別れ、港へと続く坂道を下りていくと、


「〜〜〜!」


「ごめん、スウィー。先にセルキーたちと会う時間取りたいんだよ。頼む」


「〜〜〜…」


 主にというか、ほとんど俺のせいでスケジュールが押してる感じなので、ちょっとカムラス(金柑)を取りに寄り道って余裕がない。

 俺がセルキーと話せるなら、ルピを護衛にスウィーたちを行かせるんだけどなあ。

 確か、住んでるのは南側の岩場の向こうって話だし、荷物を置きにいく前に、呼び子を吹いてみるか。

 大きく息を吸ったところで「思いっきり吹くとすごい音が!」って可能性に気づいて、普通に吹いてみる。


 ピュイ〜〜〜ョ〜〜〜♪


 ふう、危ない危ない。

 普通で港全体に聞こえる透き通った音色が響き渡る。

 そして、


「お?」


 南側の波間に見えるアザラシの頭。


「キュ〜♪」


「お〜! ……おおお!?」


 波間に見えるアザラシの頭が増えてくんだけど!?


「ワフ〜」


「「「〜〜〜♪」」」


 ルピは嬉しそうだし、スウィーもフェアリーたちも喜んでる感じだから、襲われるってことはなさそうだけど、2の4の……30人近くいる気がする。

 先頭にいるのは、先週出会ったセルキーの王子くんかな。

 フードを開けてこっちに泳いでくるんだけど、この数はちょっと想定外っていうか、全員に仕事をお願いしたら、とんでもない報酬を払わないと行けないとか?


 ぐるぐるとそんなことを考えていると、セルキーの王子くんがぴょんとジャンプして、岩場へと着地する。

 他のセルキーたちは待機してる感じなのかな? でも、フードは開いてて、年齢は王子くんよりも少し年上に見える。

 年齢差がいまいち分かりづらいけど、俺と同じ歳ぐらいに見えるのが大人? ノームってどうなのか、ナットにでも聞いとけば良かった……


「キュ〜♪」


「あ、うん。元気そうで何より。えっとお仕事頼んでいいのかな?」


「〜〜〜?」


「キュ〜!」


 スウィーの通訳のおかげで伝わったのか、王子くんが右手、右ヒレを上に……ハイタッチ?

 俺が手を合わせてパシンと音がすると、


「「「キュ〜♪」」」


 と後ろに控えていたセルキーたちから歓声が上がる。


【セルキーの守護者:3SPを獲得しました】

【島民が50人を突破:5SPを獲得しました】


 え?

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