帝国動乱

第42話 戦利品と後片付け

『お疲れ様でした』


『お疲れ様。大成功だったわね!』


<お疲れさまでしたー>


 もう午後10時前。

 なんだけど、あたりを見回すとゴブリンリーダー、ゴブリンマジシャン、ゴブリンアーチャーの死体が転がってるんだよな。森の中にも16匹分あるはずだし……


「えーっと、戦利品漁っていいっすか?」


『あ、はい! 質問長引いちゃってすいません……』


<延びたのはベルさんのせいですしー、ミオンさんは謝らなくていいですよー>


『ごめんなさい……』


「いいっすいいっす」


 質問タイムを延長したのはベル部長のアドリブ。まあ、それだけコメントに質問が殺到したんだろうなーと。

 部長の魔女ベルの配信はコメント重視でマメに反応してるし、俺もそれには賛成なんで、ヤタ先生が怒らないなら付き合うつもりだった。


『私たちはこちらの後片付けをしますので』


「りょ。じゃ、こっちも片付けしよっか」


「ワフン」


 ゴブリンリーダーの解体で手に入ったのは【魔石(小)】で、今までの極小よりも一つ上かな。落ちてた棍棒はなんというか微妙。

 ゴブリンマジシャンからは【魔石(極小)】だけど、着てたローブと持ってた魔導書は価値がありそう。


【薄汚れたローブ】

『ローブ。防御力+1』


 はい、ハズレ〜。防御力+1って。初心者の革鎧でも+5あるのに。


【魔導書(初級)】

『元素魔法の初級魔導書。

 元素魔法:<火球><石礫><土壁><石壁>……』


「来た!」


『どうしました?』


「ああ、ごめん。やっと攻撃や防御の魔法使えるようになったから」


『やりましたね!』


 思わず声を出してしまって、ミオンが反応してくれる。

 今までMPがほぼ無駄だったもんな。あ、いや、さっきの<急所攻撃><ナイフ投げ>で使ったか。

 アーツにもMPを使うので、このゲームではマジックポイントじゃなくて、マナポイントっていうらしい。ま、アーツ無限に使えると強すぎだしな。急所攻撃とか。


 ゴブリンアーチャーからも極小の魔石。サイズ的にもリーダー以外は全部極小っぽいな。あとは短弓が2組に矢が15本。

 弓のスキルを取るかどうかは悩ましいけど、SP1ぐらいならありなのかな。あ、キャラレベ上がったんだった。

 んー、STR、DEX、AGI、INT、VITに2ずつでいいか。弓のスキルは取っておこう。投擲スキルだと距離的な限界もあるはず……


 で、改めて弓と矢を鑑定する。鑑定にそれぞれの関連スキルが必要なのは、凝った作りだよなと思う。


【壊れかけの短弓】

『短く湾曲した弓。壊れかけている。攻撃力+7。

 木工:修理可能』


 おっと、これはラッキー? あー、でも竹があるんだし、自分で作った方がいいものができそうな気がするな。


【ボロボロの木矢】

『木でできた矢。ボロボロで今にも壊れそう。攻撃力+2。

 木工:修理不可』


 これ、ルピに当たっててもダメージ入ってなかったんじゃ。

 短弓はどっちも壊れかけで、木矢はどれもボロボロっていうのは、参考にして自分で作れってことかなあ……


<ライブのアーカイブはそのまま公開設定でいいですよねー?>


 と急にヤタ先生から振られる。


「俺はOKす」


『はい、公開でいいと思います』


 特に勿体つける必要もないし。


<ではー、こちらの片付けは終わりですねー。私は落ちますがー、ゲームはほどほどにー>


「お疲れ様でした」


『『お疲れさまでした』』


 釘は刺されたけど、まあまあ遅くまでプレイしても大丈夫だよな。


『私もちょっとIROへ行くわね。コラボした件で生産組からお呼びがかかってるのよ』


「あー、はい。お疲れ様っした」


『今日はありがとうございました』


 二人が退室して、改めて「ライブ終わったんだな」としみじみ思う。

 俺自身がコメントどうだったかとか見れてないけど、好評だったって感じでいいんだよな?


『ショウ君、もう少し続けます?』


「うん、明日は日曜だし、キリの良いところまではやるつもり。ミオンは疲れてるなら落ちていいよ」


『大丈夫です!』


 なんかちょっとテンション高めだけど、本当に大丈夫なのか不安になる。


「ライブやってみてどうだった?」


『すごく楽しかったです。始まる前は不安でしたけど、先生が「いつもどおりでいいんですよ」って言ってくれて、ちょっと詰まっても部長がフォローしてくれて』


「それなら良かった」


『ショウ君、ありがとう』


 急に生声で言われてビックリする。ちゃんとした声量で聞くと、すごくいい声してるんだな……


「あー、無理はしないで」


 まあ、日付が変わる前には終わるようにしないとかな。俺もさすがにちょっと疲れてる感じするし。


「で、セーフゾーンってやっぱり中かな」


 この広場に無いってことは、間違いなく洞窟の中だよなあ。

 薄暗くて気味が悪い感じなんだけど、気配感知には反応はなし。掃討しましたってメッセージがあったぐらいだから、もう敵はいないだろうけど。


『中を見る前に他を調べてみるのはどうでしょう?』


「あー、そだね」


 ひとまず洞窟は保留。セーフゾーンは別に海岸にもあるし。

 洞窟がある崖づたいに東側へ少し進むと、少し下りた先でかなり綺麗な小川にぶつかった。


「ワフッ!」


 ルピが勢いよく飛び込み、ざぶざぶと気持ちよさそうに泳ぎ始める。

 川幅は3mほどで向こう岸はないというか崖。その先には行けなさそう。


『魔法で水を出さなくても良くなりましたね』


「ああ、そっか。粘土こねるとかなら、ここの水で十分だよな」


 洗い物なんかもここでできそう。やっぱり広場に拠点を移すかな。


「ルピ、行くぞー」


「ワフン!」


 戻ってきたルピが犬ドリル、もとい、狼ドリルしてもふもふ復活。

 ゲームだからって気にしてなかったけど、リアリティーを考えたらたまに洗ってあげたほうがいいのかな? いや、シャンプー……石鹸がないな。


 そのまま川に沿って東側へと進んでいくと、流れは海岸沿いの険しい岩場の中へと消えていった。


「あれ? この辺って来たことある?」


『はい。もう少し進むと、以前、海岸沿いに来た場所ですよ』


「あー、あの崖上に出るのか……。ってことは、やっぱり北側へは抜けられないんだな」


 逆方向、洞窟を西側に、島の中心へと向かう方向は崖が続いて、そのまま岩山のようになっている。

 それを超えた先はアーマーベアがいるあたり?

 まあ、明日はじっくりと洞窟の中を調べるか。中にセーフゾーンが出来てるんなら、あの広場に拠点を移して、アーマーベア対策を考えたいところ。


「ワフ?」


「ん、行くか。先に倒したゴブリンたちの戦利品漁りに行くよ」


『はい』


 仕掛けてある罠もいったん全部解除して回収しないと。

 拠点移してって考えると、広場の周囲も木々を間引いて見通し良くして……


「ワフ!」


「ああ、ごめんごめん」


 ルピも疲れてるだろうし、さっさと回収して終わりにしよ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る