第24話 あがりはどうしよう

 夕飯を作って、食って、洗い物もして、宿題も終わらせたら8時半をまわってしまった。

 慌ててVRHMDをかぶると、ベル部長もミオンも先生も部室にいるっぽい。


「ばんわー」


『ショウ君』


「来ましたねー」


 あれ? 待ってた感じっぽい?

 今日はベル部長の配信もないと思うけど……


「すいません、何かありました?」


「気にしなくていいわよ。特に何かあったわけじゃなくて、ミオンさんのチャンネルを収益化できるよう進めるって話ね」


「一週間で条件を突破するとは思いませんでしたねー」


 そう言いつつ、ヤタ先生が一枚の書類をミオンに渡す。


「学校へのバイト許可申請書ですか」


「はいー。早いうちに出しておいた方がいいかと思いましてー。今ここで書く必要はありませんよー。ちゃんとご両親に説明してオッケーをもらってくださいねー」


 ちゃんと申請書類とかあるんだ。いや、普通そうだよな。


『ショウ君』


「ん? どうしたの?」


『収益化した時のお金どうしよう?』


「どうって、ミオンのお金じゃないの?」


『ショウ君のゲームプレイを実況してるのに?』


「う、うーん……」


 確かにそうなんだけど、編集は全部ミオンがやってるし、そもそもチャンネルがミオンのだしなあ。


「というか、ベル部長はどうしてるんです? やっぱり親御さんの口座に?」


「いえ、ちゃんと自分の口座を作ったわよ。そうしておかないと、親の副収入みたいな扱いに取られかねないもの」


「な、なるほど……」


 チャンネルを収益化したら、当然、振込先口座が必要になるそうで、それはベル部長——香取鈴音——名義の口座にしてあるらしい。

 で、そこから学校に寄付したり、必要なゲームソフトをガンガン買って、必要経費ってことにしてるんだとか。


「IROを始める前はいろんなゲームに手を出して、それを実況配信してたのよ。でも、ゲームなんて当たり外れはやってみないとわからないでしょ?」


「まあ、そっすね。前評判高かったのに、実際にプレイするとテンポが悪くてイラつくとかありますし」


「事前にある程度のリサーチはしていたけど、やはり自分でやって面白いゲームの方がライブの盛り上がりも違うものね」


 さすがというかセルフプロデュース力が高すぎる……


「まー、実際に収益化を始めるまではしばらくありますからー。その間にミオンさんとショウ君でしっかり話し合っておいてくださいー」


『はい』


「りょっす」


「あとー、次の動画の投稿はいつでしょー?」


 昼に編集してたし、週明けには投稿できるんだろうと思うけど。


「火曜日の予定です」


「じゃー、月曜に見せてもらいますねー」


 結構しっかりしてるよなあ、ヤタ先生。まあ、そうでないと姉貴の担任なんて務まらなかったよな。


「えっと、じゃ、IRO行っても?」


「はい、どうぞー。あ、ライブの練習ということでー、私は一ユーザーとして見させてもらいますねー」


「わかりました」


 ベル部長も見たそうな感じだったけど、今日はIRO内で懇意にしてるユーザーとの約束があるそうで。

 MMORPGはゲーム内の人付き合いも重要だよな……俺はやらなくていいけど。


***


「ワフッ!」


「っとと、ちょっと待ってくれ、ルピ。配信しなきゃな」


 いつものようにミオン限定配信を開始。すぐに視聴者数が1になる。


『ショウ君、ルピちゃん、こんにちは』


「ようこそ、ミオン」


「ワフ」


 さて、まずはルピにご飯かな。てか、テントの中が作った木皿やらコップやらでいっぱいだ。


<はい、見れましたよー。あ、私からの質問に答える必要はないですからねー>


 グループ通話でヤタ先生の声が聞こえてきたけど、答える必要はないらしい。まあ、ミオンとしか話してないって前提だもんな。


「ルピ、ご飯な」


「ワフン」


 お約束となった兎肉をミンチにしたものを渡すと、がつがつと美味しそうに食べてくれる。

 自分は昼に料理スキルあげるのに作って食べた分で十分っぽいし、ルピが食い終わったら罠の確認に行くかな。


『お昼に仕掛けた罠の確認ですか?』


「うん、そのつもり。まあ、そんなすぐに何かかかってるとは思えないけど」


 ルピがミンチ肉を平らげ、しっかりと水も飲んだところで、いざ出発。


「ルピ、見回り行くぞー」


「ワフン」


<ルピちゃんってかなり賢いですねー。調教スキルが上がればー、もっと賢くなるんでしょうかー?>


 答えなくていいって話なのに質問されると困るんですけど……と思ってたら、


『ルピちゃん、本当に賢いですね。調教のスキルレベルが上がるともっと賢くなったりするんでしょうか?』


「あー、うん、どうだろ。今のままでも十分賢いし、可愛いからいいけどね」


 なるほど、ミオンが代わりに質問すればいいのか。っていうか、ヤタ先生がそう持っていったって考えるべきかな。

 ライブのときに出た質問を拾って俺に投げるって感じの。


 しばらく歩いて一番近い罠の場所に到着。けど、作動した様子は全くなし。

 この辺はバイコビットも滅多にいないし予想通りかな。


「じゃ、次へ」


『はーい』


「ワフ」


 もう少し先にある次の罠設置場所へと向かう。


「お?」


「ピスッ! ピスピスー!」


 見事に後ろ足を吊られたバイコビット。敵意剥き出しなんだけど……


「ルピ」


「ワフッ!」


 ジャンプして首筋をガブッと。ルピの重みで垂れ下がる蔓を途中で切ってやる。


『ちゃんと罠にかかってましたね!』


「意外とうまく行くもんだなあ。いやまあ、ゲームだからなんだろうけど」


 解体して肉と毛皮を手に入れた後は、罠の残りを回収しておく。ここはあくまで試しだし。


<罠猟師みたいですねー。本当にスローライフっぽくなってきましたー>


 ヤタ先生の感想が聞こえてくるけど、衣食住全部最低限できてるだけだからなあ。

 こう、山小屋作って、ウッドデッキでゆったりコーヒーとか飲みたい……


「よし、次行くか」


「ワフ」


 少しずつ奥の方へ。一番奥はゴブリンの集落がギリギリ見えるあたりに設置したので、ひょっとしたらって可能性がある。


「そういえば、あそこにいるゴブリンって倒してもリポップするのかな?」


『リポップ?』


<倒した分の新しいモンスターがわくことですねー。ちまちま倒しても数を減らせないっていう問題がありますよー>


 ヤタ先生のいいフォローが入る。ってか、顧問やってるだけあって、先生もかなりゲーマーっぽいよな。


「倒しても1日経ったら元の数に戻るってなると、一気に殲滅してクリアフラグ立てないとなんだよね」


『なるほどです。でも、その島がお一人様専用なら、そんなにすぐにリポップしないんじゃないかと』


「ああ、そっか」


 それでも、できれば1時間ぐらい、最悪2時間以内に全滅させたいところ。それオーバーすると翌日に持ち越しとかなって、絶対にリポップしそうだもんなあ……

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