第202話○ばたばたの元日から正月休みへ

 年明けはおせちとお雑煮を食べながら、のんびりテレビを見つつ、こたつで寝正月……なんて訳にはもちろんいかず、4時間ほどの仮眠を取っただけの状態で家を出る。太田さんは心菜ちゃんに付きっきりで夜まで生放送をはしごしていくことになっていて、私一人での行動。今日頑張れば2日と3日は完全オフになったので、一日気合いを入れよう!


 今日は一人で移動なので、マンションの前に呼んだタクシーに乗る。朝9時にテレビ有明へ入り、楽屋で衣装も含めてさみあんモードになって、10時からの「鳥羽とば一慎いっしんニューイヤーショー」で昨日の紅白を振り返るコーナーに出演する。もちろん、早緑美愛用のプロポーズリングを付けている。鳥羽さんから婚約についてお祝いをいただき、照れくさいけど、とても嬉しい。

 30分ほどのコーナー出演のあと、ウイッグだけ取って、構内に止まっているタクシーでお台場へすぐ移動、11時過ぎにみずほテレビへ入って、12時から「正月恒例お笑い大集合マラソン」に中盤ゲストで出演。けっこう疲れているのだけど、面白いお笑いの皆さんのトークやネタは心の底から笑わせてもらえて、ちょっとした癒やしになった。ここでも司会のシックスティシックスのお二人から婚約お祝いの言葉をいただいてしまう。

 2時間の出演を経て、14時過ぎにスタジオを出て楽屋へ戻ろうとすると前にしつこく声を掛けてきたアイドルのなんとかさんが廊下の向こうから来るのが見える。また声をかけられるかと思って構えてしまったのだけど、「お疲れ様です」と声を掛けられただけだった。私も一応「お疲れ様でした」と返したけど、早速婚約発表の効果が出たかな!それなら嬉しいんだけどなあ。

 楽屋でさみあんモードから通常モードになって、タクシーを捉まえて家に帰ると16時少し前だった。あとは家でゆっくりできる!


 ピンポーン

「ただいまー!」

「おかえり!」


 ただいまのキスをして、部屋に入るととてもいい香りがしている。おや、なんだろう。ええっ!重箱にきれいにそろえられたおせちが食卓に!


「えっ!?これどうしたの!?」

「お正月なのにおせちも雑煮もないのはいまいちだったから30日に未亜が紅白のリハとかをしているタイミングで買い出しして、重箱へ詰めて冷蔵庫に入れておいたんだ。鯛と鰤は切り身、海老はむき身だけどいま焼いているから別のお皿に盛り付けて持ってくるね。」

「わあー!ありがとう!うれしいな!」

「あと雑煮を作ってみたよ。レシピを見ながらだから未亜の実家と味は違うと思うけど。お餅はいくつ食べる?」

「じゃあ、二つ!」

「了解。焼いて雑煮に入れたら持っていくから座って、先におせちを食べておくといいよ。」

「ありがとう。でもせっかくだから待ってるよ!」

「そう?じゃあ、少し待っててね。」


 圭司が残りの調理をしている間にルームウェアに着替える。見事に焼かれた魚と海老、お餅の入ったお雑煮もそろって、おいしくいただく。


「すごい美味しい。本当にありがとうね。」

「いやいや、家にいるんだから当たり前だよ。それにせっかく正月なのにおせちも雑煮もないのはいやだったからね。」


 圭司には頭が上がらないよ、ほんと……。

 食べ終わったあと、ふとTwinsterを見てみると「マスケイ」がトレンド一位になっている。何事かと思ったら大崎への本所属が発表されたからだった。そして、その下、二位に「早緑美愛」が入っている。びっくりしてついエゴサしてしまうと昨日の紅白に感動したという感想で埋め尽くされていた。


「なんか、Twinsterがすごいね!?」

「朝からずっと早緑美愛が入りっぱなしだよ。アフートピックスもほら。」


 圭司に見せられたアフートピックスのトップには


 紅白 早緑美愛が感想ツイスト一位

 鶴本ラン 美愛は本当の妹のよう


 と二つ並んで書かれていた。


「えっ、私がツイスト数一位なの!?」

「なんか感想ツイスト数のランキングでそう出たみたいだね。」

「鶴本さんじゃないんだね……。」

「だってすごかったもん。俺のフィアンセはこんなすごい人なんだって改めて感じ入ったよ。」

「えへへ……。」

「あれ?未亜どうしたの?」

「……俺のフィアンセっていってもらえたのが嬉しかった……。」

「あっ。……まあ間違ってないからね!」


 しばらく圭司と見つめ合っちゃった!

 そんなまったりとした時間を過ごしたあと、すっかり忘れていた新年のあいさつをいろいろなところにメールやRINEで送る。

 高校の時の担任からは「マスケイさんが同じ事務所に所属したけど、マスケイさんと会ったらどんな人だったか教えてね!」というメッセージが来ていた。藤原先生、マスケイさんのこと、本当に好きなんだなあ。さすがにストーカーということはないと思うけどね。

 その後も少しずつ紅白の感想も含めた返事が返ってくるので、ひととおりこなしてから一緒にお風呂に入って出てくると19時くらいだった。


「さすがに辛いからもう寝ようか。明日も早いからね。あさってはゆっくりしよう。」

「そだねえ……。ふあああああああぁぁぁぁぁぁ。さすがに眠いや。」


 早々と二人で寝てしまったけど、本当に安心感が段違い。もう毎日嬉しいよね。


 2日と3日、私はオフだけど、テレビには出ずっぱりだ。これも全部年末に事前収録で頑張ったおかげ。

 2日は7時に起き、タクシーに乗って、まずは圭司の実家へご挨拶。百合ちゃんもいて、五人で談笑する。高倉家のおせちを初めていただいたけど、とても美味しかった。いつかお義母様に料理を教わりたいなあ。

 夜は顔合わせなので、またのちほどとあいさつをして、圭司の実家を出ると再びタクシーを捉まえて、野毛の横浜総鎮守伊勢大社へ一日遅れの初詣。着物とか着られればいいんだろうけどもあいにくそんなテクニックはないので、普通の格好で参拝した。

 初詣のあとはうちの実家へ新年の挨拶。実家のおせちは食べ慣れた味。圭司は初めて食べたけど美味しそうに食べてくれてほっとする。

 夕方には実家を両親と一緒に出て、お義父様が予約してくれた中華街の花征楼本店というハマッコにはおなじみの中国料理店で両家の顔合わせ。横浜の川相予備校から直接やってきた涼真も合流して歓談する。両家の両親はもう既に一回会っているからか、気難しい雰囲気にならず、いい感じに打ち解けているのが嬉しい。涼真は目の前にかわいい百合ちゃんがいるのに黙々と料理を食べているけど、照れているのかと思いきや、どうやら全く興味がない様子。女っ気ないなあ、とは思っていたけど、そもそも関心がないんだなあ。

 21時にお開きになったあとは、そのままタクシーに乗って家へ帰る。さすがに二人とも疲れてしまい、今日も早々と寝てしまうことにした。

 オフ最終日の3日はどこにも出かけず、ジャパンテレビでやっている箱根駅伝を見ながら一日家でのんびりする。朝でおせちは食べきったので、本当に久しぶりに昼と晩は私が料理をした!いつも圭司にばかりやってもらうのは悪いからこういうときくらいはね。本当に久しぶりの料理だったけど、いい感じに出来て良かったんじゃないかな。

 ちなみに2日と3日の午前中にほとんど生放送がないのは、箱根駅伝がお化け番組過ぎて収録特番やドラマの再放送が多いからだって太田さんから聞いた。私も裏番組に出ずっぱりなのに駅伝を見ているもんなあ……。その箱根駅伝、母校哲学館大学は4位に入った。最後の直線で深澤大学に競り負けてしまったのは残念だけど、1位の渋谷学院大学が大会記録で優勝した中では頑張ったんじゃないかな。


 4日からは通常通り。新年のあいさつをしたいという圭司と一緒に大崎へ向かう。ちなみに紅白歌手別視聴率は2位と発表された。1位はもちろん鶴本さん。


「あらためてあけましておめでとうございます。」

「本年もよろしくお願いします。」

「こちらこそ、よろしくね。」

「太田さんも休めました?」

「年末年始と久しぶりに連続で休んだわね。今日、1705に朱鷺野先生と瑠乃が引っ越ししているからよろしくね。」

「はい!」

「そうそう、美愛、紅白瞬間視聴率1位おめでとう!」

「えっ?私2位でしたよね?」

「歌手別ではランだけど、瞬間視聴率1位の場面はあなたが2番のハモりを歌っている場面だったの。だから実質1位ね。」

「確かにそうかもしれないですけど、それは鶴本さんあってのものですから。」

「大丈夫、ランもそういっていたから!」

「ええっ!?鶴本さんまで!?」


 笑いながら紅白が振り返れて良かったなあ……。

 私はこのあとテレビ局をはしごして、紅白特集の生出演や番組収録が続く。明日から二日間はがっつり5thアルバムの収録がある。ゆっくり休めたし、がんばるぞ!

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