第7話 バーチャルビュー

 どんだけ偶然なんだ……

 俺の頭の中は高速回転……していなかった。

 いやいや、ミオンって名前ならありふれてるかも? 別人だよね?


「終わったかしら?」


「アッハイ。大丈夫デス……」


「はぃ……」


 香取部長が少し怪訝な顔をしているが、とりあえず今は置いておく。


「じゃ、ネット上の部室に招待するから入ってね」


 その言葉とともにルーム招待が送られてくる。


【ベルからルーム「美杜大附属高校電脳部部室」に招待されました。入室しますか?】


 ここも迷わずに「はい」を押す。

 リアルビューモードなので特に変化はないが、これがバーチャルビューモードなら仮想の部室が見えるんだろう、多分。


「さて、この部屋での部活中、および、家からの部活内ではお互いにディスプレイネームで呼び合うことになってるわ。よろし?」


「りょ」


 俺が答え、出雲さんはコクリと頷く。

 まあ、俺が悪友の柏原直斗を常に「ナット」と呼んでるのと同じだ。あいつも俺を「ショウ」って呼ぶしな。


 香取部長は「ベル」で、出雲さんは「ミオン」

 で、出雲さんが俺の配信を見に来てくれてた「ミオン」さんなのか?


 俺のディスプレイネーム「ショウ」を見て、出雲さんが少し驚いていた気がする。

 あれは昨日見てた配信主のディスプレイネームと一致してたから?


「じゃ、まずは各々の自己紹介&プロフィール確認タイムにしましょ。まずは伊勢君、ショウ君からお願いね」


「はい。えーっと、1-Bの伊勢翔太です。好きなものはもちろんゲーム。今は一昨日から始まったIROやってます」


 俺はそう言ってちらっと出雲さんを見ると……なんかニコニコしてんすけど……

 で、香取部長はというと、うんうんと頷いている。俺のプロフからゲームのプレイ履歴を見てるっぽい。


「じゃ、次は澪さん、ミオンさんお願い」


『1-Bの出雲澪です。ゲームの配信を見るのが好きです。最近はIROの配信ばかり見てます』


 シャベッタアアァァァ! ……チャットの合成音声で。

 なるほど。声に出すのが苦手なだけで、ちゃんと考えを伝えようって気はあるんだ。

 まあ、あの「ミオン」さんも普通にお話しできてたしな。で、ミオンさんの声にとても似てる。というかそっくりだし……


 香取部長はというと、何やらニヤニヤしていてどうにも嫌な予感しかしない。

 というか、部活動って「バーチャルアイドル活動」なんだよなあ……。出雲さんをデビューさせようとか考えてたりすんの?


<今日も配信しますか?>


 そう耳元で聞こえて飛び上がりそうになる。

 合成音声とは言え、知らない女の子からウィスパー(個人間チャット)されるなんて初めてなんだよ!


<あ、うん、するけど……。今日もってことは、やっぱり俺の無人島生活を見にきてたミオンさん?>


<はい! 楽しみにしてますね>


 あー、やばい、めっちゃ恥ずい。


「二人ともIROに興味があるようで良かったわ。私はクローズドベータから始めてるし、配信も好評なのでしばらくはこれメインね。

 で、ショウ君はどこをスタートに選んだの? キャラのビルド方針はどういう感じ?」


 やっぱ、その質問来ますよね、ええ……

 まあ正直に話した上で、香取部長が「魔女ベル」である秘密とで相殺してもらうしかないか。


 そんな事を考えていると、部室の扉が静かに開いてスーツ姿の女性が現れた。


「あらー、伊勢君と出雲さんがこの部に入ってくれるんですねー」


 そう嬉しそうに言うのはうちのクラス担任の熊野先生。国語教師。27歳独身。ショートボブに赤縁メガネ。ちょっと小柄だが生徒の人気は高いらしい。

 ちなみに卒業した姉貴の担任だったと聞いている……


 その先生が部室の一番奥のお誕生日席に座った。


「えーっと……ひょっとして熊野先生が顧問です?」


「ですよー。早速フレンド登録しましょー」


 VRHMDを被って認証を済ませたのか、俺と出雲さんに手を向ける。


【最寄りのユーザー「ヤタ」のフレンド申請を受諾しますか?】


 もちろん「はい」を選ぶ。

 フレンドリストのオンライン枠に「ミオン」「ベル」に続いて「ヤタ」が追加された。


「じゃ、先生も来たので部活の説明をしましょうか。せっかくなのでバーチャルビューに行きましょ。ショウ君、鍵を締めてくれるかしら?」


「あ、はい。でも、俺みたいに誰か入部希望で来たりしないです?」


 全員でバーチャルビューに行くと、リアルで誰か来ても気づかないので、部屋の鍵をかけるのが基本。けど、部活勧誘時間はまだ終わってないわけで……


「大丈夫ですよー。誰か来てノックしたらわかるようにしてありますからー」


 ヤタ先生曰く、セキュリティーと連動してVRHMD内に通知が飛ぶようになっているらしい。

 部室まで改造済みってことですか……


「りょっす」


 俺が鍵を閉めて元の席に戻ったのを確認し、香取部長が宣言した。


「じゃ、みんなでバーチャルビューに行くわよ」


 リアルビューからバーチャルビューに切り替わる瞬間は普通は目を閉じる。なんかこう、世界が急に変更されるので脳がバグるからだ。


「っと……」


 目を開くとそこは……なんか良くあるRPGの酒場兼食堂みたいなところで、その一角にリアルの席順と同じように座っている。


 香取部長は俺も知っている魔女ベルの姿。とんがり魔女帽にローブというお約束ではあるが、この人もともと美人だったし、正直かなり似合っている。アニメ調のアバターだと刺々しい感じも薄まるね!


 ヤタ先生はリアルと同じようなスーツ姿。というか、同じ服装どうやって探したんだろうってぐらいそっくりだ。


 逆に俺と出雲さんはデフォルトの男性・女性の衣装だ。姿形も現実の俺たちに近いが微妙に髪型とか髪色とかは変えてある。

 俺はアバター衣装に金を突っ込む人間ではないので当然として、出雲さんがデフォ衣装なのには驚いた。もうちょっと着飾ってもいいような……


「さて、二人ともようこそ電脳部へ。まずは、今までの部活動について知ってもらうわね」


 香取部長、もとい、ベル部長がパチンと指を鳴らすと、上座の位置にウィンドウが現れ、そこに動画が再生され始めた。


『いえーい! 魔女ベルのIRO実況はっじまっるよー!』

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