帝国分裂

月曜日

第81話 ショートショート

『鹿島さん、全然怒ってなかったですね』


「だね。てか、ナットの方が『急に有名人を紹介するな』とか怒ってたな」


 まあ、そうは言いつつも嬉しそうだったけど。

 今日の昼は、土曜のライブの話はそこそこに、日曜昼の雷帝レオナ、魔女ベルとのゲームプレイの方がメイン。

 俺としては「美姫が勝手にやったこと」っていう、そのまんまの言い訳しかできないし、その言い訳が一番効果的だった。


「まあ、美姫ちゃんならなあ……」


「しょうがないわね」


 二人も納得。なんだけど、ホントずるいなあいつ。


『みなさんが来るまで、昨日の部長のライブを見ませんか?』


「あ、そうだね。ギルド設立を発表するとか言ってたし」


 魔女ベルのチャンネルを開きつつ、不思議そうな顔のミオン。


セス美姫ちゃんには聞いてないんですか?』


「朝、そんな暇がなくて。あいつよく寝坊するし」


 遅刻しないよう、友達——ナットの妹——がわざわざ迎えに来てくれるんで、ホント助かってる。

 まあ、寝ぼけ眼でパンかじりながら「万事、上手くいったぞ」とか言ってたから、問題ないんだろう。


『再生しますね』


「あ、うん」


 あれ? いつものタイトルコールなし? それに外でなく屋内?

 長机を前に座っているのはベル部長。そして、左右に控えているのはゴルドお姉様とセス。


『えー、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます』


「記者会見かよ!」


 思わず突っ込んでしまい、ミオンがウケたらしく笑いを堪えている。


『すでにご存知の方も多いかと思われますが、私、魔女ベルとプレイを共にしているみなさんの力を集結し、ウォルースト王国アミエラ領にプレイヤーズギルド「白銀の館」を設立いたしました』


 その言葉に「おお〜」という声や、拍手の音が。芸が細かいというか、コメント欄は大ウケしてるし。


 その後は、代表は魔女ベルではなくてセス。自身はギルドの戦闘部門のサポートをメインにすることなどを発表していく。

 ギルドの当面の目的はアミエラ領の北西方面の開拓。

 これについては子爵様から直接依頼を受けているので、それに必要なことをどんどんとクエストにしていることなどを発表していく。


『ギルドの名前が「白銀の館」なのはなぜなんでしょう?』


「そういやそうだね。『魔女の館』ってなるんだと思ってたけど」


 そんなことを話していると、ちょうど当人が入ってきた。


「お疲れさま。昨日のライブ見てくれてるのかしら」


 そう言いつつVRHMDを被って視聴会に参加。


『部長。なぜギルド名が「白銀の館」なんですか?』


「ああ、それはもう少し先の質問のところで答えてるわ。今のあたりは二人ももう聞いてる内容だし、飛ばしても平気よね」


 と、早送りしていく部長。

 それを止めたところでちょうど、


『それじゃ、コメントからも質問を受け付けるわね』


 となって、すごい勢いで流れるコメント欄……

 これ、どうやって見てるの?


『私が代表でない理由ですが、それはまあ、過去の私の王都での行動に問題があってですね……』


【メルソウ】「石壁事件か」

【ラザニアマン】「石壁事件のせい」

【ユンユラー】「石壁事件」

【クラゲリオン】「石壁事件なんだよなあ」

 etcetc...


 さすが視聴者というか、みんな思い当たってるのか『石壁事件』ってワードが滝のように流れていくのが面白すぎる。

 俺もミオンも思わず吹き出しそうになって堪えてるんだけど、


「……二人とも知ってるのね?」


「まあ、はい。ちょっと魔法で出した石壁が消えるかどうか、ミオンに調べてもらったときに……」


「まさか消えないとは思わなかったのよ……」


 などと供述しておりって感じだけど、そうこうしているうちに例の質問に。


『ギルド名が「白銀の館」なのはどうしてですか? ですが、これはアミエラ子爵の三女、エミリー様がつけてくださいました。すごく良い名前だと思います』


 へー、そんな話なんだ。


「セスちゃんは『魔女の館』にしようと思ってくれてたんだけど、エミリー様に『セスお姉様は魔術士じゃないですよね?』って言われたらしくて」


「あいつメイン盾ですしね」


「で、じゃあって話になったときに、あの白銀の髪がかっこいいから『白銀の館』ってことになったそうよ」


『なんだかすごいです』


「何者なんだよあいつ」


 俺の妹だけどさあ。

 まあ、魔女ベルとしても、ギルドのことばかりやるわけにもいかないしってことで、ちょうど良かったのかな。

 実務はあの生産組のみなさんがやってくれるんだろうし。


「こんにちはー、みなさん元気そうですねー」


 ヤタ先生が来て、やっと例の話ができる状態に。

 ベル部長から「説明しなさい」的な目線が飛んできたので、


「ヤタ先生、ちょっと意見を聞きたいんですけど」


「はいー? ゲーム内のことはよくわかりませんよー?」


 いや、それは嘘でしょと思いつつ、昨日のアーカイブを見せる。

 全部見せるとそれなりに長いので、ところどころ早送りしつつざっくり把握してもらう。


「よく倒せましたねー」


「それはいいんですけど、『エリアボス』なんて存在は他のプレイヤーも知らないみたいなんですよね」


「公式からも特にはー?」


「ありません。フォーラムはちょっとした騒ぎになってますし、これは早めに動画化した方がいいんじゃないかと」


 ベル部長が引き継いでくれて、ヤタ先生もなるほどという感じ。

 ミオンが考えてくれてる投稿スケジュールに割り込ませるとして明日の火曜。急いで編集しないとなんだよな。


『今日頑張って編集すれば、明日には投稿できると思います』


「うーんー、それも大変そうですしー……。そうですねー、伝えたい部分だけの短編にしましょうかー」


「あー、1分未満のやつですか」


 ちょっとしたネタ動画とかに使われがちな短編動画だけど、別にネタに使わないとダメってわけでもないよな。


「確かにそれなら『エリアボス』について伝えられて、かつ、完全版に期待を持たせることもできるわね」


 しかし、1分に重要な部分だけ収めるとか、意外と大変な気がする。ちょっと見せてるだけで10秒とか経つし、それでもう1/6なわけで。


「ミオン、大丈夫?」


『はい。えっと、鑑定したら【アーマーベア:形態変化中】と出た部分。そこから【レッドアーマーベア】に変わった部分。最後のワールドアナウンスのところで締めればいいでしょうか?』


「う、うん」


 もうミオンの中で出来上がりが見えてるのか、テキパキと編集作業に入ってくれる。


「じゃ、ショウ君は概要欄に書く、動画の説明の方を考えなさい」


「ですねー。国語教師が添削しますよー」


「……はい」

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