第177話 こうかはばつぐんだ!

『部長とセスちゃんが古代遺跡の塔に行くのは、もう少し先ですか?』


「セスはそんなこと言ってたよ。ベル部長はすぐ行きたがってたみたいだけど、木曜の魔女の館のライブはラシャード領だっけ? ノームの里があったところの向こうって予告しちゃってるみたいだし」


『なるほどです』


 入り江の酒場から山へと戻り、展望台から古代遺跡に戻って、そのまま教会の裏手へとやってきた。

 山小屋に戻る前に、グレイプルの実をできるだけ収穫したいのと……


「スウィー、ここに畑作ろうと思うんだけど、どう?」


「〜〜〜♪」


 サムズアップしてくれるスウィー。

 よしよし、スウィーが大丈夫っていうなら問題ないはず。多分……


『あとは何を植えるかですね』


「まずはじゃがいも、オーダプラかな。これはどこに植えよう?」


 掘ってきた種芋を見せると、スウィーが飛んでいって「この辺」と指示をくれる。

 グレイプルとは反対側の離れた場所で、かなり雑草が生い茂ってる。


『まずは雑草を抜いて、耕さないとですね』


「あ、うん。まあ、こうやればすぐなんだ。<掘削>」


『あっ!』


 5cmほどの深さに掘削すると、雑草が根っこごと掘り返されていい感じに。

 これ、家の庭の雑草抜くのに使いたい……


「<掘削><掘削><掘削>っと」


『すごいです!』


「〜〜〜♪」


 その様子にスウィーも思わず拍手。フェアリーも拍手する文化あるんだ。

 しかし、こういう平和な使い方なら広まって良い気がするんだけど……悪用できちゃうからなあ。


「あとは抜いた雑草をかたして、掘り返した土は戻していく感じ」


『くわがあった方が良かったですね』


「ま、次にもっとちゃんと畑にするときに手を入れるよ。今日はとりあえずオーダプラを植えるとこまでで」


 半分に切ったオーダプラ(じゃがいも)を、掘り返した場所に埋めて、土をかけて終わり。

 農耕スキルと植物学スキルが効いてるのか、ここに埋めればオッケーみたいな感じでさくさくと。


【農耕スキルのレベルが上がりました!】


『おめでとうございます』


「さんきゅ。まあ、スキル取ったはいいけど畑作りしてなかったから、まだ4なんだけどね……」


 まめに畑仕事してれば、5まではすぐ上がると思うんだよな。

 まあ、自分とルピのための食材だし、普通に美味しいものが作れるレベルがあればオッケーなんだけど。


「あと水まきは精霊魔法で?」


「〜〜〜♪」


 スウィーが「イエス!」って感じのサムズアップを返す。

 えーっと、水の精霊に具体的に、さーっとまいて軽く湿らす程度でいいんだよな。とか思ってたら、


「〜〜〜!」


「ん? ああ、樹の精霊にもか。了解了解」


 肥料的な何かがあるのかな? いや、精霊の祝福みたいなものがあった方がいいとか、そっちの方がファンタジーでいいよな。


「じゃ、水やりお願い」


 そうお願いすると、胸の精霊石の少し前から、シャワーのように水が放たれて、オーダプラ畑を潤していく。


「よし。グリシンとかはまた今度にして、グレイプルを採って帰ろうか」


「ワフ!」


「〜〜〜♪」


 ………

 ……

 …


 山小屋のある盆地に戻ってくると、フェアリーたちが慌てて飛んできてびっくり。

 何かあったのかと思ったけど、単にスウィーが戻ってこないのを心配してたらしい。これでも女王だもんな……


「ちょくちょく向こうには泊まりで行くことになると思うけど、どうしたもんだかな」


『毎回、お留守番というわけにもいかないでしょうか』


 うーん、全員連れてくのも、ありっちゃありなのかな。

 展望台から北東側も南東側もドラブウルフたちがいてくれるし。

 まあ、スウィーが皆にちゃんと説明してくれてるっぽいので、そっちはそっちで任せよう。


「スウィー、ドライグレイプル、お詫びに作るからって伝えて」


「〜〜〜♪」


 斜面を降りて、1日ぶりの山小屋に帰還。

 ルピがいつものロフトベッド下に丸まって満足そうな顔に。

 さて、まずは醸造に使う分のグレイプルを保存庫に入れとくか。

 あかりを出してもらって1階に降り、保存庫を開けようと……


『ショウ君、箱が光ってますよ』


「え? もう返事来てるのか。早いな……」


 とりあえず、先にグレイプルを保存庫に移すんだけど、そろそろ容量がキツい。

 ああ、そうだ。ついでに肉を燻製肉にして、持ち運べるようにしよう。グレイディアの方でいいかな。


「よしっと。で、手紙を……」


 魔導転送箱を開けると、手紙一通と空っぽになった皮袋。ドライパプやドライグレイプルは食べてくれたっぽい?


「落ち着いてから読むよ」


『はい』


 スウィーやフェアリーたちが待ちわびてるはずだし、手紙と皮袋はインベにポイッと。

 裏口から土間に出ると、すでにフェアリーたちがテーブルの上に待機中。


「はいはい、もうちょっと待ってな」


 ドライグレイプルを作りつつ、ミオンにちょっと確認を。


「アージェンタさんに報告する内容、結構あったよね?」


『メモしてありますけど、読み上げましょうか?』


「うん、ごめん。お願い」


『はい!』


 ミオンがちゃんと順番にメモしてくれてあったのを読み上げてくれる。


・北側に教会。頑丈な門の向こうに廃屋。

・教会の中に女神像が無い。

・北東に港と灯台。

・港の酒場に古代魔導醸造器。

・灯台のあかりは消えている。

・灯台の奥に大きな通路。扉は開けず。


「報告すること結構多いな」


『ショウ君、頑張りすぎです』


「いや、まあ、うん……」


 今回はたまたま行ってない場所に探索が集中しただけなんだよな。

 古代遺跡そのものに関係ありそうなのは、灯台の奥にあった大きな通路だけだし。


「〜〜〜!」


「おっと、ごめんごめん。<乾燥>っと」


 二房分のグレイプルを一気に乾燥させ、ドライグレイプル完成。平皿に移して召し上がれ。


「〜〜〜♪」


 わっと群がるフェアリーたち。機嫌も直ったみたいで何より。

 んじゃ、手紙に目を通すかな……


『ショウ様


 早速の返信、ありがとうございました。

 こちらは引き続き文献の調査をしており、大した進展もなく申し訳ありません。


 今回のご連絡は別件と申しますか、先日お送りいただいた果物の乾物をお姫様ひいさまが大層気に入りまして、追加でお送りいただけないかと……

 何卒、よろしくお願いいたします。


 そちらで何かお困りごとがありましたら、遠慮なく申し付けください』


 ……


『パプの実を採りに行かないとですね』


「まだ時間あるよね?」


『はい。9時半を回ったところですよ』


 スウィーたちの分も必要だし、バックパックいっぱいに採ってくるか……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る