第280話○渋谷シアターアリーナこけら落とし公演第二部「OSAKI MUSIC FESTIVAL」!
結局、大森さんもあいさつは不要ということで、そのまま楽屋で待機していることになった。ほかの事務所の大御所さんにはあいさつが必須のケースも多いから大崎という事務所はそういうのを好まない人が集まりやすい空気感なのかも。
フェスにもいろいろな形式があって、今回のフェスでは、MCが入って司会進行を行い、一人一曲ずつどんどん歌っていく形式で、最後に大部分の出演アーティストがステージに立ってテーマ曲を歌うというスタイル。そのMCは、ベテラン俳優である
このフェスには、全部で30組が出演、ここなちゃんは10番目に登場するので、既に私の楽屋から自分の楽屋へ戻って準備をしている。あと、ケータリングは出演者とスタッフのみということで、圭司と瑠乃が一足先に上の階にあるフードコートへ食べに行った。太田さんはフェスの運営事務局の方に詰めている。一人でケータリングを食べながら、フェスのテーマソングをスマホでループ再生しているとモニタではちょうどフェスが始まるところが映し出されていた。
「おっ、始まる。」
コンコン
「失礼します。」
「どうぞ……あっ、華菜恵!」
「早緑さん、おはようございます。事務所の仕事をかたづけてやってきました!」
「なんか心強いね。」
「そうかなあ、そういってもらえると嬉しいなあ。」
「うん!」
「太田さんは外れられないらしいから、みあっちとここっちは、私がフォローするね。」
「ありがとう!助かる!」
「ここっちはさっき、楽屋からステージの方へ行ったから、みあっちがステージへ行くタイミングで今度はここっちの方へいく感じかな。」
「うん、わかった!」
「上手脇にも待機出来るスペースはあるから歌い終わったらそこにいてね。みあっちが歌い終わったタイミングでここっちも連れて行くよ。」
「りょうかい!」
「それとね、太田さんから話していいっていわれたから伝えておくと4月1日から大崎の短時間社員になることが決まったよ。」
「ええっ!すごい!おめでとう!」
「ありがとう!学生のうちからこんなエキサイティングで面白い仕事が出来るとは思っていなかったからすごい楽しい。みあっちが太田さんに推薦してくれたおかげだよ。」
「本当にたまたまだったんだけどね。そのまま大崎への就職とかも視野に入っているの?」
「うん、かなり真面目に考えている。学生のアルバイトからそのまま就職したケースもこれまでけっこうあるんだって。太田さんからも考えておいて欲しいっていわれているんだ。」
「そうするとインターンみたいなもんだね。」
「それはあるかもしれない。」
「前にバックダンサーなんてという話もしたけど、そっちは難しそうだね。」
「実はちゃんと通っているんだよ。」
「そうなの!?」
「週休二日でしっかり休みがあるからそのタイミングでレッスン受けてる。4月から中級クラスになるから来年にはバックダンサーとか出来たらいいんだけどね。」
「そか!すごい楽しみだよ!」
「マネージメントの方もバックダンサーの方も頑張るよ!」
この話、太田さんからはとりあえず圭司と私には話していいっていわれているみたいで、ほかの親友たちには4月1日に辞令が出てから伝えて、といわれているそうだ。
「私たちだけいいんだね。」
「私のことを推薦したのがみあっちだったからだって。」
「あっ、そういうことか!」
「推薦者には本人から内示を話してもいいっていうルールって聞いたよ。たかっちはみあっちのフィアンセで秘密保持契約を結んでいるからその流れで問題ないって太田さんにはいわれた。」
「なるほどね。」
華菜恵とそんな話をしていたらフェスのスタッフから呼び出しがある。華菜恵と一緒にステージ脇までいくとちょうどここなちゃんが歌い始めるところだった。そのまま待機していたら、歌い終わったここなちゃんがこちらへやってきた。
「ここなちゃん!」
「あっ!美愛さん!楽屋で見ているので頑張ってください!」
「うん!ありがとう!」
「じゃあ、上水さん、楽屋で待機しましょう。早緑さん、またあとで。」
「うん、ありがとうね!」
華菜恵とここなちゃんを見送ると私はステージ脇のスペースで待機する。
「美愛ちゃん。」
「あっ、小暮さん、おはようございます!」
「この前はありがとうね。ものすごい盛り上がって、助かったよ!」
「いえいえ!私も勉強させていただきました!」
実は3月の半ばに小暮静香さんの冠ラジオ番組で実施された公開録音にゲストで出演したのだ。小暮さんもお付き合いされている方がいらっしゃって、それを公表しているので、二人で彼氏に関するトークで盛り上がってしまった。小暮さんのファンも私のファンもその話を聞いて大いに盛り上がり、公開録音は大成功となった。この辺も大崎という事務所ならではなのかもしれないのだけどね。
ならではといえば、割とアイドル同士の仲がいいのも特徴かもしれない。楽屋が大部屋だった頃、別事務所のアイドルたちと共演で待機しているとき、事務所が一緒のはずの人たちがほとんど会話もしないとか、話をしていてもなんかギスギスした感じだったとか、仲間というより敵という印象だった。同じ大崎のアイドルだと顔見知りなら割と雑談していることが多いからね。なんとなくこの辺は鶴本さんの存在がすごく大きいような気がする。
そんな感じで小暮さんと雑談をしていたら私の出番が近くなり、スタッフさんに声を掛けられ、袖まで誘導される。大蔵さんのMCを聞いたあと、いよいよ出番!
今日は久しぶりにオケ音源で「主役」を歌うのだけど、よし、すごくいい入りだ。いい感じに声が伸びている。1番と2番の間で圭司を探す……あっ!瑠乃も見えた!よし、今日もいい調子だね!
見に来てくださっている皆さんの鼻をすする音とかが聞こえてくるからオーラスまでかなり気持ちが込められたと思う。
歌い終わって、下手に捌け、そのままステージ裏を経由して、上手へ戻る。楽屋から移動していたここなちゃんと華菜恵と合流して、軽く雑談をして緊張をほぐしつつ、ラストのテーマソングに備える。
「美愛。ここな。」
「「鶴本さん、おはようございます!」」
「最後まで楽しみましょうね。」
「はい!」
わざわざ一声掛けてくれる鶴本さん。紅白のトリを務める大物アイドルなのにおごったところがなくて、すごい人だよね。なんか一気に緊張がほぐれて、最後のテーマソング歌唱もかなりいい感じに出来た!フェスは成功だったんじゃないかな!
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