水曜日

第205話 魔銀と宝石

 空模様がいまいちなので教室でのお昼。いつも通りというか、IROで何してたかって話がメイン。

 ナットに相談したいんだけど、さすがにミオンといいんちょがいるところではちょっと。日曜にでも家に呼ぶか……

 話はキノコの栽培から、小学生のときにナットがうちの田舎に遊びに来た話になって、


「あー、ショウのじいちゃんはめっちゃ優しいよな。ばあちゃんはめっちゃ怖いけど……」


「うちのばあちゃん怒らせたの、真白姉以外だとお前が初めてだよ」


「ガキのちょっとした悪戯じゃん……」


 プレゼントって、ウシガエルを頭に乗せられてキレない大人はいないと思うぞ?

 ミオンが不思議そうな顔をしてたので、そのことを説明すると、ぷるぷると首を横に。そして、いいんちょが大きなため息を一つ。


「柏原君はいつもやりすぎなのよ」


 何事も全力で取り組む男ナット。

 それはそれで楽しいんでいいけど、常に後始末に巻き込まれる俺のことも考えて欲しい。


「で、お前、まだラシャード領にいるの?」


「ああ、死霊都市は噂に聞く限り、すぐに行ける感じでもないし、しばらく様子見ようって話になったな。

 ま、教えてもらった竜貨の話もあるし、古奥ふるおくのダンジョン探ってみるわ」


 旧ノームの里のさらに奥に見つかった古代遺跡のダンジョン。

 名称が長すぎるってことで、なんとなく『古奥のダンジョン』と呼ばれるようになったらしい。

 まあ、この手のMMOならよくあることか。


「ノームちゃんたちは元気にしてるの?」


「元気にしてるぜ。キノコ作ってるし、大工仕事に興味がある子もいて、教えてたりするぞ」


「それはちょっと羨ましい……」


 うちもフェアリーたちには花の蜜を採集してもらってるけど、他に何かってのはなかなかなあ……

 他にも妖精増えたりすると仕事頼めたりしないかな。

 そういえば、セルキーは呼んだら仕事と報酬を与えないとって話があったな。

 どういう仕事を頼めばいいのか……


「俺のライブに来てたセルキーなんだけどさ」


「あのアザラシの着ぐるみの子か」


「呼んだら仕事と報酬を与えないとって話なんだよ」


「あんな小さい子に仕事を?」


 ちょっと怪訝な感じのいいんちょだが、ノームだって似たような年頃に見えるわけで。

 あのセルキーの王子くんも、それこそ俺らより年上かも……ないか。


「あんま難しく考えない方がいいんじゃね? ライブで魚を捕まえてくれたのも仕事なんだと思うぜ。ショウはちゃんとご飯作って報酬をあげたわけだ」


 ナットがそんなことを言って笑うんだけど、隣のミオンがうんうんと頷いてて「なるほどな」と。


「私たちは深く潜るのは大変そうだけど、あの子たちなら大丈夫なのかしら」


「そりゃ得意なんじゃね? 海の妖精みたいなもんだし」


「じゃ、もっといい昆布とか採ってもらうかな。いや、ウニとかアワビとかサザエとか……」


 うーん、ますます醤油とかバター欲しくなる。

 あとは米を見つけて海鮮丼……


「もっと夢のある想像しろよ。お宝が船ごと沈んでるとかあるかもだぜ?」


「ええー、それはそれでまた面倒なことに巻き込まれそうなんだけど」


 とりあえず、死霊都市のワークエが終わるまではのんびりしたいよ……


***


 部活の時間。

 今日の夜は初めての水曜ライブだけど、教会裏をざっくり説明してから、のんびりまったり質問コーナーで終わりの予定なので、特に準備を急ぐこともなし。


「さて、いろいろ作ろうと思ってた物を作るか」


『何を作ります?』


「えーっと、まずはこれも身につけておこうと思って」


 昼に話してたセルキー。彼らを呼ぶ翡翠の笛だけど、水泳+1、潜水+1がついてるんだし、身につけとかないともったいない。


『いいですね。でも、いろいろ増えてきて重くないですか?』


「重いって感じはしないんだけど、紐が切れるかもだから、そっちも変えるつもり」


 バイコビットの革紐なんだけど、作ったのはスキルレベルが低い頃だったし、ちょっと不安が。

 セスが譲渡不可能なアイテムがないとか言ってたし、海に潜ってる時に落としたらと思うと……


『丈夫な革に変えるんですね』


「うん。猿の革が釣り竿にも良かったし、これを3本ほどで編んでかな」


 さすがお猿さん、木登りするのにあちこち体を曲げ伸ばしするからか、革紐も弾力があってグッド。

 あとは魔銀ミスリルでホルダーを作って通せばオッケーのはず。


「じゃ、作業は鍛冶場でやるし、ルピたちは遊んできていいよ」


「ワフ!」


「〜〜〜♪」


『ルピちゃんたち、気をつけて』


 ミオンの言葉に尻尾をふりふりして答えるルピ。

 元気よく駆け出していくのを見送って、さて、俺も鍛冶場に行くかな。


 ………

 ……

 …


「よし、できた」


【セルキーのペンダント】

『セルキーの呼び子がついたペンダント。翡翠の本体を魔銀でホールドした希少な品。

 呼び出したセルキーには仕事と報酬を与える必要がある。

 水泳+1、潜水+1、精霊魔法+1』


「え?」


『精霊魔法のスキル補正がつきましたね!』


「これって魔銀ミスリルでホルダー作ったからだよね? 精霊石も魔銀ミスリルでホルダー作ったら、また補正つく?」


 いやいや、もしそうだとしたら、精霊石ごとにホルダー作ればいいって話になって、今の俺だと+3とかになって「ダメだろそれ」って話になるよな。


『フォーラム見てきましょうか?』


「あー、うん、お願い。まさかとは思うけど気になるし……」


『はい!』


 さて、あと鍛治で作っとかないといけない物ってなんかあったかな。

 ああ、そうだ。寸胴鍋作っておこう。

 ライコス(トマト)が手に入ったし、ミネストローネかブイヤベース作ってみたいんだよな。

 あとパーピジョン、キトプクサ、ワインを少しで鶏がらスープも試さないと。


『ただいまです』


「あ、おかえり。どうだった?」


『精霊石と魔銀ミスリルの組み合わせで補正が入るわけではないみたいですよ。既に試している人がいましたが、特に補正がついたりはしないそうです』


「やっぱそうだよな。さんきゅ」


 それで補正を稼がれてたら、もう限界突破してる人もいるだろうし。


『似た話がありましたけど……聞きますか?』


「うーん、なんとなく思い当たる節はあるから教えて欲しいかな」


 精霊魔法スキルに+1になったのは、多分だけどセルキーからもらった翡翠、つまり宝石との組み合わせなんだろうけど、他に例がないので確証が持てない。


『はい。宝石と魔銀ミスリルの組み合わせのアクセサリで、スキルやステータスの補正があるそうですよ』


「あー、やっぱり。ベル部長が古代遺跡の塔で手に入れたアミュレットも、なんか青い宝石がついてたからそれかなって」


『あ! そうですね!』


 それでも、宝石と魔銀ミスリルのペンダントで元素魔法+1を何個も……とかどうなるんだろ。

 でも、俺のマント、ブーツ、グローブは気配遮断スキルのプラスが累積してるんだよなあ……

 まあ、あとでベル部長にでも聞いてみるか。


『でも、精霊魔法スキルにプラスなのは多分、ショウ君が初めてですよ?』


「マジか……」


 やっぱり、セルキーからもらったから?

 週末にでも行って、お礼しないとだな。

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