第50話 新たな食料

「ルピ、さっきぶり」


「ワフッ!」


 飛びついてくるルピを受け止めつつ、いつもの設定で配信開始。


【ミオンが視聴を開始しました】


『ショウ君、ルピちゃん、こんにちは』


「ようこそ、ミオン」


「ワフン」


 部活の時はログインして、石壁のベッドが消えてないのに安心し、ルピにお肉あげて、大きくなってた光苔をまた少し別の石に移植してログアウト。


 帰宅して、いろいろ済ませてログインすると……


「なんか、光苔って案外簡単に増えるっぽいね」


『すごく綺麗です』


 こういうのを間接照明とか言うんだっけ? 古代遺跡から漏れるあかりもあって、かなり明るくなった。


「さて、今日は外かな」


『西の森ですか?』


「そっちも行きたいけど、今日のところは罠を仕掛けるのと、海岸に置いてきた荷物回収するつもり。何か使い道あるかもだし」


 洞窟を出て、昨日作った石窯が無事なのを確認する。

 今までは肉を焼く用のかまどと、焼き物用の石窯は別だったけど、<石壁>の魔法でレンガが作れるようになったので一体化した。


『石壁の魔法、いろいろ使い道がありますね』


「これに鉄板が追加できれば、バーベキューとかできそうなんだよな」


『お肉ばっかりで野菜がないですよ』


「そうなんだよな」


 ゲームとはいえ、肉しか食べてないのは体に悪い気がする。

 いい加減、兎肉以外の食材を探したいところなんだけど……


「あ……」


「ワフ?」


『どうしました?』


「この前見つけた小川に魚いるんじゃないかなと思って」


 かなり綺麗な川だったし、川魚とかがいそうな気がする。

 食べられる魚か、あとは蟹とか蝦とか?


 広場を東に少し歩いて河岸に出ると、またルピが駆け出して川へと飛び込んだ。


『ああ、ルピちゃん、飛び込んじゃうと魚が……』


「大丈夫。釣りするわけじゃないから」


 少し上流の方に大きめの石を積んで囲いを作る。単純な囲い罠で、入り口部分は入りやすいけど出づらいように石を並べるだけ。


『それも罠設置ですか?』


「いや、これは昔、親父に教わった方法かな。これで魚が集まるようなら、蔓とか仙人竹でかご罠作れないか試してみるつもり」


『すごいです……』


 そうかな? まあ、親父がキャンプとか好きだから知ってたってだけだと思うけど。

 トカゲ肉が余ってるので、それをちぎって囲いの中に入れておく。魚がこれ食べるかどうかもわかんないけど。


「ルピ、行くぞ」


「ワフッ」


 海岸の荷物を取ってきたら、また確認に来ることにしよ。


 いったん広場に戻ってから、密林を海岸へと進む。

 こっちの密林の方の罠の数は少し減らそうかな。

 バイコビットはルピが余裕で狩れるし、麻痺毒と皮が有用なサローンリザードだけ狙うようにするか……


「んー、やっぱり砂浜は気持ちいいなあ」


「ワフッ!」


 砂浜にダッシュするルピを見送りつつ、俺は置き去りにしてあったガラクタの整理。


「それにしてもいい天気が続いてるんだけど、ここは雨とかなかなか降らないのかな? 王国とかだと普通に降ってるよね?」


『はい。豪雨っていうのは見たことないですけど、ショウ君のライブを見つける前に帝国で雨が降ってるのは見ました』


「だよね。まあ、そのうちこの島でも天気が悪くなることはあるんだろうな」


 その前に洞窟を占拠できてよかった。前のテントだったらひどいことになってた気がする。

 今なら洞窟に避難できるし、雨止むまで鉱石掘って鍛冶やってって、やることたくさんあるしな。

 でも、天気のいい間に西の森をもう少し調べたい気がしてきた……


「ちょっと西の森の方も行ってみるよ」


『はい。熊に気をつけて』


「うん。ルピ、行くぞ」


「ワフン」


 西の森もフォレビットとアーマーベアしかいないってこともないだろうし、こっちに罠を増やしてみるか。


 ………

 ……

 …


「なんか、今日は雰囲気が穏やかな気がするなあ」


『そうなんですか?』


「うん。前はもっとこう……怖いというかヒリヒリした雰囲気があって、静かだったんだけど、今日は普通の森っぽい」


 と、気配感知の端に何かが引っかかった。


「ルピ、静かにな」


「ワフ」


 気配遮断がしっかり効いてるのを確認し、引っかかった方へとゆっくりと歩を進める。


『鹿ですね……』


 ミオンの言葉に頷く。

 結構でかいし、角がなかなかに立派な鹿が一頭。平和そうに草を食んでいるので狩るのが忍びない気もしてくるんだけど……


【グレイディア】

『灰色の毛を持つ大型の鹿。雄の角は鋭く硬いので注意。

 料理:肉は非常に美味。素材加工:骨、腱、皮は各種素材となる』


 うん、狩ろう。

 真っ直ぐ近づくと奥へ逃げられそうだし、そろそろと反対側へまわり込もうと……


「あっ!」


『逃げられちゃいました』


「クゥン」


「ルピのせいじゃないよ」


 しょげてるのを撫でてやる。

 気配に敏感っぽいし、俺の気配遮断のスキルが上がらないことには、近寄れないんだろうな。

 とりあえず、この辺に罠を仕掛けとくか。今の蔓であのサイズの鹿を繋ぎ止めれるか不安だけど、ダメだったら別の方法を考えよう。


「あの鹿が食べてたのはこれか」


【レクソン】

『繁殖力が強い野草。

 料理:辛味と苦味が強い。茹でるとマイルドになる。調薬:解毒薬の原材料となる』


 ……クレソン?

 少し葉をちぎって口に含むと、クレソンの独特の辛味と苦味が広がる。


『生で食べて大丈夫なんですか?』


「鹿が食べてたし平気だよ。っていうか、これクレソンみたいだし」


『クレソン?』


 うん、まあ、そんなメジャーな野菜でもないし知らないか。

 個人的には好きだし、鶏肉と鍋にしたら美味そうな気がするんだけど……調味料がなあ。

 っと、そんなことしてる場合じゃなかった。とりあえず、こいつは何株か採集して持ち帰るとして、罠を設置しとかないと。

 ただ、今の蔓であの鹿——グレイディアってのを縛りつけておけるかは微妙。


「鍛治ができるようになりそうだけど、さすがにワイヤー作るのは無理があるよなあ」


『あの熊を罠にかけるつもりですか?』


「いや、さっきの鹿でも、この蔓くらいは引きちぎりそうだなって」


『そうですね。ロープなんかがあればいいんですけど……』


 ロープ。ああ、そうか。ロープでいいんだ。


「ミオン、さんきゅ! ルピ、走って戻るぞ!」


「ワフッ!」

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