第188話●永遠(とわ)の誓い

 最後の「主役」は本当に気合いが入っていたみたいで、これまでで一番感動的だった。朋夏さんも明貴子さんも今までにないくらい号泣している。


「『主役』を聞いていただきました。皆様にとって、素敵なクリスマスの夜になっていたら嬉しいです。またどこかでお目にかかれる日を楽しみにしています。今日はお越しいただきありがとうございました。早緑美愛でした。」


 そういうと未亜は会場の中央を通り、扉の前で一度振り返って、お辞儀をしてから外へ出て行った。ホテルの方がマイクを取ってアナウンスする。


「本日は横浜みなとみらいホテル東鉄主催早緑美愛クリスマススペシャルディナーショーへお越しいただき誠にありがとうございました。お忘れ物のないようにお気を付けてお帰り下さい。またのご来館を心よりお持ち申し上げております。」


 ディナーショーが無事に終わった。終わったけど、俺はこれからがむしろ本番だ。出口から近い席だったので早めに会場の外へ出る。それを見ていた二人もほぼ一緒に外へ出てきてくれたようだ。


「これからだね。頑張って。」

「私も応援しているからね。」

「ありがとう。」

「回答はまずOKで間違いないからさ。気負わずに、ね。」

「うん、朋夏のいうとおりだね。雰囲気が壊れない範囲で報告もらえたら嬉しいな。」

「二人ともありがとう。」


 二人は事前にRINEのグルチャで未亜へ伝えていたとおり、そのまま帰宅する。俺は二人を見送ると未亜の控え室まで向かう。


 コンコン

「早緑さん、入るよ。」

「あっ、雨東さん、お疲れ様。」


 未亜は既に通常モードに戻った上で着替えも終わっていて、いまは息を整えているところのようだ。着替えたといっても深紅のパーティドレスなので華やかな装い。わざわざこんな衣装を持ってきたんだなあ。今日はかわいいというより惚れ惚れする美しさだ。


「早緑さんこそ、お疲れ様。ものすごい良かったよ。」

「二人はもう帰ったのかな?」

「うん、もう帰ったね。とても良かったっていっていたよ。」

「それなら良かったー。」

「先生、もうチェックインはすませたの?」

「はい、ディナータイムの前に。」

「それなら、もう行った方がいいわね。美愛ももう今日は大丈夫よ。」

「はい、ありがとうございます。」


 太田さんに二人であいさつをするとそのままチェックインした部屋まで向かう。


「ディナーショーは楽しかったけど、食事が出来ないのはやっぱり悲しいなあ。自分のディナーショーなのにどのホテルでも食べられない所だったから助かるよね。」

「ここも本当は営業時間外でNGなんだけど、宿泊するなら特別にっていうことらしい。」

「そうなんだ。ありがたいね。」


 部屋に付くと荷物を置いて、内線を掛ける。すぐにホテルの方がやってきてセッティングを始めてくれる。飲み物のオーダーも確認され、セッティングが終わると同時に飲み物の提供から始まる。


「未亜、今日はお疲れ様。」

「圭司、今日はこんな素敵な部屋と食事をありがとうね。」

「「乾杯。」」


 コース料理が順番に提供されてくる。


「未亜のテーブルマナーは完璧だね。」

「高校の時にテーブルマナーの授業が毎年あるんだ。」

「そんなことするんだ!?」

「うん、けっこういろいろなことを教えてもらったなあ。」

「それがいま役立っている訳か。」

「そだね。結果的にいい学校を選んだと思うよ。」


 デザートまで食べ終わったけど、どの料理もとても美味しかった。やっぱりどのホテルも少しずつ味付けが違っていて、でもとても美味しい。


 ホテルの方はコーヒーを提供すると「内線で呼んでいただければ片付けに参ります。こちらにおかわりもご用意がございますので、ゆっくりと食後のコーヒーをお楽しみ下さい。」と告げて室外に出て行った。

 俺は食事のラストに出されたコーヒーを一口飲む。ポケットを探り、目的のものがちゃんとあることを確認した。よし、いまが一番だな。


「未亜。」

「圭司、なに?」

「今日は大事な話があるんだ。」

「うん……。」

「5月にみなとみらいここで付き合い始めて、そのあとあれだけのことがあったのに未亜は俺のことを支えて続けてくれた。俺は未亜に一生支えて欲しいし、俺は未亜のことを一生支えていきたい。だから、大学を卒業したら結婚して欲しい。それまではフィアンセとして、結婚したあとは夫婦として、一生を一緒に歩んで欲しい。」


 俺はそこまでいうとポケットからジュエリーケースを取り出して未亜の前に差し出し、蓋を開ける。


「OKしてもらえるならこのプロポーズリングを受け取ってくれないか?」


 未亜は黙ったままだ。何かを話したいけど、話せないという感じでまごまごしている。眼からはきれいな涙があふれてきた。1分くらい経って、一回、未亜は深呼吸をする。ようやく話が出来るようになったみたい。


「……はい、私も圭司と、一生一緒に、歩んでいきたい、です。よろしく、お願いします。」


 そういうと未亜はジュエリーケースを受け取ってくれた。


「ありがとう、未亜。一生大切にするよ。」

「ううっ……うん……うん……圭司……ありがとう……ちゃんとしてくれて……。私も圭司のことを一生大切にするね……。」


 俺はそっと席を立つと未亜の隣に進み、片膝を付ける。


「二つの指輪を左手の薬指に付けさせて欲しい。」


 未亜は黙ったまま何度も頷く。未亜からジュエリーケースを受け取って、未亜の左手の薬指にはめる。大きさはぴったりだった。


「私、幸せだよ……。嬉しい……。」


 未亜はそういうとイスから崩れ落ちるように抱きついてきた。しばし抱き合ったあと、少し身体を離して未亜の顔を見る。未亜はそのまま目をつぶってくれた。俺の方からキスをする。未亜と俺は顔を離したあとしばし抱き合っていた。


「俺も幸せだよ。選んでくれてありがとう。」

「私こそ、選んでくれてありがとう。」

「そろそろ片付けに来てもらうね。」

「……うん、そだね。」


 内線を回すとすぐに来てくれるそうだ。


「太田さんとみんなに報告しておいた方がいいよな。」

「うん、そだね。大切な親友たちに。あっ!お父さんにも報告しておかないと。」

「うちも報告するよ。」


 太田さんに「カバボクシ」でメッセージを送り、そのあと13人のグルチャへ報告を入れた。陽介さんへの報告を終えた未亜がそのあとすぐにグルチャへ同じように報告を入れる。俺は父さんにメッセージをしておく。その間に部屋の片づけも終わり、あっという間に元のスイートルームへ戻った。


「食事も終わったし、今日はもうお風呂に入ってベッドへ行かないか?」

「うん、そうしよっか……。」


 ドレスを脱ごうとする未亜の手を軽く押さえて、俺の手で脱がしていく。未亜の顔は真っ赤だけど、今日はもう気にしないで進めよう。下着だけになった未亜が今度は俺の服を脱がしてくれる。けっこう恥ずかしいけど顔に出ていないといいな。

 そして、お互いの下着も脱がせあって、指輪をいったん外した上でバスルームへ向かう。狭いバスタブに二人で入り、今日は未亜の前も洗う。


「んふぅ……。」


 胸を洗うと悩ましい声が未亜から聞こえる。正面から未亜の裸を見て、そんな声を聞いたら少しは反応するかと思ったけど残念ながら今日も難しいようだ。


「私も洗ってあげるよ。」


 未亜はそういうと俺の身体を洗ってくれる。顔を真っ赤にしながらあそこも丁寧に洗ってくれる。気持ちよさのようなものは感じるけど残念ながら反応しない……。


「やっぱり、たたないね。ごめんね。」

「ううん、焦っちゃダメだよ。先生も焦りが禁物だっていってたでしょ。今日、一生一緒にいる誓いをお互い立てたんだから、ね。どんなことがあろうとも私は絶対に圭司から離れない。だから安心して。」

「うん、ありがとう。」


 お湯を止めて、お互いの身体を拭き、ホテルのガウンを着る。手をつないでそのままベッドまで向かう。ベッドサイドのランプ以外の室内灯を消し、未亜のことを抱きしめながら今日のこれからを。


「今日はいけるところまで行きたい。」

「うん、そのつもりでいたから、私も……。」


 初めて未亜の胸を触る。未亜からなまめかしい吐息が漏れる。体中にキスをしながら未亜の大切なところを優しく刺激する。戸惑いながらも感じてくれているようだ。しばらくそうしていると未亜の息が荒くなってきた。


「んっ、んっ、な、なに、これ、あっあっ、んんっ!んーっ!!」


 そういうと未亜は身体を軽くけいれんさせ、そしてぐったりとした。つたないテクニックだと思うけど、未亜はちゃんと初めてのエクスタシーを感じてくれたようだ。

 そのまま軽く抱き寄せて頭をなでる。とろーんとした目でこちらを見つめてくるので軽くキスをすると未亜が抱きついてきた。だいぶ意識が戻ってきたみたいだ。


「……ビックリしたけど、初めてエッチなことが出来たね。なんか嬉しいな。」

「うん、そうだね。」

「こういうのでうれしがるのっておかしいのかな。」

「おかしなことじゃないよ。一つ関係が進められたっていうことだから。」

「そっか……。」


 そのまま抱きしめていたら未亜の寝息が聞こえてきた。今日はダメだったけど、俺たちにはまだまだ時間がある。焦ることなく治療を続けて、いつの日か未亜と一つになりたいな……。

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