第314話●早緑美愛公式チャンネル定期配信第七回

「配信入ります、5秒前、4、3……。」

「……20時になりました!みんな!こんばんは!早緑美愛だよ!今日はいつもの配信なんだけどちょっと大きな発表があるので緊張しているよー!発表へ行く前にまずは最近の振り返りからだね。」


 未亜が最近あったことをコンパクトに話をしていく。途中、コメントの反応も上手く拾いながら話をするけど、日向夏さんや西陣さんと違うのは、タレントの公式配信ということもあって、ウルトラギフト読みをしない、という点だということに最近気がついた。彩春さんも西陣さんとしての配信では必ず読むのだけど、彩春さんとしての定期配信では必ずしも読むわけではない。この辺、面白いなあ、と思ってL01スタジオ内に設置されているブースから未亜のことを眺めている。

 ちなみに俺のいまいるブースは最初このスタジオが出来た頃には存在していなかったのが、いつの間にか常設になっていた場所。なんでも途中から入るゲストなどがけっこういたことで、毎回仮設ブースを作るのが大変という所からの常設化だそうだ。全面ガラス張りなのだけど、映るとまずいという人の出演スペースにも使われている関係で、ブラインドを下ろすことが出来るようになっている。とはいえ、ブラインドを完全閉じてしまうと未亜の姿が見えなくなってしまうので、開けたままにしてもらっているんだよね。このブースにはコメントが見えるモニタやマイクなども設置してあって、今日はこれから姿を見せる駒元さんと大宮さんも一緒に待機している。


「それでは、そろそろ雨東さんにも入ってもらうねー!雨東さん、どうぞ!」

「みなさん、こんばんは。今日もよろしくお願いします。」

「もうレギュラーになった感のある雨東さんですが、文明放送でやっているラジオもなかなか好評で本当にありがたいよね。」

「本当だよなあ。」

「定期配信とラジオではなんか違うよね。」

「あちらは収録ならではの空気感、こちらはリアルタイムの躍動感、という感じだな。」

「そうか!さすが作家先生!説明が上手い!」

「そんなでもないと思うけど、あっ、そろそろ次に進む時間じゃないか?」

「あっ、本当だ。えっと、実は今日は大事なお知らせがあるんだ。ということでまずはこちらの映像をご覧下さい!」


 映像が流れはじめると同時に駒元さんと大宮さんがスタジオへ移動していく。ちなみに今日の映像はなんとオクダイナンコさんの作ったプロモーションビデオ。なんかすごい面白そうなゲームの開発が始まった映像になっている。


「はい!ご覧いただいたとおり、せまじょのアプリゲームが開発されることになりました!ということで、今日は、アニメ版『セントハイディアン王国の魔物と聖女』にて主役の聖女オリーブを演じられた駒元今日華さん、ゲームアプリの開発責任者であるオクダイナンコエンターテインメントの大宮健一郎さんにお越しいただきました!」

「お邪魔しています!アニメ版せまじょで聖女オリーブ役を務めております駒元今日華です!今日はよろしくお願いします!」


 駒元さんもさすがにファンの多い声優さんだけあって、コメントがすごい。


「皆さん、初めまして。オクダイナンコエンターテインメントでせまじょのアプリ開発を担当しております。大宮と申します。よろしくお願いします。」


 コメントがすごい勢いで流れる。大宮さんはドルプロに携わっていた時期もあるのか、そんなコメントもちらほら。

 未亜は二人と上手くトークしながら、台本を膨らませつつ、アプリの概要に関して話題を展開していく。細かいシステムはまだ公表できないようで、RPGであることとか、カードイラストは全て帯屋わたるおよび桜内碧が手がけることとか、いままで小説に出てきたキャラクターは総出演だとか、今の段階で話せる内容が次々と公開され、コメント欄もものすごい盛り上がっている。


「全キャラクターということは外伝の内容なんかも出てくるんですか?」

「はい、もちろん出てきます。ストーリーの基本は先生の物語なので、外伝で出てくるキャラクターたちも本編に登場したタイミングでゲームに現れるとお考え下さい。」

「そうすると駒元さんと一緒にお仕事できる感じですね!」

「そういうことだね!」

「二人は仲がいいですね。」

「あっ、雨東さん、そう見える?」

「うん、なんかすごく気があっている感じ。」

「駒元さんには声優としての心得とかいろいろと教わったからねー。」

「そんなそんな。私もまだまだだから!」

「アイドルの片手間仕事と見られずにちゃんと本職の声優としても皆さんから認めていただけているのは、駒元さんにいろいろと教えてもらったからです。本当に感謝しています。」

「美愛ちゃーん!」


 二人が抱き合ったところでディレクターさんからそろそろ締めという合図が出た。未亜は番組を締める方向で話を進め、1時間の番組が終わりを告げた。15分の会員専用コーナーは駒元さんと未亜の二人で、どんな感じで仲良くなっていったのかをトークする様子が収録された。

 有名なアニメ監督が俳優や歌手だけで一本のアニメ作品を作ったときに出演していた人たちが声優としての演技力や表現力を各方面から叩かれまくったのを見ていたこともあって、未亜としては「アイドルの片手間で声優なんか出来るわけがない」といった批判が一番怖かったとのこと。外伝のボイスドラマや朗読劇はまだアニメーションという形態になっていないのでそんなにプレッシャーはなかったもののちゃんとしたアニメ作品である「赤い月と青い太陽」の話が決まったときはプレッシャーがすごかったらしい。彩春さんにもだいぶ助けられたみたいだけど、それに加えて、声優として芸歴10年を誇り、ドルプロでも9年以上のキャリアを持っている駒元さんのアドバイスは身に沁みたようだ。

 逆に駒元さんは4年前に声優アーティストとしてメジャーデビュー、単発のアニバーサリーライブを経て、いよいよ今年ライブツアーをすることになり、未亜に歌手としてツアーをすることについて助言が欲しかったそうだ。未亜は割と感性で表現するタイプなのだけど、理詰めで行くのが好きな駒元さんとしてはその表現や心持ち、心がけ、特に会場ごとにできるだけそのときに感じたままの風景を描けるようにしているというアドバイスは、全会場で同じようにしなければならないと考えていた駒元さんには思いもよらなかったアドバイスとなったとのこと。大学の仲間とはまた違ったラインで親しい知人が出来るというのはいいことだよね。15分のトークが結局25分になってしまったけど、大いに盛り上がったので良かったのかも。もしかしたらそのうちお互いのライブにゲストで呼び合うとか、そんな展開もあるのかもね!

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