第194話○みんなの自主レッスンメニュー

 給水用の飲み物を買って、レッスンスタジオ801に入るとやっぱりここは広い。4人でも十分すぎる広さ。


「じゃあまずウォーミングアップからかな、これはきっとみんな一緒だよね。」

「そんな感じがするね。あ、この中では本名でいいよね?」

「うん、OKだよ。」

「俺もOK!」

「じゃあ、圭司には一つずつやり方を説明するね。」

「うん、お願い。」

「よし、はじめよう!」


 4人ではじめてみると私と彩春は同じ順番で同じメニューだったけど、百合ちゃんだけはちょっと違っていた。


「百合ちゃんだけちょっと違うね?」

「あっ、これは部活でやっていたウォーミングアップなんです。」

「ダンス部だっけ?」

「はい、そうです!もう大会も終わったので引退しましたけどね。」

「全体的にハードだよね。」

「そうですか?」

「うん、はじめからけっこう負荷が高いメニューだね。流石百合ちゃん。」

「一応、先生にも教えてもらったんですけど、いつもやっているのを見せたら『それがこなせるならそっちの方がいいですね』っていわれたので自主レッスンではいままで通りやってます。」

「なるほどね。」


 4人でウォーミングアップが終わったので、次はレッスンスタジオに置いてあるメトロノームを使いながらダンスの基礎ステップかな。大崎のダンスレッスンでは、まず最初に習う、初歩用のコンビネーションメニューがある。先生たちは「ファーストコンビレーション」と呼んでいて、膝を使ったダウン・サイドステップ・4ステップ・ステップ&キックという構成になっている。それぞれ4回ずつで、これを3セット連続でこなすことが多い。


「『ファーストコンビレーション』はさすがに初歩ステップ過ぎるから彩春と二人でやろうか。」

「あっ、わたしもやります!」

「えっ、百合ちゃんには簡単すぎない?」

「最近ダンスレッスンは上級編が多くて、基礎をちゃんとやっていないのでいいタイミングかなって思いました。」

「じゃあ、一緒にやろうか。」

「はい!」


 三人で間隔を開けながら並んで、彩春も私も特に問題なくこなす。


「基礎の簡単な動きのはずなのにそれでも百合ちゃんのレベルの高さが判るね……。」

「えへへ、照れます……。」


 その後は、セカンドコンビネーションなど、一連のダンスステップを百合ちゃんのステップを見ながらおさらいしていく。少し休憩をしようかとスタジオの隅へ移動すると百合ちゃんが少し遅れてこっちへやってきた。私の耳元に顔を近づけて小声でささやく。


「両親から二人のことを聞きました。兄だけでなく私とも末永くよろしくお願いします、未亜お義姉ねえさん。」


 それだけいうと百合ちゃんはまた元の位置に戻っていく……。

 確かに百合ちゃんのお義姉さんになるわけだけど!不意打ちは照れるって!もう!

 そんな不意打ちを受けたのもなんのその。いままで習ったことを確認しつつ、適宜休憩を挟みながら進めていくだけでももう3時間くらい経っていて、いいレッスンになる。


「これさ、月に一回くらいみんなで集まって、やってもいいかもね。」

「ああ、それがいいかも。ついつい、基礎レッスンはやらなくなっちゃうけど、ちゃんとおさらいしてみると抜けてたりするよね。」

「私も参加したいです!」

「百合ちゃんにも出てもらえるといいお手本になって良さそうだね。」

「確かに!中学からずっとやっていた人のダンスはすごいよね。」

「なんか今日はすごい褒められるので照れくさいです……。」


 百合ちゃんに習いながら充実したダンスレッスンを終え、午後は歌唱レッスンから演技レッスンをしようかと話しながら、一回シャワーを浴びて着替えてから荷物をスタジオに置く。大崎ビルも大崎スタジオビルも残念ながら社員食堂のようなものはないので、歩いて5分くらいの所にあるデンキトファミレスへ行ってみんなでランチを食べる。とりとめない話をしながら食べ終えて、レッスンスタジオに戻ってきて、突然彩春が思い出したようにこうつぶやく。


「そういえば、未亜と百合ちゃんって、義理の姉妹関係になるんだね!」


 私も圭司も固まってしまった。確かにそうだよ!さっき、百合ちゃんにも言われたよ!だけどさ!みんな不意打ちはやめようよ!


「そうなんですよ、未亜さんが私のお義姉ねえさんになってくれるんです!」

「そういうの照れるから!」

「そうだよ!」

「お兄ちゃんがこんな照れてるところ、はじめて見た!」


 しばらくいじられてから、歌唱レッスンに入る。

 大崎のレッスンルームには通信カラオケが設置されているので、それを使って歌唱レッスンが可能だけど、まずはその前に喉を温める。


「これは未亜がお手本になって欲しいな。」

「紅白出場歌手の歌唱レッスンを見られるなんて!」

「別に特に変わらないと思うよ!?」


 私がいつもやっている、首と肩のストレッチ、あいうえおを発声する口角のストレッチ、姿勢を正しておなかに手を当てて「あっ、あっ、あー。」と発声する腹式呼吸の確認、そのあとはリップロール・ロングトーン・音階発声という流れで、三人と確認し合いながら進める。


「やっぱり普通のボイトレとは違うね。」

「そうですね!」

「演技をするときとは違うよね。歌うことを意識した準備だから。」

「俺も参考になるなあ。」

「みんなの参考になるなら嬉しいよ!」


 準備が終わったあとは、三人で同じ曲を順番に歌って、良かった点やいまいちだった点を評価し合う。曲目は私の持ち歌や鶴本さんの曲、ドルプロの全体曲などをチョイスしながら進めていく。圭司も含めて、忌憚ない意見を出し合えて、本当に参考になった。これも月に一回くらいやりたいなあ。


 次は、演技レッスンだ。スタジオに備え付けてある演技レッスン用の台本を持ってきて、二人一組になって、同じ台本を使って、順番に役を変えながら進める。一巡したところで改めて反省会をするけど、やっぱり彩春の演技が飛び抜けて上手かった。


「未亜は前に棒読みしか出来なかったって聞いたけど、いまや普通に女優出来るね。」

「ありがとう!成長したとは思ってるんだ!」

「未亜さん、すごいです。」

「百合ちゃんもなかなかだよね。」

「ありがとうございます!でも彩春さんとか未亜さんとかと比べるとまだまだだなあっていい勉強になりました。」

「みんなでトレーニングしていきたいね。」

「そうですね!」


 今日は一日いいレッスンが出来た!帰ったら、安比行きの件を話しないと!

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