第185話●京高スクエアホテルディナーショー
未亜の楽屋をみんなで出て、会場へと向かう。
「ディナーショー本当に楽しみ!」
「本当だよね。」
「まずは食事からだね。」
「モニュメントタワーが美味しかったからここも期待!」
「えっ、飯出さん、先週のも行かれたんですか?」
「ここにいる明貴子と圭司くんと一緒に行きました!」
「すごいお金持ち……。」
「まあ、この三人はお金持ちだよねー。」
彩春さんがなんかニヤニヤしてるけど、俺はそんなでもないはずだよ!
「それはともかく、
「はい!大丈夫です!」
「良かったら、朱石さんもラフな感じで!」
「えっ!岡里さん、いいんですか!?」
「もみーなら大丈夫だよ!私の親友だもん!」
「じゃあ、皆さんをあだ名で呼ばせてもらいます!」
「あだな、いいね!」
朱石さんはそれぞれ、いーちゃん、ともちゃん、るのちゃん、あきちゃんと呼ぶことにしていた。ちなみに志満さんのことはもともとしーちゃんと呼んでいて、紗和さんは儘田先生、俺のことは高倉さんと呼んでいた。ママダPの大ファンだっていっていたからあだ名は呼びづらいんだろうな。それと男性をあだ名で呼ぶのは抵抗感があるのかもね。
我々の座る関係者席はステージから一番離れているところ。モニュメントタワーもそうだったからほかもそういう位置なんだろうなあ。ちなみに自分で取った志満さんと朱石さんはステージ近くのかなりいい場所だった。
ディナーショーは二部構成。まず最初にコース料理が出てきて、そのあとショータイムとなる。
「ちゃんとしたコース料理なんて初めて。」
「私も初めて。」
「ママダPと瑠乃は初めてだったんだね。」
「いろはとへべすはなんか経験豊富そう。」
「私は親が安比でペンション経営しているから小さい頃からしつけられたよ。」
「いろはの実家って、ペンションなの!?」
「泊まったことあるけどすごいよ!3階建てなんだけどとてもきれいで、ディナーはフランス料理のコースだよ!」
「ええっ!?すごいな!」
「お父さんがサンゴクっていうフレンチレストランの支店で料理長をやっていたんだけど、結婚したあと、母方の祖父母が温泉民宿を続けるのはもう体力的に厳しいからやめるっていう話になってね。それならっていうことで、一人一人に丁寧なおもてなしの出来るオーナーシェフになる夢を叶えたいって、民宿をフレンチのフルコースが楽しめて温泉にも入れるペンションに建て替えていまに至るっていう感じかな。」
「サンゴクってすごいね!?」
「いろはのお父さんもお母さんもすごいいい人だからみんなで一回行きたいね。」
「そうだね!冬の間にいこうよ!安比はスキーも楽しめるからおすすめ!スキー場からは少し距離があるんだけど、送迎もしてるし、うちは自家源泉の温泉もあって、安比のあたりでは珍しい硫黄泉だよ!」
「でも今の時期って予約一杯じゃない?」
「平日なら全然いけるよ。大学がおやすみの期間でみんなで2泊3日出来そうな日付を聞いておくね。」
なんか、あっという間に決まったけど、これ、例のお金から出したいな。未亜に話して、朋夏さんに相談の上、彩春さんに提案してみよう。
そんな話をしている間も料理はどんどんと進んでいく。フレンチのフルコースをこんな短期間に何度も食べることになるとは思っていなかったのだけど、けっこう味付けとかも違うのだなあ、と面白い。こういう経験を活かした作品作りもしていきたい。デザートまで食べ終わったところで、いよいよショータイムが始まる。
「大変長らくお待たせいたしました。ただいまより、京高スクエアホテルPresents早緑美愛クリスマスディナーショーショータイムの部を開始いたします。」
アナウンスが終わると同時に「私発あなた行き」のイントロが流れはじめた。この前のディナーショーと同じように少し間を置いたのちに大広間の扉が開いて、未亜が入ってきた。一礼したあと、会場内をゆっくりと一周……いや、リハより少し早足になっている。リハの時、最初間に合わなかったもんな……。ここではこちらに来ないので遠くから眺める感じになる。大ラス前の最後の間奏でステージに上がった瞬間、大きな拍手が出るのは横浜モニュメントタワーホテルの時と変わらない。
「本日は、京高スクエアホテルPresents早緑美愛クリスマスディナーショーへお越しいただき、誠にありがとうございます。クリスマス前の夜、皆様の素敵な憩いの時間となりますよう、心を込めて歌わせていただきます。まず最初にお届けしましたのは、私の代表作ともいうべき『私発あなた行き』です。」
プロンプターのセリフが少し違うんだな。リハではここまで話をしないから聞く度に新鮮で楽しい。ステージが遠いので表情まではうかがえないけど、声もMCも引き続き調子が良さそうで良かった。
「それでは、次の曲をお届けします。『First Impression』『新たなはじまり』を続けてお楽しみください。」
「2曲続けて聞いていただきました。今日のディナーショーですが、『佐坂哲男とメトロポリタンシティハーモニー』の皆様が演奏してくださっています。実は、弦楽器や管楽器と一緒に歌わせていただくのは今回のディナーショーが2回目でして、いつもとは違った感じでお届けできているのではないかと思います。さて、ここから続けて通称渋谷バラードを4曲お届けします。いろいろなところでご評価いただくことがおおく、この曲を聴きながら渋谷の街を歩いて下さる方も増えているようで、とても嬉しいです。それでは、お楽しみください。」
やっぱりここもMCが微妙に違う。近藤さんの細かいこだわりが垣間見えて面白いなあ。ここからは会場をゆっくり巡回していく。我々が座っている卓には3曲目の「井の頭通りで雨に濡れて」の時にやってきた。変に照れて失敗しないように手を振るのは控えて、アイコンタクトを送るにとどめる。未亜もちゃんとアイコンタクト……あっ、ウインクした!友人たちが一斉にこっちを見たぞ!俺は照れても問題ないけど不意打ち過ぎるって!もちろん渋谷バラードは今日もとても素敵だったけど、ウインクの衝撃が強すぎるんだよなあ、もう。
未亜は無事にステージにたどり着き、簡単なMCをはさんで「神様が微笑む森」と「主役」を歌う。両方ともオーケストラ演奏は重厚になってすごい。特に「主役」は紗和さん自身の手による編曲もものすごい良くて、二回目なのにまた泣いてしまった。みんなも泣いていたからあとで未亜に教えてあげよう。
「最後は『主役』でした。今宵のひとときが皆様にとって、素敵な時間となっていたら嬉しいです。またどこかでお目にかかれる日を楽しみにしています。今日はお越しいただきありがとうございました。早緑美愛でした。」
大きな拍手の中、未亜が退場していく。俺の彼女はこんなにも人を感動させることの出来るすごいアーティストなんだよな。俺もますます頑張らないと隣に立てなくなっちゃうよ!気合い入れるぞ!
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