金曜日

第66話 交渉結果と次の目標

「おはよ」


「ぉはょぅ」


 駅ではもういつものことのようにミオンが待ってて合流。

 で、やっぱり昨日の件が気になってるみたいで視線が……


「ああ、ベル部長たち、上手くいったっぽいよ」


「ょかった……」


 俺も気になってて、結局、美姫に「終わったら結果よろ」ってメッセ入れといたし。

 で、11時過ぎになってから、どういう感じだったのかを教えてもらったんだけど……


セス美姫がギルドマスターなんだってさ」


「ぇ?」


「だよなあ……」


 訪れたベル部長、ゴルドお姉様、セスに対して子爵様が出した条件はそれだけ。

 それであれば、セスが助けた御用商人さんも含めて、全面的なバックアップをしてくれるという話だったらしい。


「?」


「なんで他の二人じゃダメかっていうと……ゴルドお姉様は神官だけどアレだし、ベル部長は街中で石壁出した件とかがね」


「ぁ……」


 二人とも冒険者ギルドでの評価は高いらしい。でも、ちょっと問題もあると。

 前もって調べられてたそうだけど、アポなしで行くわけでもないし、事前に誰を連れてくるのかも伝わってるはずだし、そりゃ調べるよなと。


 電車が来て乗り込む。

 4月頭ぐらいは混雑してたけど、今は割と余裕もできて立ってる人も少なめ。


「ただ、開拓に向かうのは古代遺跡の塔があった方面じゃなくて、王都の北西側らしいよ。ちょうどというか、アミエラ子爵がそちら側を任されてて困ってたみたい」


 こくこくと頷くミオン。


「初期メンバーの名簿も渡して、身辺調査が終わったらいよいよ設立だってさ」


 俺もまあ、あの恥ずかしい会議が無駄にならなくて良かったかな……


***


「ショウ君、ミオンさん、エルフのプレイヤーに知り合いはいない?」


「は?」


 部活の時間。

 昨日上げた動画のコメントをチェックしてた俺たちに、挨拶もそこそこに切り出してくるベル部長。


「光の精霊の件を確認したいんだけど、精霊魔法を取る余裕のある知り合いがいないのよね……」


「普通にライブで募集すればいいんじゃ?」


「それだと日曜になっちゃうし、視聴者を実験台にって思われるのもね」


 なるほど……

 すでに精霊魔法を持ってるエルフキャラで、少しでも早く検証ってことか。


『部長。ショウ君のライブで光の精霊の話はしない方がいいですか?』


「いえ、それはしていいわよ。隠すのも難しいでしょうし、何が必要なのかは先に教えてもらったもの」


「いや、別に隠してもいいんですけど?」


 マイホーム紹介の時に、光の精霊を出してないだけで済むし。

 むしろ、散らかり放題のあの空間を見られるのは……


「精霊魔法はエルフ以外でも取りたがってる人が多いから、利益優先で隠すのは良くないと思うわ。

 それに、昨日のメンバーの総意として、ショウ君のプレイを制約しないってことでまとまってるもの」


『なぜですか?』


「変にプレイを制限すると、ショウ君のやらか……すごい発想が減るんじゃないかって」


 ミオンに睨まれて訂正するベル部長。

 いやもう諦めてるので、そこまで睨まなくてもいいよ?


「まあ、わかりました。俺たちは気にせずプレイってことで。で、エルフの知り合いは一人いますよ」


「ホントに?」


『鹿島さん?』


「うん。ナットといいんちょは、いつかセスに合流させようと思ってたから」


 セスのギルドから、未開地の開拓に関する討伐やら採集クエを出せるなら、狩場として悪くない気がする。


「前に言ってたショウ君の友だちね。セスちゃんと顔見知りなの?」


「ええ、魔女ベルを隠したいんなら、セスだけに相手させとけばいいですよ。あの二人は美姫を知ってるし」


 俺としてもその方が安心かな。

 まあ、セスから魔女ベルの件がポロッと漏れたとしても、あの二人なら大丈夫だと思う。


「じゃ、お願いできるかしら」


「りょっす。帰宅してセスに了解とってからナットに連絡かな? いいんちょが今日IROやるかどうか微妙だけど」


『鹿島さんには私から』


「あ、ミオンからいいんちょに連絡取れるんだ」


『はい。その……ショウ君が変なことして困ったら連絡するようにって』


 ……


***


「えーっと、困らせてるならいいんちょに連絡する前に言ってね?」


『大丈夫ですよ。困ってなんかないですから』


 ヤタ先生も部室に来たので、俺たちはIROへ。

 昨日は小さいツルハシ、手斧、ノミ(大)を作り終えたところで、まだまだ作りたい道具はあるんだけどいったん保留。

 まずはいい天気のうちに西側に仕掛けた罠を確認にってことで、そっちに向かってる最中。


「ワフ?」


「ん、なんでもないよ」


 腰には笹ポが入ったポーチ、背中にはバックパック、作った手斧も持ってきている。

 必要だろうということで【斧:Lv1】【伐採:Lv1】をそれぞれSP1で取得。残りSP12になっちゃったがしょうがない。


【粗雑な片手斧】

『片手用の斧。作りがいまいち。攻撃力+18。

 斧:片手持ち武器。伐採:ある程度の大きさまでの木を切ることが可能』


 初心者のダガーの攻撃力が+5だったから、一気に13も上がってビックリした。これで作りがいまいちらしいし、ちゃんと作れたらもう+5とかありそう。


「さて、ちょっと伐採を試してみるかな」


『はい』


 今のマイホームの洞窟から西側へ向かうには、密林を抜けて、一度南の海岸に出る必要がある。

 どうせ頻繁に行き来することになるし、とりあえずは邪魔な枝ぐらい払っておきたいところ……


「よっと!」


 目の前を塞ぐ枝に手斧を振り下ろすと、あっさりと枝が落ちて……ちょっと怖い。


「ゲームだからなんだろうけど、切れすぎる感じがするなあ」


『伐採スキルの影響もあるのでは?』


「なるほど。確かに有り無しでずいぶん違った気がする……」


 スパスパと枝を払って落としていく。

 拾うのは帰りにして、石窯の燃料として使わせてもらうことにしよう。


【伐採スキルのレベルが上がりました!】


「はやっ! まあ1から2だからこんなもんかな?」


『鍛治も3つ作っただけで3になりましたもんね』


「この前会った人たちとか、もうスキルレベル最大まで上がってるのかな?」


『どうでしょう。6からが大変だという話ですけど』


 せっかくだし、ちゃんとスキルレベルまで聞いとけば良かったかな? いやでも、初対面で聞くのもなんだしなあ……


「ワフッ!」


 海が見えるところまで出てくると、ルピが波打ち際までダッシュしていく。

 後ろを見ると、枝を払ってきた部分は「まあ道かな?」ぐらいの感じになっていた。

 でも、これ1日もしないうちに戻るんだろうな……


「本格的に道にするなら、木の根っこを抜かないとダメかな?」


『そうなるとスコップとかクワとかも必要ですね』


 なんか、家の中が道具だらけになりそうな気がしてきた……

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