第189話○永久(とわ)の誓い

 「主役」を歌い終わって、私はお辞儀をする。


「『主役』を聞いていただきました。皆様にとって、素敵なクリスマスの夜になっていたら嬉しいです。またどこかでお目にかかれる日を楽しみにしています。今日はお越しいただきありがとうございました。早緑美愛でした。」


 そこまで話し終わると私はもう一度お辞儀をして、会場の真ん中を通って捌け、そのまま控え室へ入る。


「未亜、今日はこのあと食事して泊まりでしょ。」

「はい、そうですね。」

「素敵な夜になるように私からのささやかなプレゼントを用意したわ。」


 太田さんの手にあるのは深紅のパーティドレス。


「えっ!?それって!?」

「うちの会社で持っている衣装よ。今晩は貸してあげるからこれを着て、食事を楽しんでね。」

「ありがとうございます。入学式で使ったスーツを持ってきていたんですけど、こんな素敵な衣装を貸していただけるなんて……。」


 太田さんから衣装を受け取るとウイッグを取り、ディナーショー用の衣装を脱いでパーティドレスへ着替えてしまう。そして、イスに座って、呼吸を整える。


 コンコン

「早緑さん、入るよ。」


 圭司が来てくれたみたい。


「あっ、雨東さん、お疲れ様。」

「早緑さんこそ、お疲れ様。ものすごい良かったよ。」

「二人はもう帰ったのかな?」

「うん、もう帰ったね。とても良かったっていっていたよ。」

「それなら良かったー。」

「先生、もうチェックインはすませたの?」

「はい、ディナータイムの前に。」

「それなら、もう行った方がいいわね。美愛ももう今日は大丈夫よ。」

「はい、ありがとうございます。」


 太田さんに圭司と一緒にあいさつをしてから、圭司に連れられて今日泊まる部屋へと向かう。ディナーショーの会場がある地下二階から一気に最上階まで来た。こんなすごいところに部屋を取ってくれたんだ。


「ディナーショーは楽しかったけど、食事が出来ないのはやっぱり悲しいなあ。自分のディナーショーなのにどのホテルでも食べられない所だったから助かるよね。」

「ここも本当は営業時間外でNGなんだけど、宿泊するから特別にっていうことらしい。」

「そうなんだ。ありがたいね。」


 部屋の中に入るとすごい!これってもしかして、スイートルーム!?こんな部屋をわざわざ取ってくれるなんて、やっぱり今日はプロポーズしてくれるんだよね……。いまから胸が一杯になってしまう。荷物を置くと圭司はすぐに内線を掛けた。ホテルの方が来て食事の準備をしている。

 ドリンクの注文もして、ひととおり用意が終わるとすぐに食事のスタート。


「未亜、今日はお疲れ様。」

「圭司、今日はこんな素敵な部屋と食事をありがとうね。」

「「乾杯。」」


 フランス料理が出てくるけどどれも美味しい。こういう機会はいままでほとんどなかったけど、高校の時に習ったテーブルマナーの授業はけっこう身についているもんだなあ。


「未亜のテーブルマナーは完璧だね。」

「高校の時にテーブルマナーの授業が毎年あるんだ。」

「そんなことするんだ!?」

「うん、けっこういろいろなことを教えてもらったなあ。」

「それがいま役立っている訳か。」

「そだね。結果的にいい学校を選んだと思うよ。」


 みんなこんな美味しくて素敵な料理を食べていたんだなあ。来年もディナーショーが出来るなら宿泊して終わったあとに料理を堪能したいけど難しいかなあ。もし機会があったら太田さんに相談してみよう。


 ずっと付いていて下さったホテルの方は「内線で呼んでいただければ片付けに参ります。こちらにおかわりもご用意がございますので、ゆっくりと食後のコーヒーをお楽しみ下さい。」と話して退室された。

 圭司が何やら緊張した顔になっている。これはきっとそういうことだよね!


「未亜。」

「圭司、なに?」

「今日は大事な話があるんだ。」

「うん……。」

「5月にみなとみらいここで付き合い始めて、そのあとあれだけのことがあったのに未亜は俺のことを支えて続けてくれた。俺は未亜に一生支えて欲しいし、俺は未亜のことを一生支えていきたい。だから、大学を卒業したら結婚して欲しい。それまではフィアンセとして、結婚したあとは夫婦として、一生を一緒に歩んで欲しい。」


 圭司はそういうとポケットから何かを取り出す。ジュエリーケースだ!圭司が蓋を開ける。……えっ、リングが二つも!?


「OKしてもらえるならこのプロポーズリングを受け取ってくれないか?」


 プロポーズのためにこんな素敵なリングを二つも用意してくれたの!?きっと、このシンプルな方を西脇未亜へ、こっちの二人の誕生石の埋まった華やかな方を早緑美愛へ、それぞれに贈ってくれるっていうことだよね。私のためにそこまでしてくれるなんて……。返事をしたいのに感動のあまり、声が出ない。こういうときは一回深呼吸をした方がいいよね。よし、これで大丈夫。ちゃんと返事をするぞ。


「……はい、私も圭司と、一生一緒に、歩んでいきたい、です。よろしく、お願いします。」


 私はそういってジュエリーケースを受け取る。


「ありがとう、未亜。一生大切にするよ。」

「ううっ……うん……うん……圭司……ありがとう……ちゃんとしてくれて……。私も圭司のことを一生大切にするね……。」


 圭司は席を立つと私の隣に来て、片膝を付けた。えっ!?なに!?


「二つの指輪を左手の薬指に付けさせて欲しい。」


 ええっ!そこまでしてくれるの!?泣きそうになってしまうので黙ったまま何度も頷くことしかできなかった。私は圭司にジュエリーケースを渡す。圭司は私の左手の薬指に2つともはめてくれた。大きさはぴったり!太田さんに聞いてくれたのかな?そこまでちゃんと準備してくれているなんて……。私は感動のあまり圭司に抱きついてしまった!


「私、幸せだよ……。嬉しい……。」


 圭司の顔が近づいてくる。私はそっと目を閉じる。圭司からのキス……。本当に嬉しいなあ……。


「俺も幸せだよ。選んでくれてありがとう。」

「私こそ、選んでくれてありがとう。」

「そろそろ片付けに来てもらうね。」

「……うん、そだね。」


 圭司は内線を掛けてくれた。


「太田さんとみんなに報告しておいた方がいいよな。」

「うん、そだね。大切な親友たちに。あっ!お父さんにも報告しておかないと。」

「うちも報告するよ。」


 圭司が太田さんにメッセージを送ってくれているので私は先にお父さんへ報告を送る。私がお父さんへ送っている間に圭司は親友たち13人のグルチャにも報告を送ってくれたので、私も続けて報告する。すぐにお祝いがたくさん!私たちは親友にも恵まれたよね……。

 いつのにか部屋が片付き、元のスイートルームへ戻っていた。


「食事も終わったし、今日はもうお風呂に入ってベッドへ行かないか?」

「うん、そうしよっか……。」


 ドレスを脱ごうとしたら圭司が制止する。なんだろう、と思ったら圭司が脱がしてくれた。ものすごい照れくさいけどそこまで出来るようになったんだととても嬉しい。圭司は自分で脱ごうとしたので、私も制止して圭司の服を脱がせていく。圭司は顔が真っ赤だ。お互い慣れてないもんね。

 下着も脱がせてくれたので圭司の方は私がする。指輪は濡らしたくないのでテーブルの上に置いたままのジュエリーケースに戻して蓋を閉じておく。


 手をつないでバスルームへ向かう。バスタブは結構狭くて密着した感じになるけど、今日はそれが嬉しい。圭司は私の背中を洗ったあと、私の向きを変えて、今度は前も洗ってくれる。ものすごいドキドキする……。圭司はスポンジをバスタブにおいて、今度は手で私の胸を洗い始めた。くすぐったいような気持ちいいようななんともいえない感覚の中でつい声が漏れてしまう。


「んふぅ……。」


 圭司が私の身体を洗い終わった。今度は私の番だ。


「私も洗ってあげるよ。」


 背中からゆっくりと丁寧に洗っていく。こちらを向いてもらって、圭司と同じように手を使って、圭司の大切なところも洗う。すごい恥ずかしいけど、今日は頑張るんだ。


「やっぱり、たたないね。ごめんね。」


 丁寧に触ったら反応するかな、と私も淡い期待はしていたけど、やはりまだ難しいみたい。これは気長に治すしかないよね。


「ううん、焦っちゃダメだよ。先生も焦りが禁物だっていってたでしょ。今日、一生一緒にいる誓いをお互い立てたんだから、ね。どんなことがあろうとも私は絶対に圭司から離れない。だから安心して。」

「うん、ありがとう。」


 お風呂から出て、ホテルのガウンを着て、手をつないでベッドまで来た。圭司が部屋を暗くしてくれる。


「今日はいけるところまで行きたい。」


 圭司からそんなことをいってくれるなんて!ちょっと泣きそうになりながら私も思いを伝える。


「うん、そのつもりでいたから、私も……。」


 圭司の手が私の胸に触れ、先の方をつまんだり、全体をなでたりする。私は思わず声を漏らしてしまう。今度は圭司が身体中をキスしてくれる。そして、いままで誰にも触られたことのない、大切な場所に手が伸びて、優しく刺激される。いままで体験したことのない感覚が全身を貫き、戸惑っているとだんだんと気持ちよさと心地よさが同居した感覚になってきた。そして、頭がぼんやりして、何かよく判らないものが身体の中から湧き上がってくる。


「んっ、んっ、な、なに、これ、あっあっ、んんっ!んーっ!!」


 私の身体をいままでに感じたことのない気持ちよさ――きっとこれがオーガズムと呼ばれるものなのだろう――が駆け抜けた。身体を動かすことが出来ずにいると圭司が抱き寄せてくれて、頭をなでて、キスをしてくれた。私は嬉しさと恥ずかしさとで顔を見ていられず、圭司に抱きつく。息もだいぶ整ってきて意識もはっきりしてきたので、ピロートーク?をする。


「……ビックリしたけど、初めてエッチなことが出来たね。なんか嬉しいな。」

「うん、そうだね。」

「こういうのでうれしがるのっておかしいのかな。」

「おかしなことじゃないよ。一つ関係が進められたっていうことだから。」

「そっか……。」


 愛している人との行為って、身体の気持ちよさだけじゃなくて、精神的な充足感がすごいんだね……。私は圭司に抱きしめられながらいつのまにかそのまま眠りについていた……。

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