第74話 納得の行く使い道(予定)

<はいー。お疲れ様でしたー>


「お疲れっす……」


 ばったりとそのまま後ろに、大の字に寝転ぶと、ルピが右腕を枕に寝転がる。

 正直、前回のライブよりも疲れた……


『ショウ君、お疲れみたいですし、すぐ上がった方が』


「んー、片付けしたら上がるよ。ルピ、ごめん」


「ワフン」


「よっと!」


 起き上がって、並べた作品をインベに放り込んでいく。

 整理はあとでいいか。とりあえず、洞窟の広間に放り出しておこう。


「ワフ」


「さんきゅ」


 ルピも皿やらなんやらを運んでくれる。賢い。


<ざっと計算した感じですがー、30万と少しぐらいの投げ銭でしたよー>


「マジか……」


『ショウ君、どうしよう?』


「どうって……どうしよ? とりあえず、上がって部室行くよ」


『はい』


 石のベッドにゴロンと横になると、ルピが隣に寝そべる。

 なんだか、ふわっとしたいい匂いがするんだよな……


「ルピ、今日もありがとな」


「ワフン……」


 やべ、本当に寝ちゃいそうだ、これ……


***


『ショウ君、お疲れ様でした』


「うん、ミオンもお疲れ。ヤタ先生もありがとうございました」


「いえいえー、まったりした感じになってきて良かったと思いますよー」


 ニッコリとするその右手には電卓があって『304,800』と表示されている。

 そうなんだろうなあとは思うけど、一応確認。


「今日の投げ銭の合計額ですか?」


「はい。ここから2割が動画サイト、1割がIROの開発運営会社に取られて、7割がミオンさんの口座に振り込まれますよー」


 7割だからだいたい21万ぐらい。それをたった1日、1時間のライブで?

 そりゃ、ゲームドールズの子たちも必死になってファン増やそうとするよな……


「あれ? じゃ、ベル部長はもっとってことですよね?」


『倍はあるんじゃないでしょうか?』


「いえいえー、そんなに無いですよー。普段は1回のライブで15万円弱ですねー。お誕生日とかはすごいですけどねー」


 視聴者数が多くて投げ銭もたくさん飛びはするけど、ほとんどが300〜1,000円って感じだそうで。

 めでたいことがあった時には、デカい額がバンバン飛んだりするらしいけど……


「じゃ、今日のもご祝儀が多かった感じです?」


「ですねー。収益化して最初のライブですしー、前回のライブが投げれなかったのもあるんじゃ無いかとー」


 ああ、まあ、あっちの方が見栄えのするライブだったし、2回分プラスご祝儀って考えればなんとか納得……ホントに?


「理由は分かりましたけど、正直、今回のライブはめっちゃ疲れました……」


 前回は戦闘に集中し始めてからは、ライブのことすっかり忘れてたし。

 その後はなんだかんだやり取りしてる間に終わっちゃった記憶。


『私もです。前回は部長もいてくれましたし』


 ミオンもベル部長のフォローがあると無いとじゃ、だいぶ違ったって感じかな。

 場数が違うというか、あんな勢いで流れるコメントから、面白い会話になりそうなのをピックアップしてって……やっぱ才能なのかな。


「その辺は慣れですよー。お二人も場数をこなせばできますからー」


 ヤタ先生曰く、ベル部長は収益化するまで、それなりに——それでも早い方だけど——時間がかかったらしい。

 その間、ライブやるごとに視聴者がだんだん増えていったそうで、それもあって慣れてるって話。


「俺ら、まだ今日でライブ2回目なんすけど」


「おかしいですねー。今年いっぱいは収益化なんて全然って予定だったんですがー」


 だよなあ。

 俺もミオンも「まあまあ2桁ぐらいの人がライブ見てくれればいいかな」って感じだったんだけど。


「ちなみに今日のライブ視聴者数ってどれくらいだったの?」


『30,000人ぐらいでした』


「……もう規模がわかんないんだけど」


「スタジアムの収容人数がそれぐらいですよー」


 マジかー……


『ショウ君、欲しいもの無いですか?』


「え、あ、うーん。特には無いかなあ……。あ、そうだ、夏は沖縄で合宿とかって話ありましたよね?」


「はいー、今年もやりますよー」


「うちは家に俺と美姫しかいないんで、あいつが一緒に行きたがったら旅費を出してもらえると助かるかも」


 いくらぐらいかかるのかさっぱりだけど、今日の投げ銭の収入あれば足りるよな?


『はい! 任せてください!』


「なるほどですー。けどー、教頭先生に聞いておかないとですねー。美姫ちゃんは部員でも生徒でも無いですしー。

 保護者が自費で付き添うのはオーケーなのでー、それと同じということで納得してもらいましょうかー」


 あ、そうだった……

 まあ最悪、『たまたま』同じ旅行先に『偶然』日程も行程も同じってことで許してもらおう。


「こんばんは」


「兄上、ただいま!」


 と、ちょうどいいところにベル部長とセス美姫が来てくれた。


「で、収益化後の初ライブはどうだったのかしら?」


「えっと、まあまあ盛況だったでいいのかな?」


『でしょうか?』


「大盛況でしたよー。投げ銭も30万超えましたー」


 ヤタ先生の言葉に目を丸くするベル部長と、うむうむと納得顔で頷いているセス。

 お前は一体何を納得してるんだって感じだけど、それよりもだ。


「美姫、夏に部で沖縄合宿に行くって話があるんだけど」


「なんだと! 我も行きたい!」


 だーよーなー。


「ってことで、ミオンお願い」


『はい。今日の分で旅費とか足りますよね?』


「え、ええ、十分よ。けど、そもそも部員の分は私の収益から出して、経費で落とそうと思ってたし、私が払ってもいいんだけど?」


 とベル部長。

 ミオンの配信がこんなに早くに収益化すると思ってなかっただろうし、最初からそのつもりだったっぽい。


『いえ、セスちゃんの分は私が出します!』


「まあまあ二人とも。ここは間を取って、兄上に出させようではないか」


「おい!」


 そう突っ込むとケタケタと笑うセス。ったく……


「では、兄上の分をミオン殿が払い、我の分はベル殿に払っていただく、これでどうだ? それぞれライブの出演料と思えば良かろう?」


「ああ、なるほどね。それならいいんじゃないかしら?」


『はい!』


 で、しっかり良い落とし所に持ってくんだよな、こいつ。

 天才かよ……うん、天才だったわ……


「はいはいー、明日は休みですがー、そろそろ良い時間ですよー」


「りょっす」


 気がつけばもう11時も回って明日が見えてくる時間。


『ショウ君、明日はIROお休みしますか?』


「いや、別に昼から……。あ、いや、買い物に出ないと冷蔵庫空っぽだったな。

 起きれなかったら、買い物が午後からになっちゃって、少し遅れるかなってぐらい」


『はい。では、おやすみなさい』


「うん、おやすみ」

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