会談

Yasu\堂廻上山勝縁

会談

 やあ、久しぶりだなエヌ。こうして、一対一での会話は何年ぶりだろうな?何せ大学出てからはあって話したりすらしなかったんだよな。まったくもってクソ見たいな人間だよ俺は、笑ってもいいぜ?しかし、もうだいぶ日が暮れたものだな。十月だしな、これからどんどん日が暮れていく時間が早くなって訓だろうな。


 いや、折角の再会なんだ。少し、面白い話でもしようぜ?


 そうだな。じゃあ、一昨日見た夢の話でもしようか。とっても不思議な話なんだ。心して聞けよ?


 まずな、俺は何にもないところに一人で突っ立っていたんだ。あたりを見渡しても本当に何もないんだが、とりあえずは歩いてみようと思ってな、一人でまっすぐ前へ前へと歩いていたんだ。そしたらな、随分と歩いた先に黒いドアがポツンとあったんだ。不思議に思ったよ。本当に何の変哲もないドアが一つあるだけなんだからな?そして、俺はそのドアに好奇心が沸いてな、恐る恐る開けてみたんだ。すると、パッとドアから光があふれ出てきたんだ。耐えきれなくなって俺は目を思わず閉じちまったよ。でもな、それは始まり過ぎなかったんだ。


 もういいかと思って目を開けてみるとな、お前がいたんだよ、エヌ。お前がどこかもわからない駅のホームに突っ立っていたんだよ。不気味だったぜ?お前の表情が全く見えなかったし、他に駅に人はいないし、俺が「よお!久しぶりだな!」とか、「元気だったか?」と言っても、何にも答えないんだぜ?本当に気味が悪かった。


 そしたらな?電車が来る音がしたんだ。まあ、駅だから来ることは当たり前なんだよ。


 その後が問題だったんだ。聞いて驚くなよ?何とお前が倒れるように線路に落ちたんだ!すぐに俺はお前を助けようとお前に手を伸ばした。そして、ありったけの声で「捕まれ!」って言ったんだ。だけどな、お前は一向に線路に落ちったきり立ち上がりもせずに線路の上でばたりと倒れているだけなんだ。しかたなく、俺は線路に飛び込んでお前を担いでホームに戻ろうとした。だが、もうその時は遅かったんだ。電車は止まることもなく俺たちに襲い掛かったんだ。「嗚呼、死ぬな」と思った時にはもう跳ねられていたんだ。夢のはずなのにな。


 目が覚めると今度は銭湯にいた。覚えているか?大学の近くに小さな銭湯があっただろう?よくお前と一緒に入ったものだな。懐かしいよ。もう、五十年は続く老舗だった銭湯だ。そこに俺は何故か居たんだ。お前もいたよ。俺の隣の風呂で一人で黙りながら入っていたよ。また、俺は不気味に思ってしまったんだよな。そして、俺は同時に嫌な予感がしたんだ。本当に突然にそう思ってしまったんだ。残念なことにそれは的中しちまった。


俺が見ていることに気づいたのか、俺のことをちらりとお前が見た時だ。お前がいきなり転倒しやがったんだ。しかも、そのまま水の中に溶け込むように入っていったんだ。俺は「大丈夫か!?」っていいながらそっちに向かった。そして、呼吸を整えて息を吸ってから、風呂の中にへと潜った。案の定、お前は溺れていやがった。すぐに俺はお前のいる深さまで泳いだ。こうみえて俺は水泳が得意だからな、造作もないことだった。そんで、お前を掴んでさあ戻ろうとしたときに俺は違和感に気づいた。無我夢中でお前のことを助けようとして気づかなかったことだ。「こんなに風呂って深さあったか?」ってね。考えてみれば子供でもわかることだ。で、気づいたときにはもう遅かった。いくら泳いでも水面に届かなくなった。おまけに風呂な のに水の流れが速かった。もがいても、もがいても、もがき続けても、届くことはなかった。また、俺は意識を失ったんだ。


 気づいたら俺は職場にいた。俺の職場は大手企業の旅行会社だ。お前にもLINEで伝えたあの企業さ。その職場で俺はいつものように仕事をしていた。しばらくして俺は飲み物でも買いに行こうと立ち上がった。すると、隣になぜかエヌ、お前がいたんだ。また、嫌な予感がしてしまった。そして、その通りになった。突然、職場の外から悲鳴と銃声のような音が聞こえた。そして、近くにいた同僚たちが混乱した様子を見せる。そして、ドアが大きな音をたてて開いた。銃を持った男が一人だけ、そこに立っていた。


 次の瞬間、男は銃を乱射した。俺はエヌ、お前をまた守ろうとして無意識に体が動いちまった。お前の肩を引っ張って、床の上に転がりこんだ。だが、幸いなことに近くにあった机と椅子がいい妨害になってくれていた。


 だが、それも長くは続かなかった。突然、銃声が鳴りやんだと思った瞬間、俺は人の気配を感じて前を見た。そこには、男の足が見えた。そして、銃声が聞こえたかと思うと、俺は意識を失った。もう、嫌だった。「またか」ってね。


 あの後も、地獄は続いた。ある時はビルから落ちて自殺しようとしたお前を助けようとして死んだ。またある時は通り魔からお前を助けようとして死んだ。またあるときはお前が崖から落ちそうになったところを助けようとして死んだ。そんな、生き地獄が何十回、


何百回と続いた。もう狂いそうだった。


 やがて、俺は何十回目かで理解した。この悪夢はお前を助けることをあきらめないと覚めないんじゃないかという結論に。


 薄々気づいてはいた。だが、できなかった。夢の中とはいえ、お前が死ぬのに見て見ぬふりをするのはできなかったんだ。滑稽な話だ。たかが夢なのに。


 だが、俺もさすがに疲れたんだろう。絶望の中にいたんだろう。もうどうしようもなかっただろう。俺は、あきらめる決意をした。


 最後の場所はまた駅のホームだった。最初の駅と酷似していたが、違うところは天が怒り狂ったかのように雷雨を振らせていたところだろう。エヌ、お前の顔はあまり良く覚えてはいないが、うっすらと疲れ果てていたような顔をしていたことは覚えているよ。雨が強くなってきていた。雷の音も、爆弾が爆発するような音が何回も鳴り響いていた。


 そして、ついにその時が来た。お前がまた倒れるように線路に落ちていったんだ。俺は


もう、動くことはなかった。段々と電車の音が近づいてくる。汗が止まらなかった。今、俺は人を見殺しにするのだと、それに耐えるんだと、必死に心に訴えかけていた。そして、電車はお前に激突した。鈍い音が聞こえて、血が飛んできた。不思議と晴れやかな気分になった。そして、俺は目を覚ましたんだ。


 最悪な気分で目が覚めた。そりゃそうだろうよ。あんなひどい夢を見たあとなんだからな。職場にいつも通りにいっても、仕事はちっとも進まなかった。夢のことを思い出しては消え、消えては思い出していった。あの、意識を失っていく感覚、幾度となく思い出したお前の背中、それらすべてをなんとなくだが覚えていた。そして、なぜか死ぬときの瞬間のみは鮮明に思い出していた。そして、仕事が終わった帰り道にスマホが鳴った。俺とお前と同じ大学の同級生のブイからだった。そして、知ったんだ。お前の死をな?エヌ。


 青天の霹靂だった。お前が死んだなんてにわかには信じることなど不可能だったからな。デマなんかじゃないかと自問自答を繰り返したよ。さらに衝撃的だったのは死因だ。駅から転落して電車にひかれたんだと聞いた。


 俺は、夢を再び思い浮かべた。俺が、殺した。俺が殺したんだと思った。まさか、正夢になるだなんて思いもしなかった。俺は、自らが助かるためにお前を見殺したんだ。その夜は眠れなかった。


 話が長引いてすまないなエヌ。もう、あたりは先ほどと違って真っ暗になっちまったよ。しかし、何とも不気味な雰囲気だな墓場というのは。もう、鈴虫やコオロギの鳴く声しかしない。こうやって、お前の墓前で話しているのも、不思議な感じがしてならないんだ。やっぱり、お前がまだ生きているんじゃないかと思ってな。


 実は、まだ俺は信じているんだよ。お前が生きていることをな。さっき、葬式が終わったところなのによう。でもな、どうしても感じるんだ。お前の気配を、雰囲気を、本当におかしなことだと思わないかい?


 そこでだ。俺はまだここは夢の世界なんじゃないかと仮説を立てたんだ。それならばつじつまが合う。ここで、俺が死ねばお前にまた会えるような気がするんだ。今、俺は一つのナイフを持っている。これを突き刺せば俺は夢からやっと覚めるんじゃないかと思うんだ。そしたら、夢から覚めて、一杯のみにでも行こう。もう、ここには誰もいない。主導権はすべて俺にある。嗚呼、でもいざ首にナイフを近づけてみても恐怖が襲いかかってくるんだ。


 本当にここは夢なのだろうか?それとも、現実なのか?もう、俺には分からない。分かろうともすでに思わない。すでに何百回も死んでいるんだからな?今更、分かりっこないさ。でも、本当にここでナイフを首に刺したら解決するのだろうか?


 なあ、どうなんだろうな?


 お前だったら知っているのか、エヌ?


 教えてくれよ。教えてくれよ。


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