第196話 魔銀より価値あるもの
ベル部長とセスの話は、俺とミオンのライブが始まる前まで遡る。
今日は『白銀の館』のギルドメンバーでの打ち合わせの後、雷帝レオナ様の祝勝会ってことだったらしい。
次回はレジェンド枠ってことで、優勝した人がチャレンジできるみたいな位置付けになりそうだとか……
「祝勝会をレオナ様がライブ配信するのはいつものことなのよ。見たことないかしら?」
『スタジオに親しい人を呼んで、ゲームしたりする感じですよね』
とミオン。俺はそれ見たことないんだけど、ミオンは元々ベル部長のファンだからか詳しいな。
「普段見れない和気藹々としたライブだし、ゲストも多いんだけど、今回は私の提案でIROの中でやろうってことになってたの」
「へー、めっちゃ面白そう……」
スタジオだとホントに親しい人しか呼べない感じだけど、IRO内ならただのファンでも参加できそうだもんな。
「もうそろそろアーカイブが公開されておるのではないか?」
「ええ、そうね」
つまり、二人がバーチャル部室に来る直前まで、その祝勝会ライブが続いてたってことか。ってことは……
「そのライブ中にアージェンタさんが?」
「まあまあ、皆で見ようではないか」
ベル部長がレオナ様のチャンネルを開き、つい先ほど公開されたアーカイブを再生し始める。
さすがに全部最初から見るわけにもいかないので……
「このあたりかしらね」
祝勝会ってか野外バーベキュー会場?
すごい量の料理と飲み物が用意されてるし、これは持ち込みすれば参加可能とかそういう感じだったのかな。
「ドワーフが多いの、ひょっとして採掘に来たNPCのドワーフも混じってるの?」
「うむ、NPCドワーフのグラド殿とその同志よな。祝い事があって酒が飲めると伝えておいたところ、ランジボアを2頭も仕留めて持ってきてくれたのだ」
なんだか、すっかり仲良くなってるなと思ってたところに、急に数人の有翼人が現れて、そのグラドさんたちと揉め始めてる。
『何があったんですか?』
「グラド殿らが件の古代遺跡の探索を始めたようだが、有翼人らのいう『上がり』とやらを収めておらんとな」
「まだその話、続いてたんだ……」
丸投げされて、結局管理できなくて、諦めて帰っちゃったかと思ってたんだけど。
そして、その騒ぎに近づいていくレオナ様。これはもう絶対に何か起きるだろうなと思ってると、
『我々は白竜姫さまからの依頼を受けているのだ! 飛べぬ者らごときに指図される謂れはない!』
『ほう! 言ったな! では、聞いてみようではないか!』
「『え?』」
グラドさんが右手を天に向けて掲げると、そこから……信号弾みたいなもの?
何かが空に向けて打ち上がり、上空で花火のような音と光を放った。
そして……
「うわあ……」
その場所に現れたのは銀色の竜。間違いなくアージェンタさん。
あれって、あの場所に転移先を作る魔導具とかそういうのなのかな……
『ま、まさか……』
そんな雑魚セリフを吐きつつ膝から崩れ落ちる有翼人たち。
その目の前にアージェンタさんが着地するんだけど、器用に置いてあるテーブル類を踏み潰さないようにしてる……
『アージェンタ殿。こいつらは「白竜姫さまから依頼を受けている」と言っておったぞ。ここにおるワシら、そして、周りの皆が証人だ!』
その言葉に有翼人たちをギロリと睨むアージェンタさん。
俺と出会った時と印象が全然違うんだけど……
『竜の威を借る愚かな子らよ。お
『し、しかし……』
『早々に己が里へと帰るが良い! 沙汰は追って伝える!』
『はっ、ははっ!』
逃げ帰るように飛び去っていく有翼人たち……
なんだかんだ言いつつ優しいなあと思うのは俺だけなのかな。
まあ、その場にいるプレイヤーたちはほとんどポカーンってなってるし、突っ込むどころじゃないんだろうけど。
『グラド殿、後はお任せします。私はお
『おう、任せとけ!』
その返事を聞いて飛び去るアージェンタさん。
結局、人に変身しないままだったけど、うちのライブで変身したのは良かったのかな?
『さあ! 宴のつづきだ!』
『『『おおお〜〜〜!!』』』
大歓声に包まれる祝勝会場。
レオナ様もベル部長やセスと連れ立って、グラドさんのところへと……ってところで再生が止まった。
『急展開だったんですね』
「最初に揉め始めた時はヒヤヒヤしたわ。せっかくの祝勝会なのにって……」
そりゃそうだよな。言い出しっぺで多分幹事だったんだろうし。
「それで、有翼人たちって、結局何がしたかったんだ?」
「グラド殿曰く、竜族の庇護下にも序列があるようでの。彼らは一番下ゆえ、何かしらの手柄を立てたかったのだろうとな」
『それが鉱石の徴収ですか?』
「本命は
なんというか浅はかだなあ……
それに
「希少な鉱石よりも、兄上の甘味の方が上ということよの!」
『そうですね!』
「その『火急の用』って、ショウ君の島に甘味を取りに行くことよね?」
「あー、そうなるか……」
なんていうか、大変だな。
時間的に1時間かそこらで飛んで来た? 王国から島までってかなり距離があると思うんだけど。
「それでもう一つ、兄上に確認しておかねばならんことがあっての」
「もちろん答えたくなければ、無理に答えなくていいわ」
「はあ?」
なんだろ? アージェンタさんに会った以上のことってもう無いと思うけど。
「私たちのところに来た銀色の竜以外に会ったことはあるのかしら?」
「あー、無いですよ。連絡を取りあってるのもアージェンタさんだけかな。ちょいちょい『お姫様』っていう言葉は出て来るんで、そういう竜族のお姫様がいるんだろうなーぐらいには思ってますけど」
てか、お姫様に直接仕えてるって、アージェンタさんもかなり上位の龍だよな。
そもそも竜族の総数がどれくらいなのか知らないけど。
『それが何かあるんでしょうか?』
「ゲームドールズのファン数名が白竜山脈を越えようとして、緋色の竜に捕まったらしいのよ」
「……」
うん、ごめん。
これって俺が手紙で知らせてたからだ……
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