第四部 二人で進む、みんなで進む

第十一章 とわの誓い

第171話○シークレットライブ昼の部!

 サイン会ツアーも無事に終わって、今日はシークレットライブ!昼の部は13時開場14時開演、夜の部は17時開場18時開演になっている。昼夜二回は久しぶり。そして今日は親友たちがみんなで見てくれる!こんなに嬉しいことはないよね。

 終わったあとに食事会とか何か声がかかるかなと思ったけど、朋夏も彩春も紗和の心情も考えて今日は企画しなかったみたい。確かにもう少し関係を進めてからみんなで盛り上がりたいもんね。


 ゲネプロからだいぶ間が開いているので今日は早めに会場に入って、喉の調子を整えることにしている。1時間の公演とはいってもファンのみんなはみんなとても楽しみにしてくれているのだから私も全力でぶつかろう。


「おはようございます!」

「おはようございます。」


 圭司と二人で伊予國屋ホールの入り口に立つと中から見慣れた三人が姿を現した。


「おはようございます。」

「早緑さん、おはようございます。今日はよろしくお願いします。」

「二人ともお疲れ様。」


 最初に声を掛けてきたのは、大崎ライブクリエイティブの近藤こんどうさん。次が古宇田こうださん、そして最後がお父さんだ。今日はちゃんと私と圭司に「明日はリハから立ち会いなのでよろしく」とメッセージが届いていたので戸惑わない。


「じゃあ、早速楽屋に案内しますね。太田さんは楽屋で支度しています。」

「判りました。よろしくお願いします。」


 圭司と二人で楽屋へ入ると太田さんは事務所から持ってきたと思われる今日の衣装とウイッグを取り出しているところだった。


「ああ、美愛と先生、おはよう。」

「「おはようございます。」」

「今日の衣装はこれよ。」

「ライブツアーの時の衣装ですね。」

「そう。今日はこれが一番いいかな、って。」

「そうですね!」


 ストレッチで身体をほぐしてから、衣装に着替えて、発声練習をして軽くのどを温める。楽屋には太田さんのほかに今回は圭司がそのままいて、今日の段取りを打ち合わせしていたけど、もはやそれが当たり前な感じがして、全然気にならなくなったから慣れってすごいと思う。


「準備できました!」

「そういえば先生の前で着替えてたのに二人とも平気だったわね。」

「まあ、もうお互い普通に下着をたたんだりしてますしね。」

「いいことよ。そのうちおならをしても気にならなくなるから。」

「「ええっ!?」」


 太田さんは既婚者だからすぐ夢のないことをいうんだもん。まあ、でも一生をともに歩むのであれば、それは普通になるんだろうなあ。


 準備が完了したので、楽屋でマイクを受け取って、ステージへ出る。そしていつもと同じようにマイクを通じて会場にいる皆さんへ話しかける。


「おはようございます!早緑美愛です!今日は一日皆さんよろしくお願いします!」


 今日も横浜の時と同じようにイヤモニを使うので、問題ないか確認しながら簡単なリハをして、改めて発声を整える。流れを確認して、カメラ位置もチェックした。今日の模様は後日ファンクラブサイトとスマイルチャンネルの有料会員ゾーンでアップロードされることになっている。

 いったん楽屋へ戻るともう12時だ。ケータリングを食べていると何やら騒がしい。どうやら女性陣が到着したみたい。慧一くんと幸大くんは夜の部のチケット当選で来るので一般のお客様と同じ扱いで入場するから楽屋には来られないのがちょっと残念だけど狭い会場で関係者枠もそんなにあるわけではないので今回は仕方ない。


「早緑様!お疲れ様!」

「さみあん、きたよ!」

「うわー!さみあんだ!」

「もう、朝から3人ともテンション高くて、大変だよ。」

「しまっち、テンションの落差が激しいからさー。」

「澄華もけっこうテンション上がるんだよね。私はもう慣れたけど。」

「へべすは前から割とこんな感じだったからなー。」

「「「褒められちゃった!」」」

「「「褒めてないよ!」」」

「「「えー!ひどい!」」」

「私は一体何を見せられてるの!?」

「一番大変なのは美愛のような気がするよ。」

「判ってくれるのは儘田さんだけだよー!」

「フィアンセに慰めてもらえばいいよ!」

「まだフィアンセじゃないよ!」

「「「「「「「まだなんだね!」」」」」」」

「あっ。」

「早緑さんがどんどん自爆キャラになっていく……。」

「あめっち、頑張って!」


 そんなつもりはないんだけどなー。なんかつい「まだ」って出ちゃうよね。でも、多分「まだ」だし!そんな感じで楽屋で雑談をしていたら昼の部が開場する13時になった。


「開場時間だね。じゃあ、みんなで席の方へ行くね。」

「楽しませてもらうよ!」

「うん!楽しんでね!」

「俺はギリギリで行くよ。」

「じゃあ、またあとでね。」


 圭司と楽屋で話をしていたら開演15分前になった。圭司も客席へ入り、私一人の時間となる。開演5分前、舞台袖に着く。何度経験してもこの瞬間が一番緊張する。開演のブザーが鳴る。よし、いくよ!

 まずは「First Impression」うん?なんかちょっと違う。いつもみたいな感じじゃない。どうしたんだろう?圭司の姿は……うん、バッチリ!……圭司の姿は確認できたんだけど、なんかちょっと違和感がある。

 MCをはさんで「Good Day Holiday」「愛について教えて欲しい」と続けて歌う。うーん、やっぱりなんかちょっと違うな。なんだろう。

 再びMCをはさみ、「ギムナジウム」を歌って、ラストは「奇跡を信じますか」になる。声は出ているし、ちゃんと歌えているんだけどなんか変な感じがある。あとで太田さんに相談しよう。


「早緑美愛でした!またお会いしましょう!」


 楽屋に戻ると少しだけぼんやりする。

 リハよりも声も出ていたし、音程もずれていなかった。でもなんか違和感がある。夜の部では調整したいけどどうすればいいのか判らない。


「美愛、お疲れ。」

「あ、太田さんお疲れ様です。」

「声も出ていて良かったわね。」

「そうなんですけど、なんか違和感があって。」

「え?そう?聞いてた感じとても良かったけど。」

「太田さんがそうおっしゃるなら問題ないんですかね?」

「うん、問題ないように思うけど。」


 太田さんは太鼓判を押してくれたのになんか納得できない。


「お疲れー。」


 あ、みんなが戻ってきた。


「良かったよ!早緑様のライブを堪能させてもらった!」

「あと一回聴けるのが楽しみ!」


 みんなが口々に良かったといってくれる。じゃあ、問題なかったのかなあ。


「うーん、なんか、今日のさみっち、変な感じがしたんだけど、しまっちどうだった?」

「うん、さみあん、今日なんか変だった。」

「えっ?」

「みんなと違って私は単なる素人の大学生だから説得力ないかもなんだけど、CDで聞いていたのと違って、なんか変な感じがした。」

「やっぱりそうだよね。私もなんかさみっち、変な感じがしたんだ。」

「いや、実は私も歌っていてなんか違和感があったんだ。声は出てるし、音程も安定してるんだけど、なんか違うの。」

「棟居さん、沼舘さん、その違った感じってなんとなくでもいいんだけど、言語化できる?」

「私たちみたいな素人がさみあんのマネージャーさんに申し上げてもいいんですか!?」

「もちろんよ。私はその違和感を感じなかったんだけど、本人のほかに棟居さん、沼舘さんの二人が違和感を感じているということは何かがあるの。」

「うーん……。」

「しまっち、私から話すね。」

「うん、いいよ。」

「私は、なんか声が震えているように聞こえたんです。CDではもっとどっしりした感じだったのに小刻みに揺れているようなそんな感じでした!」

「私が一番違和感があったのは、CDよりなんか全体に歌が短く感じたことです。同じ尺のはずなのによく判らなくって。」

「……あー、なるほどね……。」

「漠然としすぎてますよね……。」

「いいえ、十分参考になったわ。みんな、ちょっと待っててね。」


 そういうと太田さんは外へ出て行った。この違和感、なんだろう?解決できるといいんだけどなあ。

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