第296話○巣鴨社宅の見学で気がついた事実

 沢辺さんが見せてくれた952は、玄関入ってすぐ右がトイレで、その隣に脱衣所とお風呂、反対の左側には備え付けのガスコンロと流し、そして扉の向こうに大きな部屋が一つある。


「1Kなんですけど、クローゼット付きで、さらに部屋が大きいので、割と居心地のいい空間になります。1Kは新人タレントさんが多く住むことになることもあって、部屋で発声練習したり、演技の練習をしたりするので、防音にもかなり配慮してますね。」

「これ、キッチンも結構大きいですね!?」

「そうですね。壁際に2人用テーブルとかを置いて食事することも出来るくらいの広さになっています。」

「なるほど!それだと部屋まで持っていかなくてもここで食べられるので楽ですね!」

「心菜ちゃん良かったね。」

「はい!朋夏さん、ありがとうございます!」


 沢辺さんの部屋を出るとほかの部屋が決まっているのかがちょっと気になった。


「私たちが入らない部屋は、誰が入るか決まっているんですか?」

「まだ決まっていない部屋もありますけど、決まっているところですと953が那珂埜さんで925が峰島さんですね。」

「あっ!」


 あれ?峰島さんがなんかすごい慌ててる。どうしたんだろう?


「あれ?峰島さん、まだいってなかったの?」

「太田さんが入居日に驚かせたいからまだ黙っててっていわれていて……。」

「ありゃ。まったく、太田さんらしいなあ。」


 あー、太田さんはそういう人だよねえ。


「智沙都ちゃん、その辺大変そうだね。」

「華ちゃんはなさそうでうらやましいよー。」


 同期だけあって、二人とも仲が良いんだなあ。


「もう判ってしまったのでお伝えするといまはまだ会社の契約してくれているマンスリーマンションにいまして、いい機会なのでこちらに住むことにしました。」

「そうなんですね!」

「地方から出てきた人はマンスリーマンションに住むんです。まあ、同期5人のうち、地方出身は那珂埜さんと私だけなんですけどね。」


 峰島さんは仙台出身、那珂埜さんは富山出身、お二人とも大学卒業後にこちらへ来たとのこと。大崎の新卒マネージャは、一年間の研修を行うこともあって、自宅から通えない人は会社の近くにあるマンスリーマンションを利用するんだって。配属先が東京の場合には東京近辺の社宅、大阪の場合には大阪近辺の社宅へそれぞれ5月の連休中に転居するそうだ。

 新たな事実もわかったところで、次は901の見学だね!3SLDKはすごかったけど2LDKってどんな感じなのかな?


「2LDKも玄関のたたきとシューズクロークがつながっています。右がトイレで、その奥のこちらが風呂場ですね。部屋を大きめに取っている分、脱衣所は狭いんですが、二人暮らしなら十分だと思います。ここも上下に重ねればガス乾燥機も設置できます。ざっと見たら先へ行きましょうか。」


 脱衣所は狭いけどバスルーム自体は同じ大きさかな。


「左のここが12畳タイプの部屋ですが、長方形ではなく、シューズクロークの分が少し変形しています。」

「配信はここの部屋を使うんだ。」

「ああ、いいかもね。」

「つむぎも納得してくれるならOKだね。」

「だな。セッティング手伝うよ。」

「よろしくね、慧一!」

「あっ、そうそう。この社宅は基本的に全ての部屋にテレビと有線LANの差し込み口が用意されています。テレビは池袋ケーブルテレビさんと契約しているので地上波とBSデジタルは嵐の日でも安定して見られます。もし、独立U局の放送を見たい場合は別途ケーブルさんと契約してSTBを取り付けてもらえば見られます。」

「ネットって、大本の回線はどこにあるんですか?」

「先ほど見ていただいたシューズクロークの所に来ていますよ、マスケイさん。」

「指定の光回線とかありますか?」

「朱鷺野先生、鋭い質問ですね。それぞれの部屋には光回線のラインだけを用意していて、1階の事務室には3大通信キャリアと池袋ケーブルさんの光回線を引き込めるようにしているので好きなところと契約していただければOKです。ちなみに1Kは14畳の所に用意してあります。」

「機械音痴なのでちゃんと出来るか心配です……。」

「心菜ちゃん、もし難しそうなら私が手伝うよ!無線にするとスマホも無駄なパケット代出さなくていいからね。」

「彩春さん、ありがとうございます!」


 そんな話を12畳の部屋でしたあと、キッチンへとみんなでぞろぞろと進んでいく。さっきもそうだったけど、みんな興味津々っていう感じだね。


「ここもキッチンはペニンシュラ型キッチンです。1Kも含めて、どの部屋もこんな感じでビルドインタイプの食洗機付きです。それと12畳のリビングですね。」

「リビングが少し広くなるから窓際にテレビのスタンドを立てるよ。映像を見ながら食事会とかしたいしね!」

「朋夏が配信部屋で配信しているのをこっちのリビングでみんなで見ているっていうのも面白そう!」

「あっ、瑠乃のそのアイデアいいね!考えておくよ!」


 みんな、次々いろいろと思いつくなあ。すごい!


「その壁の向こう側が12畳の部屋です。」

「そっちの部屋にはホームシアターを置こうと思っているんだ。」

「すごいね!?」

「プロジェクターとスピーカーを天井から下げるタイプだとけっこういい感じになるっていうことが判ってね。いろいろな映像作品をみんなで鑑賞したいなあって思った!」

「どんな感じに配置するの?」

「ふっふっふっー!それは入居したあとのお楽しみ!」


 朋夏、なんかいろいろと考えてそうだね!?

 901号室の中をざっくりと見学したあとは、彩春が借りる予定の4LDKを見学する。3SLDKとほとんど同じような感じで、一部屋一部屋を狭くした感じなんだね。


 4LDKを見た後は鍵を借りて、個々の部屋の眺めなんかを確認する。バルコニーに出てみるとすぐ下から右手に掛けて森が見える。あれ、森の向こうに見えるあのタワーマンション、もしかして……。私は慌ててスマホでいまいる場所の地図を見る。


「突然スマホで調べ始めてどうしたの?」

「あっちの森は染井霊園……。そうか、この社宅は染井霊園の隣に建っているんだね……。」

「そうだよ。」

「……そっか。」

「未亜?」

「うん、高校の時に亡くなった親友の光季みつきなんだけど、実はあそこに眠っているんだよね。」

「えっ、そうなのか。」

「いつも命日にお参りするときは、駒込駅からタクシーに乗って霊園の隣にある菩提寺に寄るんだ。住職さんにご挨拶をしたいからね。だから染井霊園が巣鴨にあるっていう意識がなかったよ……。」

「ああ、染井霊園に隣接している寺院は車で駒込の方から回る方が近いからね。」

「菩提寺から霊園を突っ切ってお墓へ行く途中であそこに見えるタワーマンションが必ず見えるんだよ。この辺にはほかにない高い建物だから印象に残っていって、それで気がついたんだけど……。」

「構野さんの命日って5月2日だったよね?」

「うん。」

「入居した翌日だから近くに住むことになったよってあいさつも出来てちょうどいいな。」

「あっ……そっか……うん、そうだね!」


 大親友が眠る墓地の近くだったのに全然思い出せなかったのがショックでちょっとへこんだんだけど、圭司はこういうときに本当にすっと素敵な言葉をくれるよね……。うん、光希の近くに住むのが楽しみになった!


「そういえば、華菜恵さんと峰島さんが名前で呼び合っていたね。」

「確かに!そこに気がつくとは圭司さすがだね。」

「同じ太田さんの下で働いているから仲良くなったのかも。」

「華菜恵は人当たりもいいし、けっこうすぐ人と仲良くなれるタイプだからちょうど良かったのかもね。」


 ギスギスしているより和気藹々としている方が絶対にいいから二人が仲良くなってくれたのは嬉しい。そんな話をしながら一通り見終わったあと、リビングダイニングに戻ってきて、キッチンカウンタのところで間取り図を見ながら部屋割りを考えることにした。


「ざっと見たけど、廊下側の10畳がいい感じの暗さで仕事に集中しやすいからもらっていい?」

「もちろん!クローゼットがあるから私はこっち側でちょうどいいかも。」

「確かにクローゼットがあった方がいいもんな。左右どっちがいい?」

「どっちでもいいけど、どうしよう。」

「そうしたら廊下から入りやすい方が疲れて帰ってきてすぐ着替えられていいかもね。」

「あっ、そうだね。じゃあ、ここから見て左だね。」

「そうしたら反対側を寝室にしよう!」

「いいね!ついに二人の専用ベッドルームだ!」

「家具とかも少し増やした方がいいかもしれないな。」

「……下着類とかは寝室に置くといいかもね。」

「えっ、あっ、そうだね。」


 えへへ、ちょっと照れたけどいっちゃった!4畳の部屋は私が配信するための部屋にするといいんじゃないか、とか、家具の配置をどうするかとか入居に向けた話をしていたらあっというまに20分経っていたらしく、峰島さんが呼びに来たので、エレベーターホールへ集合する。あとは解散かと思ったら……。


「実はこの巣鴨社宅なんですけど、けっこうすごい設備があるので、1階まで行きましょうか。」


 沢辺さんの話を聞いて俄然興味がわく。どんな設備があるのかな?楽しみだな!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る