第244話●織田さんと赤梅さん
ディナータイムが終わると彩春さんがこのあとの予定を説明してくれる。
「このあと私たちの部屋で22時から寝るまで雑談したいなあって、思ってるんだ。それぞれみんなを紹介したいから。いいかな?」
みんな無言で頷く。
「ありがとう!そうしたら昨日と同じように大部屋に集合して、そのあとは適当に抜けつつ、大浴場か大部屋のお風呂に入ったりするということで。あっ、そうそう、男性陣三人は素敵な彼女がそれぞれここに来ていて、部屋のお風呂に入ってもすこぶる安全だから薫さんたちも良かったらうちの部屋のお風呂使ってね。」
「ありがとうございます。前々からいい部屋風呂だって聞いてたけど、機会がなくて入ったことないので、ぜひお願いします。」
「じゃあ、そういうことで!」
「社長、やったね!」
「前から社長、入りたいっていってたもんねー。」
「なんか私がわがまま言ったみたいじゃない、もう。」
この四人すごい仲いいんだな。それにしてもなんで社長なんだろう?あとで聞けばいいか。
レストランを出て、それぞれの部屋に入り準備をする。
部屋風呂にも入ってみたかったので、未亜に一声掛けた上で、部屋の風呂に入る。狭いながらも硫黄の香りが漂い、間接照明もとてもいい感じでのんびり出来る。外の景色は見られないけど、これはこれでいい感じだな。20分くらい堪能してからベッドに座って少しのんびり。もうあとはルームウェアでいいよなあ、と持ってきたルームウェアに着替えて、みんなの部屋へ向かう。
「あれ?男性陣では俺が最初?」
「慧一は大浴場入ってくるっていま出て行ったよ。」
「こーちゃんもそういってました!」
「そうか。俺は部屋風呂を試してみたんだけど、あとでもう一度大浴場にも入ってこようかな。」
「うん、圭司もゆっくり浸かってくるといいよ。」
「未亜はどうするの?」
「さっき、部屋の方に入ってみたから、余裕があったらまた大浴場行こうかと思う!」
みんなが適当に座っているところに腰掛けて、彩春さんと朋夏さんがそれぞれ紹介しているのを聞いている。
「えっ!儘田先生に朱鷺野先生ですか!?私、実はお二人の大ファンなんです。」
「赤天使さん、配信でもよく感想会やってますもんね!」
「華菜恵はやっぱり知ってたんだね。」
「さすが梅エキス!」
「さわっちもあきっちも本人が言うまでは、私には守秘義務があるからね。」
「さすが!」
「華菜恵さん、さすがですね。」
「いえいえ!」
「赤梅ちゃん、よかったね!」
「こはくさん、ありがとうございます。」
あっ、これ、聞くのにいいタイミングかも。
「こはくさん、いまは赤梅ちゃんって呼んでますよね。さっきは、こはくさんと秋桜さんが赤梅さんのことを『社長』って呼んでましたけど、赤天使のほかにそんな呼び方があるんですか?」
「このへんは過去経緯とVじゃないと背景がわかりにくいから私と赤梅ちゃんで話をした方がいいかな。」
「そうですね、西陣さん、ご協力下さい。」
彩春さんと赤梅さんが細かく説明してくれる。
もともと、赤梅さんはプロダクションファンジンという準大手声優事務所でマネージャーをされていたとのこと。入社した1年後に最初の担当声優となったのがデビューしたての飯間星佳さん、つまり織田クリスさんだった。
織田さんは、高校を卒業してすぐデビューして以後、赤梅さんの着実なマネージメントもあり、アニメの脇役やゲームアプリの役名付きキャラなど、目立たなくとも高い演技力と上手く場をまとめるトークスキルで確実に仕事をこなして、年齢的にも経験的にも着実に中堅声優となりつつあった。ところが、ちょうどその頃、声優全体のアイドル化が強くなっていき、若い華やかな女性声優がもてはやされるようになっていった。職人気質で高い演技力はあるものの容姿が地味な織田さんは、年齢が上がり、ランクも上がっていく中で、だんだんと仕事の獲得に苦戦しつつあるという状況になっていた。
その頃、演技やトークといった要素が重要なバーチャルライバーという存在が注目を集め始める。アバターを用いたバーチャルライバーであれば容姿や年齢は関係なく、演技力やスキルだけで仕事を取ることが出来るのではないかと考えた織田さんは赤梅さんにそれを相談する。赤梅さん自身もいろいろと調べて、確実な技術はあるも先が厳しくなってきている声優たちにとっては、起死回生の一手になると考え、事務所に所属声優のうち、希望する声優を改めてバーチャルライバーとして売り出すことを提案する。しかし、役者としての道にこだわる硬派な事務所とは対立する形になってしまい、結果として、マネージメントしていた6人の声優のうち、唯一独立してでもこの道を模索したいと考えた織田さんと一緒に退社、赤梅さんのコネクションをたどっていった結果、複数の著名なバーチャルライバーに提供実績のある「ママ」と呼ばれる絵師と同じくモデリングの実績がある「パパ」と呼ばれるモデラーに巡り会うことが出来て、織田クリスさんが誕生したそうだ。
「演技力が高くて、トークスキルもあるクリスさんは予想通り、個人勢では珍しいタイプのライバーとして一気に注目を集めることが出来ました。実はその頃にたまたま第一回のバーチャルライバーフェスがあったんです。8月にそのオーディションに声を掛けてもらえて、参加した際に知り合ったのが西陣さんでした。」
「主催のドニャンコさんからオーディションの審査員になってくれっていわれてね。ホダシコイちゃんも審査員なのでぜひ来て欲しいっていうんで、じゃあ、っていうことでいったらみんなレベルが高くてすごかったんだけど、クリスちゃんは特に高くてね。終わったあとに赤梅ちゃんに声を掛けて名刺をもらっておいたの。」
「あれ?赤梅さんはまだデビューされてなかったんですか?」
「私は当時はマネージャー専業でした。」
「完全にマネージャさんだったんですね!?」
「はい、そうなんです。そのときからの癖で未だに敬語が抜けません。」
「さっきもいいましたけど、赤天使さんはそれがいいんです!」
「華菜恵がいうなら間違いないね。」
「ありがとうございます。それで、まさかトップライバーの西陣さんから名刺が欲しいなんていわれると思っていなくて、その日はオーディションの結果もまだだったのに二人で祝杯挙げました。」
「もうその頃は飲めたんですね。」
「あっ、儘田先生、いま、私は34歳で、クリスちゃんは29歳なんです。」
「えっ、全然見えないですね……。」
「あ、ありがとうございます……。」
赤梅さんが照れてしまって、真っ赤になった!
「それで、もう次の日にはつむぎちゃんから赤梅ちゃん経由で連絡が来てね。私もファイブトランチはエキスパートランクになっていたからじゃあ、ゲームでコラボでしょ、ってなって。」
「一時期、雑談は日向夏さん、ファイブトランチは織田さんっていうかんじだったよね。」
「リアタイ組の幸大くんが!」
「なつかしいなあ。」
「にしつむ、織田さんと対決するとけっこう負けてたよね。」
「なんかクリスちゃんとの対戦は苦手だったんだよねー。」
「そんな感じで仲良くさせていただくようになって、風向きが変わりました。」
「そこから赤梅ちゃんが『社長』と呼ばれるストーリーがはじめるのであった!」
「もう、日向夏さんったら。まあ、あながち間違いでもないんですけどね。」
ここからいよいよ本題に入るのか!
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