第219話●雨東先生の新たな挑戦

 旅行の予定が決まった翌日、水曜日。既に長い春休みに入っているので未亜は今日から2泊3日の日程で、新大阪テレビが制作している「遠くへ出かけたい」という旅番組の収録で南紀白浜へ出かけている。夏の時期はそういう仕事はなかったけど、ライブツアーがなくなったおかげで入れられるようになったのかもしれない。あとは単にオファの問題かな。本当に最近いろんな仕事が来ていてすごいもんなあ。そのうちドラマも決まりそうだよね。

 俺の方は午前中、前からお願いしていた基礎レッスンの初日。ほかの人たちと一緒なのかと思っていたのだけど、今日は、贅沢にも大崎スタジオ&アカデミーの鴻崎こうさきいたる先生とマンツーマンでまずは身体作りのための初歩レッスンを受ける。高校を卒業して以来、ほとんど身体を動かしていなかったので、すぐへばってしまうけど、なんとか1時間のレッスンを終わらせる。しばらくの間は、できるだけ毎週一回レッスン出来るように予定を調整しよう。


 そのあとは午後からKAKUKAWAで白子さんと打ち合わせ。昨日帰宅してメールを見たら白子さんから折り入って相談がある、打ち合わせがしたいという連絡があったのだ。

 この前は、幸大と仕事としては初対面だったので、建前として、太田さんに同行してもらったけど、気心の知れたKAKUKAWAは問題が起こることはまずないから俺一人で訪問する。いつものように受付を経て、指定された会議室で待っていると早々に白子さんがやってくる。


「まずは外伝ですが4月26日発売で確定しました。」

「おおっ。いよいよですね。」

「あとオーディオブックも同時発売です。」

「楽しみにしています。」

「外伝のほうはまたサインなどのお願いをすると思いますので、太田さんに連絡しておきます。」

「判りました。」

「それで、今日お越しいただいたのは、先生の今後の展開について、です。端的に言うと雨東先生渾身の別作品をお願いしたいです。」

「別作品ですか?」

「はい。おかげさまでせまじょは相変わらず順調な売れ行きで、ライセンスグッズなんかも好調です。作品としてはまだまだいけますし、現在書き進められているWeb連載の方もとてもいい感じの展開とPV数です。太田さんから打診のあったアプリゲーム化に関しても編集部内では割と乗り気で、パートナーがいないか模索しています。ただ、先生の作品をさらに伸ばそうとするともう一本柱になるシリーズが欲しい、というのが編集部としてのコンセンサスです。」

「なるほど……。」

「先生の中で何かアイデアはありますか?」

「そうですね。実は前々から異世界恋愛ものを書きたいと思っていたんです。完全にアイデアが煮詰められたわけではないのですが、せまじょはシリアスな展開も多いので、コミカルなタッチのラブコメとかですかね。」

「なるほど。書き下ろしで行きます?それならこちらでアイデア出しから赤入れしていく感じになりますが。」

「いや、恋愛ものは初めてなので、まずは『ヨミカキ』で連載してみようかと思います。読者の反応を見ながら方向性を定められると思いますし。」

「ああ、それはいいですね。先生の作品なんで最初からある程度の注目度を持って展開出来るでしょうから反応が楽しみです。」

「判りました。」

「通例通り、投稿サイト先出しとなると書籍化のお約束は出来ないので内容はもとよりPVなども含めて判断させて下さい。」

「はい、それはもちろんです。」


 そのあとは五巻の打ち合わせを少しして辞去する。帰りながら今後について構想を練る。やっぱり、まずは一番近くにいる熱心な読者である未亜に相談するのが一番だろうな。宿に到着して、宿での収録も終わらせた未亜とSeeoomをしながら、まずは今日、KAKUKAWAから要請された内容について話をする。その上で、今後の内容に関して相談をしてみる。


『恋愛ものを書きたいんだけど、未亜はどんなのが読んでみたい?』

『うーん、雨東先生が全く新しい方向性の作品に取り組むならまずは最初は圭司の思うままで書いてみたらどうかな。せまじょも思うがままに書きながらコメント欄の反応をみて、方向性を変えてきたんだよね?』

『うん、そうだな。』

『それならまずは思うがまま書いてみるといいと思うんだよ。』

『明貴子さんにも相談しない方がいいかな?』

『うん、最初から相談しちゃうと明貴子と同じような路線になっちゃうような気がするんだよね。明貴子の恋愛物語も面白いけど、雨東先生にはオリジナルで勝負してほしいなって思う。』

『なるほどなあ。未亜はサイトで公開するまで、下書きとかも読まない?』

『それもやめておこうかな。私は一番近い読者だけど、その分、近すぎるから客観的に見られない可能性もあるかなって。』

『確かにそれはあるかもしれない。じゃあ、まずは連載をスタートしてから感想聞くよ。』

『うん!バッチリ読んで、遠慮なく感想を話すからね!』

『忌憚ない意見を楽しみにしているよ。面白くないと思ったら率直に教えてね。』

『もちろん!』


 翌日、起きると早速プロット作りをはじめる。

 せまじょは女性主人公だから男性主人公にしようかな。人気上位の物語を読む限りでは、鈍感系は一通り出そろってしまっている感じがするから、言い寄られているのを判っていて困っている方がいいかもしれない。そうすると平凡だけど人当たりの良すぎるキャラクターか。

 ある程度の方向性が見えてくるとどんどんとストーリーが思い浮かんでくる。毎日のスーパーへの買い物と金曜日にいつもの心療内科診療を受けた以外は、木曜日から金曜日までプロットを作り続ける。金曜日の夜はロケを終えて帰ってきた美愛と晩ご飯を食べながらプロットについてざっと話をするとなかなか反応が良かった。いい感じで行けるかもしれない。

 土曜日もプロットを整える予定だったのが、改めて頭から読んでいたら文章がすらすらと思い浮かんできたので、どんどん書き進めて先に進めていく。あっという間に5千字くらいずつ5話分の原稿ができあがる。20時過ぎに未亜からの仕事が終わった連絡が来るまで、7話分の書き溜めが出来た。日曜日は一回頭から読み直して、プロットに内容を増やし、整合性をとって、まとめ直してから、直したプロットを元にさらに先へ進めていく。15話くらいからラブコメをしたくて、ハーレム感を早めに出すべく、7話から10話で一気に惚れてしまう人を増やしてみた。ここまで来るとあとはラブコメが進められる。最終的に日曜日が終わったところで、12話まで書き上がった。少し寝かせて読み直したいから明日からはまたせまじょの書き進めと五巻の書籍化作業、あと単発のエッセイなんかをこなしてしまおう。公開が楽しみだ!

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