第186話○プリンセスホテル品川高輪ディナーショー

 京高スクエアホテルのディナーショーも無事に終わった!

 終わったあとは、もちろん圭司と一緒に家へ帰る。ここでもお弁当をいただいたので帰ったら食べてしまおう。

 帰宅途中で彩春からみんなで彩春の実家が経営しているペンションへ行こうという提案があった。大学は2月1日から休みに入るから2月中のどこか、ということで予定を送って欲しい、とのこと。


「ねえ、圭司、これさ、例のお金を使ういいタイミングじゃない?」

「さすが未亜。俺も全く同じことを考えていたよ。個チャで朋夏さんに連絡してみるよ。」

「以心伝心で嬉しいなあ。じゃあ、お願いね。」

「うん、じゃあ早速……あー、なるほどな。」

「ん?なんだって?」

「朋夏さんも賛成なんだけど、いままで遊びに行って宿代を取ってもらえたことがなくて、いつも招待だから、今回も宿代という形では受け取ってもらえないかもしれないって。」

「その辺は彩春と相談したいね。」

「そうだな。」


 久しぶりに四人のグルチャに投げたら彩春からは気にしないでってきたけど、人数も多くてそれは良くないからっていうことで四人とも時間の取れる月曜日の夜に話をすることになった。ついでにこのチャットも朋夏が会社のTlackへチャンネルをつくってくれるそうだ。

 家に帰って、お弁当を食べて、一緒にお風呂に入って、一緒に寝る。毎日本当に嬉しいよね……。


 朝起きて、今日もディナーショーだ!

 今日は6時に起きて、8時過ぎから事務所で自主トレをする。早い時間帯は自主トレする人も少ないみたいで、しっかりと予約を入れてもらうことが出来ている。実は最近知ったのだけど、レッスンスタジオは、清掃で閉鎖されていない限り、24時間いつでも使えるんだとか。あらためて所属したときにもらった資料を読み返していたら確かにそんな記述があった。事務ルームに人がいないときはどうするのかと思ったら、太田さんによると深夜の生放送に出演しているタレントや海外ロケへいくタレントも多いので、万が一の時に備えて、夜中でも対応出来るようにシフト制で必ず数名常駐しているんだって……。それで地下に仮眠室とかもあるんだね……。スタッフの皆さん、お疲れ様です。


 シャワーで汗を流して、さみあんモードになってから9時過ぎに太田さんのデスクへ顔を出す。


「おはようございます!」

「美愛、おはよう。あっ、そうそう。あとで関係者には伝えるけど、朱鷺野先生と瑠乃が1705へ正月明けすぐの4日に入居することになったからよろしくね。」

「判りました!」


 ノートパソコンを見ていた太田さんがとてもいい笑顔になった。なんだろう?


「美愛に朗報よ!4/29にライブが決まった!」

「おおっ!場所はどこですか?」

渋谷シアターアリーナ渋アリよ!社内の争奪戦に勝ったわ!紅白出場は社内にも有効ね!」

「ええっ!?2万人収容のあそこですか!?」

「今回は1日だけだし、間違いなく埋まるから安心して。ライブとしては3月のライブの追加公演として一緒に発売することで調整する。これがもしあっという間に完売出来たら秋は土日で2Daysとかやりたいわね!」

「チケットが捌けてからで予約間に合うんですか?」

「渋アリは1年前から仮予約を受けているんだけど、あらかじめ毎月何日かずつ、大崎グループの専用利用日として、押さえられているのよ。そっちは社内申請を出しておくとほかに希望がなければそのまま予約成立、ほかとかぶっていたら内容を審査の上で5か月前までに決定っていう感じ。」

「審査……。」

「もう既に今回勝っているからね。やっぱり紅白出場歌手は強いわよ。ランとか大森さんとかとバッティングしない限りは、まず大丈夫だし、そこは、まあ、ね。」


 これ、きっと、その辺の人たちが申請していない日を狙うつもりなんだなあ。太田さんはその辺の抜け目ないよね……。


「まあ、渋アリならアリーナ席の花道とか、バックステージとか、人力トロッコで一周とか、近藤さんに頼んでいろいろなことがやりやすいからね!」

「それも楽しそうですね!」

「でしょー。しかも音質の面でも間違いなくいいアリーナだからね。自社物件だし、どんどん使ってライブしていきたいわね!」


 そうか、渋谷シアターアリーナって大崎のグループ会社だもんね。それにしても2千席の中野が満員になったって喜んでからたった1年で10倍近くになる2万人規模のアリーナでライブ出来るようになったんだなあ……。

 興奮冷めやらぬ太田さんが運転する社用車で事務所を出て、10時からみずほテレビで年始番組の収録。ジャパンテレビで汐留じゃなくて麹町スタジオへ行くケースが多いのと同じようにみずほテレビはお台場ではなく青海スタジオへ行くケースが多くなっている。まあ、青海スタジオはバラエティ番組の収録で時々来ているから麹町ほど館内がよく判らない、という状況ではないのだけども。

 年始番組を取りまくっていて、どれがいつオンエアとか判らないけど、今日のこれがラストで、明日は生放送とかの出演が入っている。正月明けはその分ゆっくりできるかと思いきや、元日は午前中から夕方まで年始の長尺生放送にコーナーゲストで呼ばれているので休みがない。そのかわり、元日の夜から3日までオフにしてもらっているんだけどね!


 みずほテレビでの収録は少し押したけど、リハには間に合う時間で良かった。収録自体も特に問題なく。スタジオセットの裏で待機しているときにまた男性タレント、しかも二人にRINEの交換を求められてウザかったけど!太田さんが撃退してくれたもののいつも太田さんと一緒な訳ではないから、プロポーズしてもらえたら真面目に公表してしまいたいよ、本当に。


 再び太田さんの社用車に乗り込み、次は13時から浜松町の文明放送でラジオの収録。ディナーショーの時間の関係で今週分、そして紅白の関係で来週分はどうしても収録にするしかないので、今日まとめて二本録りしてしまう。基本的に録って出しをするので、1時間もかからずに無事に収録は完了。生放送は年明けの7日からだね。再び社用車で15時過ぎにホテルへ到着。すぐ準備を進めてしまう。

 今日はディナーの会場とショーの会場が分かれていて、お客様は会場を移動することになっている。ショーの会場が分かれていることもあって、なんとお客様は900席!

 ホテルに着くと専用のエントランスから中へ入る。大きなレセプションホールには間仕切りがあって、正面には受付とクロークがあった。右の方がウィングの間らしい。楽屋はどこかな、と思っていると


「美愛、こっちよ。」

「えっ?!……あっ、ここに入り口があるんですね。」

「荷物を置いたら着替えちゃって。そのあと会場までの導線を案内するから。」

「太田さん、さすがに慣れていますね。」

「ランが毎年ここでディナーショーやってるからね。確か今年は先週やってたはずよ。」


 太田さんに案内された先には2つの部屋があった。左の方に入って、準備運動と着替えを済ませる。


「こっちよ。」

「あれ?なんか塞がってますけど。」

「ここはこんな感じで動くの。」


 太田さんがストッパーを操作している。あっ、なるほど壁がドアみたいな感じで動いて、向こう側の通路を塞げるようになっているんだ。


「いまはこっちが閉まっていて、外に人が通れるようになっているけど、ディナー会場から人が移動したら、閉鎖して、出演者とかスタッフとかが自由に楽屋と会場を移動出来るようになるようにしてあるのよ。」

「なるほど、面白いですね。」


 いまはいったん、先ほどの扉からエントランスへ出ると近藤さんがいたので合流して改めて会場となるウィングの間へ入る。ショーの会場は真ん中にステージからせり出した花道があって、いままでとはちょっと会場の雰囲気が異なる……って、花道!?そんなの聞いてないよ!?太田さんを見るとどうも太田さんも聞いていなかったようですぐに言葉が出る。


「えっ、花道ですか?」

「実は当初はない予定だったんですが、昨日ディナーショーをされた麦麦PUBさん、明日ディナーショーをされる弁財べんざい魔貴まきさんがともに花道有りの同じセットということで、急遽一昨日依頼があって、昨日のセットのままという感じになった次第です。そして座席の配置も予定より広く会場全体になりました。」

「美愛、ちょっと流れ考え直すわよ。」

「わかりました!」


 楽屋に来る予定だった、朋夏と明貴子には簡単に状況を伝えて、難しいと連絡した。二人からは「頑張って!」と返ってきて、本当に嬉しい。


 そんなことをしている間に圭司も到着して、近藤さんも含めて導線の再検討をする。近藤さんの案にファンとしての立ち位置が判る圭司の意見とファンサービスをしたい私の視点を加え、体力的な部分を理解している太田さんが修正した上で、大きな流れが決まった。実際に動きながら細かい部分を調整しているうちに17時が近づいてきたので、圭司はディナー会場へと向かう。最終的に流れの確認が完了したのは18時少し前。間に合って良かったなあ。皆さんがこちらへ来る前にいったん楽屋へ戻り、白湯を飲んで体調を整える。


「ビックリしたけどなんとかなって良かったわね。」

「ええ、本当に良かったです。」


 ショータイムは会場全体を大きく使いながらいままでとは違った見せ方が出来たんじゃないかな!圭司からも賞賛してもらえたし、終わったあと楽屋に来てくれた二人にも大絶賛してもらえた!私は周りに恵まれているよね、大事にしないと。

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