第33話 弟子入りしたくなる人

『ショウ君、ルピちゃん、こんにちは』


「ようこそ、ミオン」


「ワフッ!」


 というわけで、帰宅して夕飯作って食べて、宿題もサクッと終わらせてIROに。

 一応、バーチャル部室の方に寄ったんだけど、ベル部長は既にIROに行った後。

 あの後「情報提供者は秘密ってことで共有しておくから」って話になったので、いいようにお任せしますってことで。


 本来ならゲーム内で情報料としてお金か何か対価をもらうらしいけど……それはまあ部長が受け取っておいてください。俺、もらう方法ないし。


 まずはルピに兎肉のミンチと水を与えて、次に自分の飯を。うん、いい加減、兎肉の串焼きも飽きてきたな。味変したい……


 コップと皿と洗って、火は起こしたままに。先に焼き物用に別のかまどを作って温めておくかな。


「ルピは好きにしてていいぞ。あ、奥の方までは行くなよ?」


「ワフン!」


 そう答えると西の密林の方へと駆け出して行く。

 バイコビットでも狩りに行ったかな。まあ、狩れたら咥えて戻ってくるはず。


「じゃ、まずは窯を作ってみるか」


 とはいえ、浜辺で大きな石を拾ってきては、できるだけ隙間ができないように組んでいくだけ。

 最初から土鍋を作るよりも、とりあえずコップを数作った方がスキルレベルも上がるんじゃないかなっていう。


『窯を作るのにスキルアシストって効いてるんでしょうか?』


「一応効いてるっぽい。どのスキルで効いてるのか、いまいちよくわかんないけど……」


 せめてレンガとかあれば、もう少しマシな形に組めると思うんだけどなあ。

 小一時間ほど頑張って、大きなダンボールぐらいの石窯が完成。そういえばと思い当たって鑑定してみると……


【粗末な石窯】

『とりあえず焼けるという程度の石窯。

 料理:品質にマイナス補正。陶工:品質にマイナス補正』


「お、おう……」


 出来が悪いのはしょうがないとして、料理にも使えるのか。いや、そりゃまあ使えるか。

 とはいえ、パンもピザもグラタンも小麦粉がないな。肉だけで何か……ローストラビット的なのならありかも?


「ワフッ!」


「ルピおかえり。って、バイコビット2匹咥えるって器用だな」


 さくっと解体して、ご褒美がわりに兎肉を少し切って与えてやる。

 美味しそうに食べた後は、眠くなったのか草むらにごろんと横になってお昼寝モードっぽい。


「さて、粘土こねるか……」


 採集してきたのは二種類の粘土。赤粘土は前と同じで、新しく白粘土を発見した。


【白粘土】

『白い色の粘土。

 陶工:陶器の原料となる』


『他にもいろんな粘土がありそうな感じですね』


「西側とかも折を見て探しに行かないとなあ」


 まあ、今はとりあえず試せればよし。


 元素魔法の<浄水>で水を混ぜつつ、まずは量のある赤粘土をこねる。

 空気が入ってると割れやすくなるはずなので、しっかりこねて空気を抜いてから、とりあえず取っ手なしのコップを。


「やっぱ小学生の工作っぽいな……」


『手作り感があっていいじゃないですか』


「うう、恥ずかしい……」


 これが動画になって配信されるんだよな。まあ、木皿とかもいびつだったし、いまさらか……


 とりあえず石窯に収まる分だけ作って焼き開始。

 結構な温度にしないといけないはずなので、拾ってきた枯れ枝や枯れ木をがんがん放り込む。


「……リアルだと数時間かかると思うんだけど、このゲームだとどうなんだろ?」


『ちょっと調べてきましょうか?』


「あー、うん。お願いします」


『はい!』


 さすがにゲーム内でも同じだけ待てってことはないと思うんだけど。でないと、鍛冶とかめっちゃキツイよな?

 でも、こんなマイナースキルを取ってるプレイヤー、他にいるのかって気もしてきた。調べてもわからなそう……


 ともかく、火の勢いを落とさないようにすることしばし。


『ショウ君、わかりました。15分ほどでいいそうです』


「マジか!?」


『フォーラムに一人、ずーっと陶工やってる人がいるみたいで、メモがわりに一人で書き込んでました』


「すげぇ……」


 ちょっと弟子入りしたくなってきたんだけど。

 なんだろう。リアルでも陶芸してる人とかなのかな。わりと男のロマン的な部分あるもんなあ。


 あ、今どれくらい経ったかわかんねえ!


『時間が経つとメッセージが出るそうです』


「あ、そうなんだ。良かった」


 ほっとしてしばらく待ってると……


【陶工:焼き上がりました】


「お、できたっぽい」


『待ってください。自然に冷まさないといけないそうです。これも15分ぐらいだそうです』


「なるほど」


 耐熱手袋とか火箸があれば取り出すんだけどな。次に焼くときは引き出せるようにするとして……火を消して放置しかないか。


「気分転換に罠の見回りにでも行くよ」


「ワフッ!」


 腰を上げると散歩だと思ったルピが嬉しそうにじゃれついてくる。

 最近のルーチンになってる感じだけど、そろそろ罠関連のレベルが上って欲しいところ。


「今週末ぐらいには、ゴブリン集落を落としたいかな」


『いよいよですね!』


「土曜か日曜にしようと思ってるけど、ミオンはどっちのほうがいい?」


『土曜の昼以外は大丈夫ですよ』


「オッケー。じゃ、土曜の夜かな」


 それでダメだったら日曜に再チャレンジって感じで。


 ………

 ……

 …


 部活で見回ったあとだけど、結構、罠にかかってて驚いた。もっと頻繁に確認にいってもいいのかな。

 しかも、サウスネークの肉で安定してサローンリザード取れるのがおいしい。サローンリザードの皮はきっと使える素材になるはず。

 そして、


「なんか今日はスキルレベル結構あがったな」


『良かったです。部活に引っ張られて、ゲームあんまり進んでない気がしたので……』


「あー、そこは別に気にしなくていいよ。オープン限定組に入れたのもラッキーだったし」


 今日だけで、短剣スキル:Lv3、解体スキル:Lv4、鑑定スキル:Lv4、投擲スキル:Lv3、気配感知:Lv4、気配遮断:Lv4、採集:Lv4、罠作成:Lv3、罠設置・解除:Lv4に。


 やっぱり、使ってると上がるんだよなあ。


「さすがにもう冷えてるかな?」


 手をかざして冷めてるのを確認。とはいえ、やけどは勘弁なので慎重に取り出す。


「おお、できてる!」


 造形はアレだけど、ちゃんとコップができてる。いやー、ゲームだけどリアルっぽくてめっちゃ嬉しい。


【陶工スキルのレベルが上がりました!】


「お、陶工スキル上がった!」


『おめでとうございます。でも、それまだ素焼きだそうですよ』


「えっ……」

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