第293話○百合ちゃんの本所属オーディション!

 とても盛り上がった明貴子と紅葉のバースデイパーティーから開けた翌日、私は今日も朝からテレビ局やラジオ局の生放送をはしごして、5thアルバムの宣伝をしている。いろいろなところから声がかかって本当にありがたいよね。


 一通り宣伝が終わると今日は事務所で百合ちゃんの本所属最終選考に参加することになっている。本所属最終選考は瑠乃の時に参加させてもらって、さらに百合ちゃんの最終選考にも立ち会えるなんて嬉しい。それにしてもこの前、仮所属になったばかりなのに早いなあと思っていたのだけれど、考えてみれば、特待レッスン生って仮所属みたいなものだから百合ちゃんが大崎の一員になってからもう5か月以上経ったんだね。半年くらいが一番多いって前に聞いた記憶があるから太田さんとしてはこれも計画通りなのかも。


 15時過ぎに事務所へ着くといったん太田さんから指定されていたミーティングルームMへ向かう。


「おはようございます!」

「美愛、おはよう。いい話が2つあってね。」

「おおっ!」

「一つ目は無地逸品さんが秋に展開するキャンペーンでの起用が決まった。」

「えっ!うれしいです!」

「春に新生活をはじめた二人が冬を前にまたいろいろなものをそろえるっていうシチュエーションみたいね。日程とか確定したらまた共有するわね。」

「判りました!」

「あともう一つは2件目のCMが決まった。」

「すごいですね!?」

「クライアントは東鉄ホテルさんで、秋の観光キャンペーンよ。こっちは美愛が夏休みに入ったら地方ロケを入れるから大変だけどよろしくね。」

「楽しみにしています!」

「じゃあ、次は百合のオーディションね。着替えたら18E05までお願い。」

「はい!」


 CMが二つも決まったんだなあ、しかも一つは無地逸品さんが継続起用して下さるっていうありがたい話だし、全国ロケのあるキャンペーンに出られるというのもすごい嬉しい!いい心持ちで更衣室へ向かい、さみあんモードから通常モードに変えた上で、トレーニングウェアに着替えて、レッスンスタジオ18E05へ顔を出す。


「おはようございます!」

「「おはようございます!」」


 18E05には、太田さんと峰島さん、華菜恵が既にスタンバっていた。そして、瑠乃や私の時と同じように長机2台、パイプイス6脚、ノートパソコン1台という感じで用意されている。


「今日は、笹原さんと米花よねかさんと私で審査、演技フォローは美愛、審査事務は智沙都ね。華菜恵は智沙都のフォローをよろしく。」

「「「はい!」」」

 コンコン

「失礼します!おはようございます!」

「おはよう。」


 百合ちゃんがやってきた。百合ちゃんはこの審査が形だけのものって知らないからすごいガチガチになっている。これだと万が一が起きちゃうかもしれないから声を掛けよう!


「百合ちゃん、難しいかもしれないけど、リラックスリラックス!」

「はっ!美愛さん、ありがとうございます!」

「さすが美愛ね。百合、そんなガチガチになっていたら実力が出ないからね。」

「はい!頑張ります!」


 百合ちゃんのウォーミングアップが終わったところで太田さんが内線を回す。少ししてからマネージメント事業部事業本部長の笹原さんとアイドルセクションセクションリーダーの米花よねかさんがやってきた。瑠乃の時は俳優セクションのセクションリーダーを務めている棚町たなまちさんもいたけど、さすがに今回はそういうイレギュラーはないみたい。


 最終オーディションは予定通りスタートする。

 まず、歌唱テスト。前に聞いたときよりも格段に歌唱力が上がっている。元々上手いと思ったけど、さらに磨きがかかっている感じ。歌番組に出ても遜色なさそう。

 次の演技テストでは私の出番。私の時と同じように3つの台本と役に1から6の番号を2つずつ割り当てて、サイコロで今日の台本と二つの役のどちらを演じるのかを決める。今日の台本は青春ドラマの一場面だった。私が先輩、百合ちゃんが後輩になって、演技をする。百合ちゃん、オーディションの時も思ったけど、けっこう演技上手いんだよなあ。

 最後のダンスは圧巻の出来映え。最初からすごかったのにプロの手で完全に開花してる。私が教えて欲しいくらい!


 全てが終わって、向こうでは審査の結果をまとめているようだ。華菜恵が峰島さんにソフトの使い方を教えているようで、「えっ、そこなの?」とか「ここから追加するんだ!?」とか「マニュアルにそれ書いてないよね?」とか峰島さんがソフトに慣れてなくて四苦八苦している感じが伝わってくる。そんなソフトをすぐにマスターした華菜恵ってやっぱりすごいんだなあ……。

 その間、百合ちゃんは少し離れたところでクールダウンのスタティックストレッチをしている。私は裏を知っているから気にならないけど、自分の時を思い出すとやっぱり百合ちゃんはいますごいドキドキしているんだろうなあ。

 5分くらい経ったのかな、笠原さんがすっと立ち上がった。


「それでは、今日の審査に関して、私から発表します。結論から申し上げると最終審査合格です。本所属の契約書面は太田からお渡しするので、出来ればこのあとサインしてください。以前、太田の方から確認してもらったときには芸名でのデビューということでしたが、それで問題ないですか?」

「ありがとうございます!はい、芸名を使います!」

「判りました。書類手続きが順調にいけば4月15日に本所属となります。」

「はい!」

「華菜恵とのシェアハウスの件だけど、この前話したとおり、みんな5月1日に新しくできる巣鴨社宅へ引っ越すのね。あと半月ちょっと大変だけど、巣鴨社宅にみんなと同じタイミングで入居、ということでいい?」

「はい!太田さんのおっしゃるとおりで問題ありません!」

「優璃さんよろしくお願いします。」

「優璃さんのお手伝い頑張るね!」

「おふたりとも、よろしくお願いします!」

「書類手続きが終わったらまずは社内、そのあとはテレビ局とかいろいろなところにあいさつ回りがあるからよろしくね。」

「はい!」

「本所属になると共演する機会も増えそうだから一緒に頑張ろうね!よろしく!」

「こちらこそよろしくおねがいします!」


 百合ちゃんがいよいよデビュー!楽しみだなあ!

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