第105話 想定外のワールドアナウンス

『そろそろ時間ですね』


「あ、もうか。あっという間だったなあ」


【ロッサン】「相変わらず時間が飛ぶライブw」

【シュンディ】「今日は飯テロなかったから平和だったね〜」

【デイトロン】「<vs熊完全版期待!:5,000円>」

【ガフガフ】「<楽しかった!:300円>」

【ブルーシャ】「<おつおつ〜(≧∀≦)ノシ:300円>」

【ワショー】「<次回飯テロ希望!:1,000円>」

 etcetc...


 あわわわわ、投げ銭がどばーっと流れていくの、やっぱ怖いんだけど。

 もちろん、それは俺だけじゃなくて、


『あ、ありがとうございます!』


<ミオンさんー、落ち着いてー>


「ミオン。また来週でいいんだっけ?」


『はい、その予定です。火曜の完全版、楽しみにしててくださいね』


 落ち着きを取り戻しさえすれば、しっかり話せるんだよな。

 あとはラストコールだけ……


【ハルネ聖国が建国されました!】


「『え?』」


 俺とミオンがハモり、その瞬間からコメント欄も「は?」とか「へ?」とかすごい勢いで流れていく。


<お二人ともー、放送終わらせた方がいいですよー>


『で、では皆さん、またお会いしましょう! さようなら〜』


「またー」


「ワフー」


 ………

 ……

 …


***


<お疲れ様でしたー。もう大丈夫ですよー>


『はい。先生、ありがとうございました』


「お疲れっす。最後のアレ……なんなんだろ?」


 コメントはまだ流れてて……、あ、止まった。放送中に送られてきてたやつが全部こっちに届いたってことかな?

 ……え?


「なんか、ゲームドールズの人が建国したらしいって、コメントに書かれてるんだけど」


『それってプレイヤーの人が建国したってことですよね?』


「本当ならそうなんだろうなあ。……大丈夫なのかな?」


 セス美姫がプレイヤーズギルドの超豪華版とか予想してたけど、それならなんとかなるのかな。


『部長たち、慌ててそうですけど』


「んー、どうだろ。場所によるんじゃない? なんか共和国の南側の開拓先だとか書かれてるし」


『ちょっと調べてきましょうか?』


「いや、いいよ。無人島には関係無いし、もしベル部長が呼びにきたら、このライブで話せばいいんじゃないかな」


 ベル部長やセス、ナット、いいんちょ、あとは『白銀の館』の人たちかな? 知り合いが関係してれば気になるけど。

 ゲームドールズの人たちはお仕事でやってるんだし、無人島スタートした今川さんって人はちょっと可哀想だったけど、ナットの話だと普通にキャラ作り直してプレイ再開したって聞いた。


<ですねー。ショウ君やミオンさんが気にしてもどうしようもないことですー>


『そうですね。えっと、ショウ君、もう少しIROやりますよね?』


「うん。11時ぐらいまでかな。このまま密林抜けて、採集しながら戻るよ」


 グレイディア狩れたし、俺も石のベッドに敷いてみるか。

 というか、あっちの蔵ができたら、もう引っ越ししてもいいのかもだよなあ。屋根があれば就寝ログアウトできるだろうし。


「よし、ルピ、帰るぞー」


「ワフ」


 塩作りにここには来なきゃだし、道は作っておきたいところ。

 セスが言ってた土木スキルも気になるし、土の精霊を使役できるならしてみたい。

 うん。やることありすぎて、知らない人のことまで気にかけてられないよな。


『ショウ君、なんだか楽しそうですね』


「え? 今日のライブも楽しかったし、これから作るものいろいろあるなーって考えてたからかな? ミオンは楽しめてた?」


『はい!』


「じゃ、良かった」


「ワフ!」


「うんうん、ルピもな」


 ………

 ……

 …


『兄上、お邪魔するぞ』


「おー、思ったより早かったな。ベル部長も?」


『ええ、いるわよ』


「お疲れっす」


 俺はというと採集したパプの実やら蔓やらを整理整頓中。

 この前、道を切り開くのに伐採した木で木箱とか作ってもいい気がする。


『さっきの建国宣言のことですよね?』


『うむ』


『まず、何が起きたかを説明しておくわね。二人はライブしててワールドアナウンスを聞いただけだと思うし』


「ライブの終わりに重なって、めっちゃ焦りましたよ」


『先生がいてくれて良かったです』


 ホント、ヤタ先生が声をかけてくれなかったら、俺もミオンもどうしたもんだかって困ってたと思う。

 あそこでサクッと終わらせたから、落ち着けたようなもんだし。


『ショウ君のエリアボス単独討伐も、私の記者会見の最後に被ってたんだけど?』


 ……その節はすいません。


『その話は後でよかろう。ともかく、建国宣言をしたのはゲームドールズの北条ハルネ殿だ。ファンと共に開拓をしておった先で宣言したようだの』


「へー、じゃ、本格的な国づくりなんだ」


『それがどうも雲行きが怪しいのよ……』


『どうしてですか?』


 なんだろ? バーチャルアイドルがファンと一緒に国づくりって、ある意味、例の今川さんがやろうとしてたことと同じだし、予定通りって感じじゃ無いのかな?


 そんなことを考えながら蔓をまとめて縛る。パプの実は食用にはしないので、洞窟の隅っこに。

 今、インベを圧迫してるのは主に肉なんだけど、これは山小屋にあった保存庫で大丈夫だよな。

 あと、ベーコンとか作ってみたいところだし、燻製小屋みたいなのも欲しいか?


『ゲームドールズの人たちとファンだけなら良かったんだけど、そこにユニッツの人たちとファンもいたのよ……』


「ええー」


 なんで、そんな状況で建国宣言したんだよ……

 普通に考えて、揉めるってわかると思うんだけど?


『周りの人は止めなかったんですか?』


『周りと言うても皆、ハルネ殿の後輩にあたるゆえのう。ああいう企業系バーチャルアイドルは上下関係が厳しいと聞くのでな』


 ああ、そりゃそうか。

 あとはファンが止め……止めなさそうだよなあ。むしろノリノリで後押ししそうだし。


「あとは会社からやれって言われたとかですかね?」


『それもあるかもしれないわね。ゲームドールズは攻略系でもあるし、建国宣言なんて大ネタを掘り当てたんなら、それをやらない選択肢は無い気がするわ』


『それでー、ゲームドールズさんとユニッツさんでお話し合いしてる感じですかー?』


 揉めてるって言ってもゲームの中だし、ゲーム上で決着をつけるのかな? いや、PvPとかって、限定スタートしてたゲームドールズの方が有利だよなあ。


『フォーラムを見る限りでは未だ交渉中のようだのう』


「うーん、事情は大体分かりましたけど、とりあえず困ることはなさそう?」


『そうね。でも、ライブ中に建国宣言をしたらしくって、それが広まればショウ君のところも建国宣言できるんじゃ無いかって推測されるわよ?』


 あ……


「いやいや、されても別に『しないです』って話なので」


『そうですよ。新人さんがショウ君の島に来ちゃうかもしれないって話になって、無しになりましたし』


『だが、ミオン殿も兄上の島へ行けるようになるのだぞ?』


『……ダメです』


 ごめん。ちょっとホッとした……

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