第8話 活動内容
……
俺は無言でベル部長を見たが、全く動じていないようだ。
ここまで演技できますか。そうですか……
俺はバーチャルアイドルのライブはたまにしか見ないんだけど、同時視聴者数が余裕で万越えるんだ……
昨日の配信なのに再生回数はすでに10万を軽く超えてるし、さすがバーチャルアイドル上位勢って感じだ。
画面左下にベル部長のバストアップが映っていて、その後ろにはゲーム画面という一般的な実況プレイスタイル。
胸元が映っているのがポイントなのだろう。めっちゃ揺れてるし。
やってるゲームはIROだけど、当然、俺が知ってるIROとは全く違う。
普通に街中で買い物をしたり、冒険者ギルドでクエストを受けたり、そのクエストでゴブリンやらオークやらを倒すという普通のMMORPGだ。
それでも、ベル部長のキャラのベルが小ボスクラスを魔法で撃破すると、投げ銭がバンバンと飛んでいる。正直コワイ……
『私たちもベル部長のお手伝いをするのが部活ですか?』
ナイス、ミオンさん。俺もそれが聞きたかった。
ぶっちゃけ、俺はそれでもいいかなと思ってる。有名バーチャルアイドルがどういう配信してるのかを間近で見れるのも面白そうだ。
だが、
「それは強制しないわ。もともと備品がしょぼすぎて電脳部というのに相応しくないのを、どうにかするための苦肉の策だったもの」
そう苦笑するベル部長にヤタ先生も大きく頷く。
「電脳部は廃部寸前だったんですがー、ベルさんが入ってくれたおかげでなんとか持ち直したんですよー。
それで部費もほぼゼロだったのでー、バーチャルアイドルで部費を稼ぐっていう感じだったんですけどねー。稼ぎすぎちゃった感じですー」
稼ぎすぎちゃったって……さっきの動画を見ただけでも、それは十分わかるけど!
ここの機材費もそれで賄われてるんだろうし、どんだけ稼いだんだよって話……
「んー、じゃ、俺たちは何をすれば?」
「それなんだけど、特にこれがしたいっていうのがなければ、私とは別のバーチャルアイドル活動を始めてみない?」
ということはミオンさんかな?
俺は裏方に徹する感じで……と思いつつを見てみると、彼女もちょっと面食らっている。
『私はゲームをプレイするのは苦手ですし、ショウ君のIROプレイを見てたいです』
え、あ、うん、まあ、はい。そんな面白いかねえ、あれ……
「なるほどー、ミオンさんは見る専なんですねー」
「そうそう、その話の途中だったわ。ショウ君はどこ所属で始めたの? 帝国? 王国? 共和国?」
あああああ! うやむやになってた話題に戻ってきた!
どうする? いや、どうしようもないよな、これ?
「えーっと……、その、どこでもないです……」
ちらっとミオンさんを見ると楽しそうな顔をしている。これはバラしてもいいということなの? どうなの?
<話していいですよ。初めてあった日のアーカイブはありますか?>
ウィスパーしてくれるミオンさん。ありがとう……
「どこでもないってどういうことなの?」
「まだキャラクリしたばかりですかー?」
俺は心を決め、
「えっと、これを見てください」
そう言って、初日の配信アーカイブをルームメンバー限定にして再生する。
「え、これって……」
ベル部長は例のワールドアナウンス知ってるっぽいな。
画面ではただの砂浜に降り立っただけの俺が合計30Pもの特殊褒賞SPを得ている。
部長も先生も俺の初日配信アーカイブに夢中だ。
ミオンさんもまだ配信に来る前だから見てない部分だったんだろう。
独り言ぶつぶつ言ってるのとか見られてめっちゃ恥ずかしい……
と、それは最後の方に差し掛かって、コメント欄にミオンさんが登場した。
「「え?」」
二人同時にそう漏らし、そのまま再生は終了した。
「ひょっとして、今のはミオンさん?」
『はい。たまたま見つけたIRO配信がショウ君だったんです』
「えーっと、ミオンさんがIROの配信を探してたら『たまたま』ショウ君の配信を見つけたってことでいいのかしら?」
『はい。本当に偶然見つけて、何のゲームだろうって覗いたら』
「じゃ、本当に偶然だったんだ」
いやまあそうだよなあ。偶然以外で見つかる方法は無かったはずだし。
「待って。そもそもショウ君はどうやってこの無人島に?」
「はぁ、まあ、それ話すのはいいんですけど、他の人に言わないでくださいよ。特にIROプレイヤーには……」
俺は無人島スタートをする方法と、なんでそんなことをしたのかを話す。
開始時にめちゃくちゃ探しまくって幾つかの上陸可能な無人島を見つけ、そのうちの一つを選んだこと。
そもそも、普通にMMORPGをプレイする気がないからこそ、こんな変なプレイをしているということ。
初日に配信してたのは完全にデフォで配信するの気づいてなかっただけだし……
「なるほど、わかったわ。確かにこの状況なら私たちと一緒にプレイするというわけにもいかないわね……」
ベル部長が考え込んでいる。
今からキャラを作り直して、俺の島に来ようっていう気なの?
それはちょっと無人島の楽しみが減るので勘弁して欲しいんだけど……
「うーんー……」
だが、ヤタ先生は腕を組み、困った顔で唸る。
「何か問題がありますか?」
「去年の実績がありすぎるんですよねー。新入部員のお二人にもそれなりの活動をして欲しいんですー。結果が出なくてもしかたないですけどねー」
おぅ……
でもまあ顧問の立場なら、部活動としてアピールする場があって、それをしないのは困る感じかな。
「わかりました。でも、俺が実況プレイってどうなんでしょ? 無人島でのゲームプレイは珍しいかもですけど、プレイ自体は多分すごく地味っすよ……」
ライブやっても人は来ない、アーカイブも再生数一桁ばっかり、とか続くと『結果が出なくても』とはいえ悲しいものが。
ヤタ先生もベル部長もそれについては「いまいち」と思っているのだろう。考え込んでるし。
ふと、ミオンさんを見ると、俺の方を見てニコニコしてた。……謎。
と、ヤタ先生がガバッと立ち上がり、キラキラした目でこう言った。
「ショウ君のプレイをー、ミオンさんが実況して配信はどうでしょー」
「無人島プレイ実況中継という感じでしょうか?」
ああ、なるほど。面白いとは思うんだけど、
<俺はいいけど、出雲さん大丈夫?>
引っ込み思案っていうか、人と話すの苦手っぽいからなあ。
いきなり大人数を前に喋るのとか、苦痛じゃないといいけど……
<やってみます。これを通せばちゃんと声も出せますから>
<そう? まあ、無理はしないで>
<ぅん、ぁりがとぅ……>
いきなり生声の方で囁かれるのはビクッとするのでやめてください……
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