第206話○お互い頑張ろう!
昨日は圭司と一緒に心療内科へ。私の話を少ししたところ、臨床心理士さんに「もう少し詳しくお話を伺った方が良さそうですね。一回ちゃんと状態を先生と確認しましょう。」といわれた。気がついていなかったけど、けっこうまずいのかな、とドキドキしながら別室へ行って、臨床心理士さんとお医者さんへ高校の頃のことを細かく話す。お医者さんの見立てでは、やっぱり、ファーストネーム呼びにこだわっていたのは当時のトラウマによるものだけど、いまの状況では特に継続して治療をする必要はない、いまの人間関係で悩みが出てきたら遠慮なく相談して下さい、とのことだった。
そして、実は別室に呼ばれたのは圭司の治療についてがメインだった。治療そのものは問題ないそうなのだけど、最後の心理的障壁がどうにも越えられないのがEDにつながっているそうだ。圭司とそういう関係になりたいと思っているかの再確認をされ、そう思っていることを伝えるとさっき説明したED治療薬というのは、実はサプリメントだと教えてくれた。亜鉛やビタミンB2が含まれている滋養強壮剤サプリメントで、しばらく飲み続けることで実際にある程度の効果があるとのこと。本来は薬ではないそうで、「まだ若いので本当の投薬はなるべく避けたく、プラシーボ効果も期待して、あえて『薬』と称して出すのでよろしくお願いします」という話だった。あとは状況を見て、そういう雰囲気になったときは恥ずかしさもあるとは思うが現状を二人で打破するために私の方からも行動して欲しいという依頼もあった。確かにまだ恥ずかしさはあるけど、クリスマスの時にはこちらからも行動出来たし、そのときが来たら頑張ってみよう!
そして、今日は5thアルバムの収録。一応来週も予定が組まれていたのが全部無事に今日で完了した!今晩のラジオは文明放送が機構テスト前日応援特番でおやすみなので、夜まで収録がしっかり予定されていたものの、割と早くてまだ16時になっていない。圭司は夜まで幸大くんとせまじょの打ち合わせだから、家に帰っても誰もいないんだよね。またシークレットライブの時みたいなことは嫌だし、自主レッスンでもするかな。今日は私が晩ご飯作りたいから、少し早めに帰る感じで。
自主レッスンのスタジオを押さえるべく、私はスマホに入れたカバボクシのアプリを操作する。いままで、レッスンスタジオの予約はすべて担当マネージャか7階の営業事務ルームに空きを見てもらって、予約しなければならなかったのだけど、12月に導入されたカバボクシに年明けからレッスンスタジオの予約機能が追加されて、タレントがカバボクシのアプリから自分でも予約出来るようになった。年末みたいに人数を増やしたい場合もアプリで追加の処理をしてパスコードを発行、一緒に入りたい人のアプリで部屋番号とパスコードを入力する。そうすると今度は元々予約していた人のアプリに承認の依頼が来るので、承認ボタンを押すと操作完了。本当に楽になったけど、レッスンルームの人数追加はまだ試したことがない。今度みんなでレッスンするときにでも試したいなあ。
アプリから予約出来るのは、予約したい日の一週間前から。太田さんによるとアプリからの予約はスケジュールが空いているときに直前でも手軽に予約出来るようにしようということで導入が決まったそうのだけど、実際にはスマホを使えないベテランタレントさんや同じくスマホには不慣れなベテランタレント専属マネージャがいままでの方法で予約出来るような道を残しておくためだとか。太田さんってたまにそんな話、ただの所属タレントにしてもいいのかなっていう情報を漏らすことがあるんだよねえ。まあ、問題ないから話してくれるんだろうけど。
あと予約は大崎ビル17階と18階の各レッスンスタジオと大崎スタジオビルのみとなっている。こちらはちゃんとした理由?があって、大崎ビル19階はとても広いスタジオばかりなのでアプリでの予約からは除外されているそうだ。
そんな新しいアプリから空き状況を確認すると今日は大崎ビルの方は完全に埋まっていて、スタジオビルの方に空きがけっこうあったから、そっちで一番小さい部屋を16時半から予約してしまう。みっちり2時間くらい頑張るかな!
18時半に自主レッスンを終えて、着替えのために更衣室のある4階へ降りると前を歩いている女性の後ろ姿に見覚えがある。えっ、なんでここにいるの?そっと近寄って、声を掛ける。
「華菜恵?」
「……あっ!もう見つかった!」
「もう、見つかったって、なんか人聞きが悪いなあ。」
「ごめんごめん。」
笑いながら突っ込むと華菜恵が申し訳そうな顔をして謝る。
「ねえねえ、ここでなにかレッスン受けてるの?」
「うん、実はそうなんだ。年明けから一般生として、ダンスのレッスンをね。」
「えっ、華菜恵ってダンスするんだ!?」
「中学の頃には踊ってみたの動画あげてたこともあるよ。」
「へえー!」
「再生数二桁で全然伸びなくて心折れちゃってさー。だけど、大学の友達がみんななんかすごい人たちだって判ったらね。自分もまたなんかやりたいなっておもっちゃったんだよね。」
「すごい人多いよね、へべすとか澄華とか。」
「なにいってんの!?さみっちだってすごいじゃない!」
「そうかなあ。」
「そうだよー!紅白もすごかったし!」
「えへへ、なんか照れるね。」
シャワーを浴びたあと、着替えながら話を続ける。
「百合ちゃんとばったりって今日言ってたけど、もしかして。」
「うん、ゆりっちとは今日みたいな感じであったんだよね。」
「なるほどなあ。」
「本当にいい子だよね。」
「うん、ゆりっちはとてもいい子だね!」
話をしているとスマホが光る。
「あれ?帯屋先生からグルチャだ。今晩おごるからみんなで食事をしたいって。」
「あっ、本当だ。なんだろうね?」
「今日、雨東さんと打ち合わせをしているはずなんだよね。打ち合わせが終わって、ご飯でも食べる流れになったかな?」
「きっと、そうだよ!」
着替え終わるとタクシーに乗るため、二人で大崎ビルまで歩く。
「私も一緒に乗っちゃっていいの?」
「もちろん!会社から支給してもらっているタクシーチケットだし!」
「なんかありがとうね。」
「いえいえ、どういたしまして!」
タクシーに乗り込むとなんとなくさっきの話の続きになる。
「華菜恵も何かやっている人だったんだね。」
「何かやっているうちにはいるかどうかは判らないけどねー。」
「ダンスのレッスンをはじめたっていうだけですごいよ。プロのダンサーになりたいとかあるの?」
「うーん、独学で適当にやって、中途半端な状態でやめちゃったから、あらためて基礎からちゃんとやったらどうなるかなって思っただけなんだよね。」
「限界を見極めたい感じ?」
「うん、そんな感じかな。週に2回のレッスンが始まって、まだ今日で3回目なんだけど、やっぱりちゃんと基礎が出来てなかったんだなあって、思いながらやってるよ。」
「そかー。」
「でもね、楽しい!けっこう踊るの好きだったんだなって思った。」
「それすごいいいね!」
「うん、プロデビューとかは全然考えていないけど、いまから基礎をしっかりやって、趣味で長く続けられたらいいよね。」
「そういうのも有りだよね。仕事にしちゃうとやっぱりきっついこともあるし。」
「でも好きなことは楽しい、でしょ?」
「うん、そうだね!」
「ダンスがけっこういい感じになったら、カラオケとかでみあっちの歌にあわせて踊ったりしたいかも!」
「カラオケといわず、ね。」
「えっ、カラオケじゃなかったらどこ?レッスンスタジオとか?」
私は首を振って、いま思いついたことを伝えてみる。
「ステージで歌う私のバックで踊ってよ!」
「ええっ!?」
「夢を見るのは誰でも自由だもん!私が『アイマイ』とか『私発あなた行き』とか『Magic Of The First Time』とかを歌っている後ろで踊ってくれている華菜恵と目線あわせてにっこりしたあと、観客のみんなに紹介するところまで夢見たよ!」
「バックダンサーかー。どこまで行けるか判らないけど、確かに夢を見るのは自由だね!」
「でしょ!一緒にね!」
「うん、判った、さみっちと一緒の舞台に立ってバックダンサー出来るのを夢見て頑張ってみるよ!」
「華菜恵、お互い頑張ろうね!」
「お互い、なんだ!?」
「だって、華菜恵が私のバックで踊ってもらえるようになるまで、今以上に成長して、板の上に立ち続けないといけないからね!」
「そか!そうだね!よし、みあっち、お互い頑張ろう!」
「うん!がんばろう!」
華菜恵に踊ってもらって歌を歌う、楽しみだなあ!そんな日が来るように私も頑張らないと!
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【作者より】
今回の内容は、様々な事例を参考にして、各種知見などに配慮しながら慎重に記載したものですが、あくまでフィクションであり、医師等による診察や医学的なアドバイスの代わりになるものではありません。また、サプリメントを薬として出す点については、あくまでフィクションとしてとらえていただければ幸いです。個別の疾患に関しては必ず専門家へ相談していただくようにお願いいたします。
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