第32話 所属国家:なし

『ショウ君、そろそろ5時半です』


「りょ、戻るよ」


 仕掛けた罠の見回りをやって、サローンリザード1匹、バイコビット2匹をゲット。途中で出会ったサウスネーク1匹はルピがあっさり倒した。

 これで罠作成がLv2に、罠設置・解除がLv3にレベルアップ。見回りの途中に赤粘土、パプの実、罠に使える蔓を探し、こっちで採集がLv3に上がった。


 インベントリに空きがなくなってきたところだったし、ちょうどいいかな。


「腐りそうにないものは外でいいか」


 粘土やらはテントの周りにどさっと置いておく。どうせ外で作業になるし。

 蔦もかな。一応、風で飛ばされないように石でも乗せとくか。


『倉庫が欲しいですね』


「なんだよなあ。やっぱ、そろそろゴブリンの集落を潰すか……」


 陶器ビンが作れれば、パラライズポーションが用意できるし、ピンチの時用にヒールポーションも何個か用意しておきたい。

 後は、うまく釣って罠にはめていけば、各個撃破でなんとかなりそうな気がしてる。レベルも上がってきたし。


「じゃ、落ちるんで」


『はい』


 ………

 ……

 …


 リアルビューに戻ってくると、ベル部長はまだIROをやってるっぽい。


『お疲れ様でした』


「うん、お疲れ。素材加工のスキルって、やっぱりフォーラムに載ってた?」


『はい。あの、伝えない方が良かったです?』


「いやいや、助かったよ。スキルありすぎて、説明全部読んでたらどれだけかかったやら」


 よくまあこれだけ用意したよなって数のスキルがあって、探すのも一苦労だったし。

 クエストのネタバレとか踏まないなら、俺も公式フォーラムは見ておくかなあ……


『ヤタ先生は何を見てるんですか?』


「先程公式から発表がありましてー、次の日曜に新規の制限を解除するそうですー」


「意外と早かったっすね。一ヶ月ぐらい様子見かと思ってましたけど」


 無人島スタートがバレちゃったから、ってのは関係ないよな?


「それに前後してメインストーリーが始まるそうですよー。まー、ショウ君には関係なさそうですがー」


 そう言って俺たちに公式の告知ページを見せてくれる。

 えーっと『第一章 帝国動乱編』と……


『ショウ君、どこの国にも属してない感じですよね』


「そうだけど、他の普通のプレイヤーって属してるものなの?」


「チュートリアルで各スタート地点の冒険者ギルドに登録するのでー、そこで所属が決まる感じですねー」


 はい。チュートリアルとかありませんでした……


 その登録をしないとギルドカードがもらえず、当然クエストが受けられなくなるので、しないプレイヤーはいないらしい。

 現状、俺ぐらい? 他にも無人島スタートしてるプレイヤーがいるかもだけど。


『プレイヤーの行動で世界が変わるんでしょうか?』


「そのはずですよー。IROはそれが売りでもありますしねー」


 動乱の世界に生きるってのは、いかにもな王道ファンタジーって感じ。

 ナットは帝国でスタートしてるし、こういう展開が好きだろうから、燃えてそうだよな。


 そんな話をしていると、5時40分になって部活終わり通知が来て、ほどなくしてベル部長もリアルビューへと戻ってくる。


「ふう、やっぱり麻痺攻撃してくる相手は厄介ね」


 ん? 麻痺?


『麻痺攻撃を持つ相手が出てくるんですか?』


「ナリンスコーピオンっていう蠍ね。尻尾の先から毒液を浴びせてくるんだけど、複数匹出てくると大変なのよ」


 麻痺すると大盾スキルのアーツ<挑発>が使えなくなって、タンク役がヘイトを稼げなくなって……って感じらしい。

 そういえば美姫セスもシールドバッシュってアーツ使ってたな。俺は短剣スキルが全く上がってないし……っていうか、まともな戦闘ほとんどしてないな。

 いや、それよりも……


「麻痺を解除するポーションとか魔法とかないんです?」


「アンチパラライズポーションはNPC店売りでかなり高いのよ。神聖魔法の<麻痺解除>はまだ使えるプレイヤーが少ない上にMP消費が大きいわ」


 そうなんだ……


『ショウ君、さっきの』


「あ、うん。えっと、パプの実って手に入らないんですか?」


「入るわよ。王都の南の村に行くクエストで見かけたかしら。それに干した物がドライフルーツとして売られていたりするわね」


 干し柿ですね。わかります。

 美味しい携帯食料としての価値はあるんだけど、いまいち満腹度が上がらないせいで買うプレイヤーはいないんだとか。


 っていうか、ポーション作ってるプレイヤーたちが気付いてないのか?


「で、それがどうかしたのか?」


「あ、すいません。ちょっとこれを」


 ついさっきまでのゲームプレイのアーカイブを取り出し、パプの実を鑑定したところを見せると……


「……」


「へー、面白いですねー」


 硬直するベル部長とニコニコしてるヤタ先生。


「ポーションはプレイヤーが作ったのが出回ってるみたいですけど、これには気付いてないってことです?」


「そうね。王都に売られているのはドライフルーツの状態だもの。それを鑑定しても、この『麻痺状態を解除する』っていう文言は出ないのでしょうね」


 パプの実は生のままでは流通してないそうで。

 あとやっぱり、今のところはヒールポーションの需要が多すぎて、そっちばっかりになってるらしい。


「麻痺持ちを相手にしているのは、今のところ攻略トップ組だけね。ショウ君、この情報は私たちが懇意にしてる生産組に共有してもいいかしら?」


「はい。というか、俺はまず陶器を作らないと調薬ができないので、誰かに検証してもらえると助かるなーっていう」


 今日の夜に陶器作りを試してみて、それがうまく行ってやっとだからなあ。スキル取ったとはいえ、一発目でうまく行く気があまりしないし……


「助かるわ! もちろん、検証した結果は提供するわよ。それに、パプの実以外にも加工品しか鑑定していないものを見直すきっかけになるわね」


 俺が検証するよりもずっと丁寧にやってくれるに違いない。そもそも器具がちゃんとしてるだろうし。


『ショウ君。見せた部分は投稿する動画に入れない方がいい?』


「あー、そっか。情報の出どころが俺って疑われて、部長たちと繋がってるのがバレるかも?」


「私としてはバレても別にいいんだけど……」


 ヤタ先生に視線が集まる。


「昨日の件もありますし、少し落ち着くまでは伏せた方がいいでしょうー」


「時期を見て、ミオンさんと私でコラボしましょ。その後はお互い知り合いだということで気兼ねなくやれるようになるわ」


 おおお、それはちょっと見てみたい……けど、俺が二人に観察されるだけ?

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