第295話●巣鴨社宅の内見
大学が始まって、一週間。水曜日にはラジオのまとめ録りなんかもあったけど、基本的に大学の授業後は家に戻って執筆を続けている。リアル系初の連載である「雨東さん家のご飯」はこの前第一回が掲載された。なんと、読者アンケートで二位に入った上、アフーで配信されている有料記事サービスでは
今日、金曜日は授業を入れていないので朝から家で仕事をしている。うちだけじゃなくてみんなも仕事が入る可能性なんかも考えて授業を少なめ、あるいは入れないことにしたそうだ。週末はやっぱり仕事が入るよね。去年はみんなそれで辞退した仕事なんかもけっこうあったみたいだもんな。大学は自分でこの辺の調整が出来るから助かるよ。
いま住んでいるところからの転居先として提示された巣鴨駅近くの「大崎エージェンシー巣鴨ビルディング内社宅」こと「巣鴨社宅」は水曜日に概ね完成して、昨日から内見を始めているそうで、みんな金曜日は授業が少なめ、しかも百合が本所属へ移行する日だから良いかもということになり、朋夏さんが調整をした結果、今日の15時からゆっくり内見をさせてもらえることになった。
今日の立ち会いは沢辺さんが担当してくださるのだけど、15時にあわせて、大学やそれぞれの仕事先などから集まることになっている。俺は現在の自宅で執筆をこなしているので電車を使って乗り付ける予定。一人ならわざわざタクシーに乗らなくても大丈夫だしね。ちなみに未亜は午前中からクイズ番組のショートロケに出ていることもあって、社用車でやってくるそうだ。
この前、未亜と百合のツーショット写真を入れてもらったロケットペンダントを手に14時半に家を出る。このロケットペンダントは百合の本所属祝いとしてプレゼントする予定。ちなみにツーショット写真は未亜が提供してくれた。
家から春日駅まで歩き、三田線に乗って、巣鴨まで移動、巣鴨からは徒歩で社宅へ向かう。途中、この前、正式に口座開設が完了した豊島信金本部の手前で右に曲がる。社宅の入り口らしき所に沢辺さんと那珂埜さんの姿が見えたので声を掛ける。
「おはようございます。」
「あっ、雨東先生おはようございます。」
「みなさん、中で待っているのでここから中に入って待っていていただけますか?」
「判りました。」
那珂埜さんがインターホンの所にカードをかざすと木製の自動ドアが開く。中に入ると左側にガラス窓の付いた受付があり、既に警備員さんたちが座っている。外部の人はインターホンで呼び出して、ここで受付するんだろうなあ。先にはもう一枚の木製自動ドアがあり、いまは開いたままになっているのでそのまま中へ進む。ここには読み取り機みたいなものが付いているのでカードキーで開けるのかな?木製自動ドアなのは中が見えないようにするためなんだろうね、きっと。
自動ドアを越えたすぐ右手にまた木製の自動ドアがあって、あいたままになっていた。それぞれの自動ドアはデザインが違っていて面白い。中から話し声が聞こえるからここにいるんだな。
「おつかれー。」
「あっ、おつかれさま!」
「早いな。」
「ギリギリはいやだったからね。」
明貴子さん、紗和さん、慧一からそれぞれ声がかかる。中にはほかに彩春さん、朋夏さん、百合がいた。百合に本所属のお祝いプレゼントを渡すと未亜とのツーショット写真の入ったペンダントに百合は大喜びしてくれた。妹思いだなんだとみんなから冷やかされつつ、雑談していると続々と集まってくる。最後に瑠乃さん、華菜恵さん、未亜と峰島さんもやってきた。太田さんはオフで一日休みを取っているから、3人を送ってきたついでに峰島さんも見学するのかもな。
「皆さんそろったので、案内しますね。まずさっき入ってきていただいたところが建物の正面玄関です。いつも本社に入るときに使っているカードキーで入れます。そのあとこちらのエレベーターホールに入るときは、いま皆さんが住んでいらっしゃる春日小石川マンションと同じように部屋のカードキーを使います。エレベーターが居住階にしか止まらないのも同じですね。そうしたらエレベーターで9階まで上がりましょうか。」
エレベーターは二基あって、一基あたり13人まで乗れるのだとか。14人ということでそれぞれ来たエレベーターに適当にわかれて乗り込み、9階へ向かう。なんかちょっと速度が速い感じがする。
「ここが9階です。」
「廊下はパネルで覆われているんですね。」
「廊下を歩くタレントさんの姿が外から見えると問題が起きるかもしれないのでマンション用の目隠しパネルで防いでいるんです。どうしましょう。個別に内見しますか?それともみんなで見て回りますか?」
「せっかくだからまずそれぞれの間取りをみんなで見て、あとは時間まで自分たちの部屋を個別に見るっていうのでどうかな?」
「彩春に賛成!そうしたらうちで見てもらえばいいんじゃないかな?慧一いいよね?」
「おう、いいね。」
「判りました。日向夏さんたちは901と921ですね。」
「じゃあ、921からで!」
「それでは、皆さんこちらへ。各部屋の前にはこんな感じで、宅配ボックスがありますが、これはいままで通りなので大丈夫ですよね。」
沢辺さんが宅配ボックスの説明をしながらカードキーをかざしてドアを開ける。
「玄関入ると右側にシューズクロークがあります。玄関のたたきはシューズクロークにつながっているので、クローク内で靴を取り出してそのまま履ける感じになっています。」
「おおっ!おしゃれ!」
「右手の廊下奥が10畳の部屋でその左にトイレですね。じゃあ、お風呂を見ましょう。」
廊下を左手に進んだすぐの所に風呂場があった。
「まあ、普通のお風呂です。いま3LDKに住んでいる方は狭くなってしまいますが、ユニットバスとしては最大サイズになっているそうです。ちなみに1Kも含めてお風呂は自動洗浄機能付きです。」
いま住んでいるところは基本的に複数人で一緒に住む前提だったので風呂場に置くものが多い関係もあって特注で浴室の面積を大きく取ったと聞いているからね。ここはそれぞれの部屋が独立した共同寮みたいな感じで使われるわけではないので一般的なマンションのユニットバスなんだろうなあ。
「脱衣所の洗濯機は2台置けるようになっています。ガスも来ていて、排気ダクトも完備しているのでガス乾燥機も設置できます。」
「おっ、そうしたらいま使っているガス乾燥機をそのまま持ってこられるな。」
「そうだね!」
「ねえ、慧一、うちもガス乾燥機、考えようか?」
「そうだな。圭司、便利?」
「うん、早いし、ふんわり仕上がるし、便利。洗濯機の乾燥機能は使わなくなったよ。」
「そうか、そうしたらちょうどいいかもしれないな。見繕っておくよ。」
「やった!」
「じゃあ、リビングダイニングへ行きましょう。」
みんなでぞろぞろと移動していく。後ろの方にいた華菜恵さんと心菜ちゃん、百合、峰島さん、那珂埜さんはいま風呂を見ているみたいだ。
「そこがキッチンカウンターですね。」
「ペニンシュラ型キッチンだ!」
「岡里さん、よくご存じですね。いま流行のタイプです。コンロの周りは壁がしっかりあるので油の飛び跳ねがコンロ周りだけで済みます。」
「ガスコンロなんですね。」
「はい。この社宅は都市ガスが使えます。」
「私は家でほとんど料理できていないからIHでも問題なかったんですけどね。」
「心菜ちゃん、忙しいもんねー。」
「皆さんほどではないので、もっと頑張ります!」
「14畳のリビングダイニングがこちらで左右に12畳の部屋があります。窓からの眺めがけっこう良いですね。」
「沢辺さん、なんかすごい詳しいですね!」
慧一が驚いた顔をして沢辺さんに問いかけた。
「ええ、このへんの社宅を建てる上で必要な部屋の構造とかを検討するプロジェクトを兼任していたんです。」
「沢辺さんすごい忙しいのによく余裕がありましたね!?」
「そのプロジェクトはおととしだったんです。日向夏さんの担当になる前だったので、全く問題なかったですよ。」
「そういうことだったんですね。」
だから社宅確保の窓口と今日の案内役になったんだなあ。
「あとはそれぞれの部屋ですが、みなさんもう入って見学されたようですし、そうしたら2LDKに移動しましょう。」
みんなで部屋を出て、エレベーターホールを経由して901号室の方へ向かう。といってもすぐそばだけど。
「エレベーターの脇にも部屋があるんですよね。」
「ああ、そこにも3室あります。一番手前は上水さんの部屋ですね。その隣は私が住むんです。」
「えっ、沢辺さんもここに住むんですか!?」
「はい、日向夏さんとマスケイさんはもう知ってるんですけど、日向夏さんがリアル活動もはじめてロケや収録での外出も増えていて、さらにマスケイさんも活動を再開して今後ライブとかにどんどん出演していく予定もあるので、お二人の近くにいた方がいろいろと対応しやすいですからね。いい機会なので転居することにしました。」
「ものすごいありがたいよね。マネージャさんが一緒の社宅に住んでくれるとか、大崎に所属して良かったよ!」
「実はいま住んでいる所より広くて負担金はほぼ同じなのもあるんですけどね。見てみます?」
「「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」」
沢辺さんが952の扉を開けると中に案内してくれる。1Kってどんな感じなのかな?
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