第301話○「My dream, Your dream」渋谷公演当日後半です!

『曲終わりでショートMCからハケは予定通り、みなさん下手しもて。ハケはじめで緞帳げ。そのにステージスクリーンり。OKまでステージ立ち入り禁止です。』


 イヤモニに近藤さんからの指示がくる。うん、予定通りだね!


「『時計台の下で』『広い道で向かい合う二人』『あなたがくれた人形』と3曲聴いてもらいました!このあとはみんなお待ちかねのバーチャルライブだよ!準備をしてくるからみんな休憩して待っててねー!」


 そこまで話してみんなで捌ける。バンドメンバーは引き続き演奏なんだけど、少し休憩をするために一回ステージから降りる感じだね。私は下手に着替えのスペースが用意されているので、そこでモーションアクターのスーツに着替えることになっている。そのあとはステージの背景裏に回って、いつものように歌う流れ。


「ただいまより舞台転換のため、10分間の休憩に入ります。」


 休憩に入る旨のアナウンスを聞きながら、畳二畳くらいの特設ブースに入ると早着替えを手伝ってくれる3人のスタッフさんによって、イヤモニが外され、汗が拭われ、衣装が脱がされ、モーションスーツをあてがわれ、メイク直しまで行われる。ブースの外から聞こえてくる華菜恵のタイムコールが残り3分と告げたところで、準備は万端!さあ、いよいよ初めてのバーチャルライブだ!


「まもなく公演を再開いたします。ロビーにいらっしゃるお客様は席までお戻りください。」


 渋アリのステージはバーチャルライブに対応しているので、背景幕の後ろにトラスが組んであって、緑色のマットが敷いてある。この辺はBSの収録と同じだね。ここのステージがすごいのは背景幕。客席側から見ると背景の幕は単なる幕にしか見えないんだけど、実はマジックミラーのような感じになっていて、後ろからステージを通して客席の反応がある程度見えるようになっている。配信ではさらにAR技術?を使っているそうで、ステージ上を3Dで動くバーチャルな私が楽しめるそうだ。なんか本当にすごい世の中になったね。


「お待たせいたしました。それでは、公演を再開いたします。」



〈ブーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ



 再開のブザーが終わるともに一曲目、「円山町の夜に」のイントロがかかる。


「あらためて、バーチャルな早緑美愛だよ!ここからは渋谷バラードでお楽しみ下さい!」


 バンドメンバーの後ろ姿を見ながら歌うのはなんか新鮮!BSの収録と同じようにいまどんな感じか、配信している映像が見られるのだけど、配信の映像は本当に私がそこにいるかのようにカメラワークまで凝った感じになっていて面白い。こういうライブも面白いね!

 順調に3曲歌い終わり、4曲目の「宇田川町裏通り」が後奏に入ったところで近藤さんからの連絡が入る。


『ここから日向夏さん、西陣さん、ナインショートの皆さんがスペシャルメンバーとして入ります。早緑さん、プロンプターの紹介を読んで下さい。』


 ええっ!!!!!またそうやって聞いてないことを!!!!!へべすとつむぎは最初は朋夏と彩春として客席にいたじゃない!驚いてあわあわしていると下手からみんなが本当にやってきた!話すと声が乗ってしまうので、軽く会釈をしあう。


 5曲目「松濤桜公園」のイントロがかかったところで、プロンプターの紹介を読み始める。


「ここからはなんとスペシャルゲストの第二弾です!へべす、つむぎ、そしてナインショートメンバーの皆さんがコーラスで参加してくれます!」


 自己紹介はまたあとで、ということなので、普通に歌っていく。いつ練習したのか判らないけど6人ですごいきれいなハモりを入れてくれた。無事に歌いきったところで、プロンプターにフリーMCという表示が出た。


「あたらめてご紹介します!自己紹介をどうぞ!」

『合図で早緑さん下手ハケで着替えです。』

「しめなったか!日向夏へべすちゃが!」

『早緑さん着替えの間は皆さんでつなぎお願いします。』

「こんつむぎー、はい、西陣つむぎだよ!」


 近藤さんからの指示がイヤモニに入ると同時にプロンプターには「ナインショートからお知らせあるので振って下さい。」と表示された。なんだろう?


「こんうめです。赤梅エンジェルです。」

「クリクリース!織田クリスだよー!」

「レインボーパワー充填完了!虹色こはく参上!今日は渋谷を虹色に染めるためにやってきた!」

「いちばんわー!銀杏秋桜だよん。」

「いやあ、すごいね!実はみんなが出てくれることも聞いていなくてね。」

「シークレットだったんだよねー!」

「そうなんです。」

「なんかナインショートのみんなからお知らせがあるの?」

「はい。実は5月1日付で私たち大崎へ移籍することになったんです。」

「そうなの!」

「ええっ!そんな話いましちゃっていいの?」

『早緑さん、ハケて下さい。』

「はい。おそらくこのタイミングでニュースリリースも出たと思います。」

「そうなんだ!いろいろ聞きたいことはあるけど、私はリアルの世界に戻らないといけないからその間みんな、よろしくね!」

「まかされたよん!」

「早緑様、行ってらっしゃい!」


 私はそのまま下手に捌けて先ほど着替えたブースに入るとすごい勢いで再度着替えが始まる。イヤモニを外しちゃっているからなにを話しているか判らないけど、あとで教えてもらおうっと。スタッフの皆さんの手が素早く動いて、あっという間に無事に着替え終わって、イヤモニも装着完了!


『早緑さん、戻ります。アンコール前2曲Vのみなさんと合唱、アンコール前ラス曲早緑優璃さんバックダンサーで入ります。』


 シークレットメンバーも含めて、全員出演か!すごいね!

 元々リハの時に指示があったとおり、スクリーンとバンドメンバーの間に設けられているスペースへ復帰する。


「リアルの世界に戻ってきたよ!」

「「「「「「おかえり!」」」」」なさい。」

「じゃあ、いよいよ最後の2曲!ラストまで全力で行くよ!」


 「あなたに出会えて全てが始まった」「カーテンコール」の2曲はみんなで大合唱!いつも会場のみんなも歌ってくれるから違和感がなくていいよね!「カーテンコール」では百合ちゃんも入ってくれて、大団円っていう感じだけど、ここからまだ「主役」「My dream, Your dream」と続くアンコールもある!


「みんな!今日はありがとう!早緑美愛でした!」


 上手袖に捌けて、華菜恵からタオルを受け取る。緞帳が下がったようで客席の歓声がだいぶ小さくなった。


「早緑さん、お疲れ様です。4分巻きで14分です。」

「華菜恵、ありがとう!」


 華菜恵と楽屋へ急ぐ。いまこの間にバーチャル投影用のスクリーンがいったん天井へ上げられて、そのあと、告知が流れるはず。ちなみにバーチャルから戻ってきたときの衣装は、有明2日目と同じ衣装で、着脱しやすいので、有明の3日目と違って、華菜恵だけが付き添いとなっている。楽屋に入って、渋谷公演記念Tシャツとデニム地のショートパンツに着替えている間に華菜恵は脱いだ衣装をハンガーに掛けてくれる。


「4分巻きママで7分。」

「余裕あるね!もう出られるよ!あっ袖に白湯が欲しいかも。」

「伝えるね。」


 華菜恵が楽屋に鍵を閉めながら袖のスタッフさんへ白湯のリクエストをしてくれた。袖に戻るとちょうどビデオが今回の全公演の映像作品化を告知しはじめたところ。ここから3分くらいまだあるはずだからだいぶ余裕を持って行けるね。

 告知映像が終わり、ステージは再び真っ暗になったあと、すぐにバーチャル投影用のスクリーンが下りる。そして、みんなのざわめきの中、スクリーンが完全に下りきったところで下手からバンドメンバーがステージへと姿を見せると大歓声が起こる。所定の位置に付いたところで、「主役」のイントロだ!ゆっくり歩いてステージの0番へ立ち、一回お辞儀をしてから歌い始める。この曲はきっと一生付き合っていくことになるんだろうなあ。本当に嬉しい。最後まで歌いきると同時に「My dream, Your dream」が始まる!


「さあ今回のライブツアー、本当の最後の曲は、未来に向かって輝くこの曲!『My dream, Your dream』聴いてね!」


 ナインショートのみんなはバーチャル、つむぎ・へべす・優璃ちゃんはリアルステージで、それぞれ一番から入ってきてくれて大合唱!「主役」が静の代表曲なら「My dream, Your dream」は動の代表曲になってくれそう、そんな予感がする。

 最後はみんなで横一線に並んで……。


「今日はご来場、」

「「「「「「「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」」」」」」」


バンドメンバーも笑顔!シークレットで出てくれたみんなも笑顔!いいライブだった!

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