第327話●梅田アリーナこけら落とし公演前日

 金曜日をほぼ一日使って行われたドルプロのボイス収録はとても上手くいったようで、未亜は喜び勇んで帰ってきた。


「ほとんど一発OKだったよ!」

「それはすごいな!」

「オクダイナンコの人たちも驚きつつすごい喜んでくれたよ。来週から始まる全体曲の収録も楽しみにしていますっていわれた!」

「近いうちに『まりあコンビ』の共演もありそうだな。」

「うん、ななかさんも裏で取ってたんだけど一発OKだったから、早いところイベントにしたいっていってた!半年くらいの間で動きがあるのかも!」

「いいアドバイザーと知り合えて良かったな。」

「そこには圭司も入るよ。客観的な見方も大事だったからね。」

「そうかな?」

「そうだよ。」

「それなら嬉しいな。」

「うん!」


 いい人たちとの巡り会いっていうのは、なかなか得られるものでもないから、本当にありがたいことだよね。もちろん、俺たち二人の関係もとても上手くいっている。寝るときにベッドでいちゃいちゃして、二人ともそういう雰囲気になったら愛し合っているのだけど、未亜もだいぶ慣れてきたみたいで、艶やかな声が漏れるようになってきた。未亜にもちゃんと気持ちよくなって欲しいから少しずつ良くなってきているのであればこんなに嬉しいことはないよね。この前、慧一がなんかちょっと漏らしているのを聴いている感じではあちらの二人の仲も良好みたいだし、仲間たちも含めて順調な状況なのは本当に嬉しい。


 ボイス収録が終わったばかりのドルプロも含めて、この夏は未亜にはいろいろなイベントが待っている。その最初を飾るのが7月17日の梅田シアターアリーナこけら落とし公演だ。

 セトリはとてもオーソドックスなのだけど、早緑美愛のファン層ではない人たちもけっこう見に来るので気が抜けないらしい。あと、今回はスペシャルゲストとして、以前大阪でライブをしたときに未亜がラジオで共演させてもらった泉沢りあさんが出演することになっている。泉沢さんの曲に未亜がハモりを入れるということで、そのレッスンもけっこう大変だったみたいなのに楽しいっていえるんだから俺のフィアンセはやっぱり大物だよね。考えてみるとこの前はきださんのコンサートに未亜がゲストとして出演して未亜が歌うところにきださんがハモりを入れたわけだけど、今回は逆の立場になる感じなので、それも楽しみだなあ。


 今回は前日からこけら落とし公演が始まっている関係で、会場での前日リハが出来ないのだけど、同じ建物の中にある大崎スタジオ&アカデミー梅田スタジオで前日リハをすることになっている。そんなわけで、ドルプロのボイス収録の翌日、朝一番で社宅北口のタクシー待機所から華菜恵さんと未亜、俺の3人でタクシーに乗って、東京駅へ向かう。当たり前のようにメンバーに加わっているけど、単なるフィアンセのはずなのに本当にありがたいことだよね。ちなみに智沙都さんは瑠乃さんや心菜ちゃんの仕事があるので東京に残ることになっている。東京駅日本橋口で待っていた太田さんと合流して、7時21分発の新幹線で一路新大阪へ。


「そういえば、朝ご飯として食べるお弁当を買い忘れたな。」

「ちょっと時間がなかったからねー。」

「三人ともちゃんとお弁当を買っておいたわよ。」

「あっ、シウマイ弁当ソウルフードですね!」

「太田さん、ありがとうございます!」

「いえいえ、先生には去年のお返しって感じかな。」

「あっ、そんなこともありましたね!」


 去年、サイン会ツアーで時間がタイトなときにあらかじめ買っておいたことがあったけど、それをちゃんと憶えていて、こういうタイミングで返しているっていうのが太田さんがここまですごい人になった理由の一つなのかもなあ。


 新幹線は順調に進み、あっという間に静岡を通過した。美愛も華菜恵さんも爆睡している。華菜恵さんはこの出張にあわせて連日けっこう遅い時間まで頑張っていたみたいだからなあ。それにしても華菜恵さんまで含めてみんなグリーン車って考えてみるとすごいな。ちなみに太田さんはノートパソコンを見ながら考え込んでいる。なんか企画書とかを書いているのかもね。

 9時48分に新大阪へ着くと華菜恵さんがあらかじめ予約しておいてくれたワゴンタクシーに乗ること10分、車は梅田シアターアリーナのある梅田扇町トリプレットタワーの地下駐車場へと入っていった。普通のコインパーキングへ入る車路のほかに「搬入関係車両」と書かれた車路があって、タクシーはもちろんそちらへ入っていく。途中の検問所みたいなところで太田さんが社員証を見せるとそのまま中へ進んでいくことが出来た。


「さあ、着いたわ!」

「皆さん、お待ちしていました。」


 出迎えてくれたのはすっかりおなじみの近藤さん。今日の公演は近藤さんの管轄ではないそうで、案内してくれる時間があるのだとか。梅田シアターアリーナ自体の案内はまたあとで、ということで、まずは大崎スタジオ&アカデミー梅田スタジオへ案内される。ここは新宿と同じようなレッスンスタジオのほかに普通のフィットネスクラブも経営していて、より一般の人たちが利用できるようになっているそうだ。もちろんレッスンスタジオは大崎の関西支社に所属するタレントがレッスンできるように設備が整っていて、いままで外部のレッスンスタジオを時間で間借りしていたのと比べるとタレントのレッスンは質が大きく向上するだろう、ということだった。専用の設備が出来たらそれは確実にメリットあるよね。

 未亜はレッスンウェアに着替えると一番大きなレッスンスタジオで早速リハに入る。何でもこの一番大きなスタジオは、梅アリのステージとほぼ同じ広さを取っている上に梅アリのステージを模した場ミリも施してある本格志向なのだとか。名古屋と博多に出来るアリーナもそれぞれレッスンスタジオが整備されるので同じようなステージを模した設備のあるレッスンスタジオが出来るんだって。近藤さんが「渋谷にも欲しいですけど、大人数のレッスンでも利用できて、稼働率が上がるレッスンスタジオやフィットネスクラブとアリーナが一体化しているからこそ出来ることですよね。」と笑っていたけど、これは本当にすごいね。

 途中お昼休憩を挟みながらリハは順調に終わり、客席以外の設備をざっと案内してもらう。この秋にはまた来ることが決まっているので、未亜も華菜恵さんも熱心に質問しながら見学を進めていたのが面白かった。


 梅アリの見学が終わると今度はサイン会ツアーで大阪へ来たときにも出演したFM720でオンエアしている泉沢いずみざわりあさんMCの番組へ出演するということで太田さんと未亜は出かけていった。本当は俺も同席したかったのだけど、FM720が局内の改装を進めている関係で狭くなっているらしく、梅アリと同じ建物にあるHOTEL RIDING OSAKAに取ってもらっている部屋でのんびり待っていることになった。ちなみに華菜恵さんも居残り組だけど、定時まではメールの処理をするのでのんびりは出来ないらしい。いつも本当にお疲れ様です。

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