第144話 斜め上の使い方

「ふう。こんなもんかな?」


『お疲れ様です。水は張らないんですか?』


「今のところはね。雨降れば溜まるだろうし」


『なるほどです』


 作った浄化槽は1m四方、深さも1mほど。

 敷居がわりの石壁で三層に区切られていて、上澄みだけが次の層へっていう簡単な仕組み。

 三層目から溢れた排水は、砂利が敷き詰められた側溝を5mほど通って泉へ流れ込む形だけど、どれくらい綺麗になるかは使ってみないとなんとも。

 まあ、雰囲気というか気持ち的なものってことで……


「ワフ」


「〜〜〜♪」


 ルピにスウィー、フェアリーたちが連れ立って現れる。

 植え替えたグリーンベリーの木はまだ若木で、実が採れるのはもうしばらく先だろうし、


「グリーンベリー取りに行くの?」


「ワフン」


「ちょっと待って。途中まで俺もついてくから」


 残りの時間は鍛治。剣鉈と小盾を作るつもり。その前に採掘もやっておかないと。

 残ってるタスクって、家庭菜園ぐらい? まあ、この二つは部活再開してからでもいいかな……


 ………

 ……

 …


「なんか採掘するの久しぶりかも」


『鍛治もリフォームの準備以来ですよ』


「ああ、そっか。1週間、いや2週間以上前か」


 あの時に釘やら金具やらいろいろ作って、鉄インゴットはほぼ使い切っちゃったんだよな。

 今日はガッツリ採掘して、またいつでも鍛治できるぐらいにインゴット溜めとかないと……


「ん?」


『どうしました?』


「いや、ちょっと思いついたっていうか……<掘削>」


『あっ!』


 採掘ポイントに掘削の魔法をかけてみると、あっさり飛び出す鉄鉱石。


『ショウ君、MPは大丈夫ですか?』


「あ、うん。ちょっと多いかな。ちょっとっていうか三倍ぐらいか。でも、これ、いい練習になるかも。マントのおかげでMP回復が早いし」


 鉄鉱石が粉砕されずに出てきたのは採掘ポイントだから? これ、鉄板とか鉄筋が埋まってたら、もっとMP持ってかれる可能性あるな。


『良かったです。でも、それで採掘スキルのレベルは上がるんでしょうか?』


「あー……」


 元素魔法と土木のレベルは上がりそうだけど、採掘は上がらない気もする。

 普通にツルハシでやる方がいいか。あ、いや、待て。


「あの上の方の届かない場所って、これで掘れる?」


『あ、そうですね! でも、落ちてくる石に注意してくださいね?』


「りょ。せっかくだし、ちょっと試してみるか……<掘削>」


 魔法を遠くで発動するのが結構難しいけど、なんとか当たったみたいで、拳大の石が落ちてきた。


「おお、いい感じ。……は?」


魔銀ミスリル鉱石】

魔銀ミスリルの原材料となる石。希少度は銀以上、金以下。

 鍛治:鉱炉にてインゴットにしたのち、魔銀ミスリル製品に加工が可能』


『すごいです!』


「……魔銀ミスリルって一般に出回ってたっけ?」


『見てきますね!』


「あ、うん」


 これ、またベル部長に「やらかし」言われるパターンなんじゃ。

 でも、採れたからにはこれで何か作りたい……


『プレイヤーズギルドのギルドカードが魔銀ミスリルだそうですけど、国が管理していて、一般プレイヤーは持ってないそうです』


「やっぱそうだよなー」


 ここは魔銀ミスリルで剣鉈と小盾とか作るべき?

 でも、作るならもうちょっとスキルが上がってから……。せめて5レベル以上になってからの方がいいよな。


『どうしますか?』


「ちょっと考える。まずは集めた分をインゴットにかな。どっちにしても加工しないとだから」


『はい』


 ………

 ……

 …


「うわっ、めっちゃMP消費した……」


 魔銀ミスリル鉱石を目一杯放り込んで古代魔導炉を起動したら、MPを8割ぐらい持っていかれてびっくりする。

 これ、キャラレベ上げてなかったらスタンしてた気がするんだけど。


『大丈夫ですか!?』


「うん、なんとか。しばらくすれば回復するし、その間に鉄鉱石を運ぶよ」


 掘削の魔法でMPを消費したら、回復の間はツルハシが届く場所を掘るってパターンを確立。

 なんだけど、結果として一度に運べる以上の量になってしまった。


『ショウ君、その前に精錬時間を確認した方が』


「え? あ、そうか!」


 魔銀ミスリル鉱石も15分って思ってたけど、MP消費量が違ったんだし、掛かる時間も変わってる可能性が大。


【古代魔導炉:作動中:完了まで30分】


「あー……。倍で済んで良かったって思うべき?」


『ですね。今のうちに鉄鉱石もたくさん集めていいんじゃないですか? 鉱石のまま置いてあってもいいんですし』


「ああ、そだね。スペースはあるし、隅っこにでも山にしとくかな」


 こういうときのために、木箱を作ろうと思ってたんだった。部活の時にちまちまと作ることにしよう。

 山小屋の古い壁板とか特に悪くないやつもあるし、あのへん燃やしちゃうのももったいないもんな。


 ………

 ……

 …


【古代魔導炉:精錬完了】


「よしよし。できたかな?」


 火床用の耐熱手袋をはめて炉の扉を開ける。

 出来上がったインゴットは5本。ってことは、魔銀ミスリル鉱石10個でインゴット1本なのか……


『できるインゴットの本数も違うんですね』


魔銀ミスリルの希少度が高いのもわかるよ。そりゃ、国で管理されるよな……」


 採掘場に置きっぱだった鉄鉱石を取りに行ったんだけど、魔銀ミスリル鉱石の採掘ポイントは全く復活してなかった。

 ひょっとしたら二度と復活しないかも? だとすると、この5本をどう使うかは、かなり重要な選択になる。


『剣と盾を両方作るには足りなさそうですね』


「ぎりぎり足りないぐらいだし、ミスったらアウトなのがね。魔銀ミスリルの採掘ポイントが復活するまで、うかつに使えないな」


 失敗したら鋳潰してやり直しでもいいんだろうけど、やっぱり目減りするだろうし。


『まずは鉄で作ります?』


「そうするよ。魔銀ミスリル使うのはやっぱりスキル上げてからで」


 まずは鉄で作って使ってみて、鍛冶、短剣、盾と関連スキルもあげてからだよな。

 じゃ、さっそく……って、そろそろいい時間な気がする。


「今って何時ぐらい?」


『もうすぐ10時半になりますね』


「微妙な時間だなあ」


 今から熱中すると軽く1時間コースな気がする。

 明日は土曜で、昼はミオンが習い事で不在。その間に作るのもどうかなって気がするし。


『明日にしますか?』


「かな。とりあえず鉄鉱石を鉄インゴットにして終わりでいいか。明日、昼のうちは他にやることやっとくよ」


『はい!』


 木箱作りもあるし、蔓でかご編むのもあったな。

 海産物を探すのすっかり忘れてるし、塩も今のうちに備蓄増やしておこうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る