第298話●外伝とオーディオブック、そして5thアルバムの発売

 大学と仕事の両立は今年も特に問題なく進んでいく。大学では、新たに紗和さんも加わったけど、特に何かが大きく変わることもなく、一緒に授業に出て、ランチを取って、くだらない話で盛り上がって、という感じで日々を過ごしている。紗和さんもキャンパスライフを楽しめているみたいで本当に良かったなあ。お互い、過去をなかったことには出来ないけど、いまを充実させていくことで、未来に向かっていきたいよね。


 一つ変わったことといえば、25日の早緑美愛定期配信からついに準レギュラーとして、正式に出演することになったことかな。その初回、ライブへの意気込みや5thアルバムの宣伝のほかになんと外伝とオーディオブックの宣伝をしてくれた!もちろん未亜の希望と太田さんの配慮なんだけど、本当にありがたい。

 あと、この2週間弱で大きく変わったのは、峰島さんのことをみんな名前で呼ぶようになったこと。華菜恵さんから太田さんがマネージメントしているタレントと峰島さんの懇親会へのお誘いがあって、その場で名前で呼び合いたいという華菜恵さんの提案があったんだよね。あとでこっそり聴いた感じだと峰島さんから華菜恵さんへもう少しみんなとの関係を近づけたいという相談があったのがきっかけのようだ。華菜恵さんはこの辺いい塩梅で人をつなげてくれるだよなあ。本当に多士済々、面白いメンバーがそろっている、と思う。


 そんな感じのキャンパスライフを過ごして2週間、ついにせまじょの外伝とオーディオブックの発売日だ!今回はサイン会とかはないけど、いつものように納本は届く。外伝は「謹呈」のしおり付きが12冊で、今回からさらに「謹呈」しおりだけ10枚もらうことに成功した。仲間が買った上で「サインして欲しい」と渡してくれるからもらった本を別の人に贈呈するときにしおりがないと不便だったんだよね。ちなみに太田さんからはこの仲間内ならサインして渡してもいいという話を聞いている。ほかのメンバーにもそれぞれのマネージャから伝達されているそうで少し安心。やっぱり仲間には気兼ねなくサインして渡したいもんなあ。そういえば、オーディオブックは原作者への贈呈扱いなのでコミカライズと同じように2冊届くはずだけど、帰宅したら届いているかな。今日は3限までだから中身を確認して問題なければそのままいったんしまっておこう。実は引っ越しの準備もぼちぼち進めているんだよね。いまから本を開けてしまうとまた片付けないといけないので、引っ越しが完了するまではそのまま箱詰めにしておく予定。


 今日も未亜と一緒に家を出て、1限の消費者行動論、2限の英語を片付けて、既に人が少なくなってきている6号館地下へ向かう。もうみんないるみたいだ。


「二人ともおつかれー!」

「みんなもうそろってたんだね。」

「待ってたよ!……はい!」


 朋夏さん、もうCDと外伝、オーディオブックを買ってきたのか!しかも慧一の分までまとめてか!はやいなあ。


「あっ、いつものだね?あれ?でも会場限定買っていなかった?」

「未亜!それはそれ、これはこれだよ!店舗限定盤こそ、欲しいわけだよ!」

「あっ!そうか!そんなこともお願いできちゃうんだね!?」

「そうだよ!磨奈も持ってくるといいよ!」

「明日持ってくるから明貴子ちゃんと志満ちゃん、お願いね!」

「えっ、私も!?」

「もちろん!だって、志満ちゃんのBL本、大ファンだもん!」

「よし、着実にターゲットが浸透している!」

「昨日の月曜ドラマスペシャル、朱鷺野先生が書いた『六甲山に吹く風が教えてくれた犯人』が原作で面白かったよね。」

「華菜恵!?」

「あれ、すごかったよね!配役もベストだったけど、なんか朱鷺野先生がアドバイスしたってドラマのサイトに書いてあったよ!」

「磨奈!?」


 いいなあ、この感じ。本当に相変わらずでいいよね。

 ほかのメンバーはまた明日、届いた本を渡してくれるということで、今日届くであろう著者謹呈本にあらかじめサインをしておいて、明日はそれと交換で渡してしまおう。


「そういえば、彩春ちゃん、昨日はおめでとう!まりあコンビ全員にボイスがつくね!」

「磨奈、ありがとう!Twinsterではおおっぴらに活動できないから密かに投票してたんだけど、良かったよー!」

「投票?」

「なになに?」

「あっ、実はドルプロの企画で毎年『シンデレラチャレンジ』っていう投票企画があるんだ。」

「ゲーム内に存在する4つのテレビ局と2つの映画会社がドラマや映画の出演者を5人ずつ募集するっていう仮想オーディションなんだけど、全アイドルが対象になっていて、プレイヤーはそれぞれの役に最もふさわしいと思うアイドルに投票出来るようになっているの。」

「ドルプロって、まだ担当声優のいないアイドルが半分以上いてね。そこで勝ち上がれると担当声優が新たに決定されて新規ボイスが付くんだ。」

「いろはっちのキャラクターもそれで決まったの?」

「いや、私は別途募集だったよ。『シンデレラチャレンジ』以外で付くこともあるんだよ。」

「でも、私たちが担当している真瑚りんは珍しいケースだよね。」

「へえ!」

「担当として毎年頑張っているんだけど既存ボイス組はやっぱり人気があるアイドルたちだからなかなか勝てなくてね。でも、今年は担当している真瑚りんも掛札かけふだ亜香音あかね岩井いわい莉麻りまも無事に合格したの!」

「おお、おめでとう!彩春、高校の時から熱心に応援していたもんね。」

「朋夏はよく知ってるもんねー。一緒のホテルに泊まったときにイベント走っているところをけっこう見られてたし。」

「共演できるのかな?」

「今回は三人ともバラバラのドラマだから共演はまだ先かなあ。」

「そかー。でも、楽しみだね。」

「うん、誰がボイス担当になるのかも含めてものすごい楽しみ!」

「担当声優さんはいつ発表されるの?」

「例年だと8月の周年ライブだよね、彩春ちゃん?」

「そうだね。」

「ドルプロって8月スタートだったんだ。」

「17年前にアーケードゲームとしてスタートしたのが7月26日で、ライブはだいたい毎年7月半ばから8月半ばくらいにやってるね。今年は8月27日と28日に与野ウルトラアリーナで開催されるって発表されているよ。」

「だいたいライブ二日目のアンコール待ちの時に新規ボイス組が生アフレコでボイスドラマを披露してから新規担当キャスト名が発表されるの。あれは本当にドキドキする瞬間なんだよねー。あっ、そういえば、まだ出演キャストが発表されていないから真瑚りんが出るかどうかも楽しみ!」

「あー、それね。出るとも出ないとも言えないから口を濁すしかないかなあ。」

「もちろん!担当としては5月6日の配信を楽しみに待つ感じだね!」


 いまから声優を決めて、8月には生アフレコまでしてしまうってすごいスピード感だな。これを毎年やっているというのがすごいけど、どんな人が選ばれるんだろうね。本当にいろいろなコンテンツが様々な仕掛けをしているんだなあ。


 翌日は早緑美愛5thアルバムの発売日。Twinsterには昨日から既にフラゲしている人たちの感想が流れはじめていたけど、今日は朝からどんどん流れていく。4thアルバムの時より多いのは曲数が増えたからっていうわけではなさそう。未亜のファンも確実に増えていて本当に嬉しいなあ。

 もちろん外伝やオーディオブックの感想もたくさん流れている。早緑美愛の新曲を聞きながらせまじょを読むならここがいいみたいな話も盛り上がっていて、「#さみあん曲とせまじょ」というハッシュタグまで誕生しているのは本当に嬉しい。確かに読書するときに曲も楽しむってアリだよね。


 家を出て、紗和さんたちと一緒に大学へ向かい、一限の音楽学、二限のコンピュータ・リテラシィの授業を受けて、いつものメンツでのランチタイム。みんなでのんびりご飯を食べていると俺のスマホが鳴る。白子さんからの電話だ。なんだろう?と思いながら席を外れ、フードコートの並びにあるイレブンマートの裏手へ回って電話に出る。


「はい、お電話取りました。」

『あっ、雨東先生ですか?』

「はい、そうです。」

『こんにちは、白子です。すみません、お昼時に。』

「いえいえ、何かありましたか?」

『いい話が決まりました。外伝がさっそく重版です。』

「えっ!本当ですか!」

『はい。予約が伸び悩んでいたので、正直どうかな、と思っていたんですが、発売当日の追加発注が予想を大きく上回りました。今日も追加発注が来ているので、この分で行くと確実に月内には初版がなくなるということで、重版決定です。それにあわせて1巻から4巻まで重版します。外伝やオーディオブックとのまとめ買いが多くて注文が来ているので在庫がだいぶ減りました。大崎さんとは仮契約済ませてあるのでご安心ください。詳細はメールしておきますので。引き続きよろしくお願いします。』

「ありがとうございます!」


 アプリの打ち合わせも進んでいるし、これは新年度から幸先のいいスタートだ!今年度も楽しみだね。

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