第163話●大阪から一路名古屋へ
打ち合わせはかなり脱線したもののそのおかげで二人は短時間でかなり親しくなった。番組の中でも初めて会ったという割には打ち解けた印象を与える雰囲気が出ていて、結果として、FM720での番組出演はとても上手くいった。
この短時間でここまでいい感じになるとは思っていなかった。階段教室で出会ったときのことを「あのとき実は無理矢理ハイテンションになって、ものすごい頑張って話しかけたんだよね。」なんていっていた未亜が、自分からここまで雰囲気を作れるようになったのは相当の進歩なんだと思う。未亜も周りのみんなの影響を受けていい方向に変わっている。本当に俺たちは親友たちに恵まれた。
19時に番組が終了するとあいさつをして、今度はタクシーで新大阪駅へ向かう。このあと毎回必ずやっている反省会があって泉沢さんも横井さんも出席する必要があるということで、残念ながらここでお別れとなる。
「あの場での機転すごかったわね。」
「そうですか?泉沢さんがものすごい緊張していたのは判ったので、へべすとかいろはとかがこういうときどうするかなあ、って考えてやってみただけなんですよね。」
「なるほど!確かにあの二人は初めて会った人との接し方上手いもんなあ。」
「そういう感じで振る舞えるようになったのはとてもいいことよ。やっぱりあなたたちは仲間との相乗効果で前に進んでいる感じね。」
「そういってもらえると嬉しいです!」
新大阪駅には10分くらいで着いた。
「万が一を考えて20時半の新幹線にしたからまだけっこう時間あるわね。駅ナカで食べちゃおうか。」
「そうしたら席が空いていればかわもとのネギ焼きとかどうですか?」
「あっ、ライブの時に書いてた奴だよね?」
「うん、そうだよ。大阪名物でお薦めなんだ。」
「じゃ、そこ見てみましょ。」
フードコートの一角にあるかわもとは特に行列もなく、ちょうど席もカウンタ席が3つ空いていた。
「これ、美味しいね!?」
「本当に美味しい。さすが先生。」
「私もたまたま友人に教えてもらっただけなんですよ。でも大阪に来たときはできるだけ食べたいなって思ってて。」
ネギ焼きが好評で良かった。未亜と太田さんが1玉食べている間に2玉を食べ終わりお店を出るとちょうどいい感じの時間だ。乗るのはひかりのグリーン車になっていた。大阪から名古屋は1時間くらいでちょうどのぞみに抜かれないタイミングだったらしい。
我々以外乗っていないグリーン車の指定された席に座ってほっとしているとせまじょのアニメプロデューサである
「うれしそうだね?」
「うん、明日からせまじょのアニメ収録が始まるって連絡が来ていた。」
「いよいよ始まるんだ!楽しみだなあ。」
「毎週リアタイは難しいにしても録画でしっかり押さえたいな。」
「そだね!」
「あと4巻の発売日が正式に決まった。バタバタしていたから確認してなかったけど、今日決定したっぽい。」
「おおっ!」
「1月18日の火曜日だね。」
「その週末にまた伊予國屋でサイン会があるからよろしくね。『カバボクシ』にはさっき入れたから確認しておいて。」
「わかりました。」
「そこでしっかりサイン会を入れてくるのがさすがだね。」
「うん、さすがだと思う。」
多分、今回も陽介さんの手配なんだろうなあ。
名古屋に着くとすぐにチェックインをして部屋に入る。今日は前回とは違う部屋だけど、広さは同じくらいだった。そして違うのは……。
「ベットが大阪みたいにぴったりくっついているね!」
「前回は離れてたもんな。今日も大阪みたいにくっついて寝よう。」
「うん!嬉しいなあ……。」
先に未亜がシャワーを使って、次に俺がシャワーを使う。シャワーを浴びながら前の名古屋でのことを思い出していた。
(あのときはやっぱり逃げたんだよなあ……)
いま思い返せば、高校時代、周りの連中はエロ本とかAVとかを貸し借りしていたけど、俺は全然興味が持てなかった。もちろん高校に入ってからは一人エッチもしたことがない。当時は全く気がつきもしない……いや、自分は正常だと思いたいがために見て見ぬふりをしていただけだったんだろう。もしかしたら未亜のことを「好きになった」というのも最初は自分が正常だと思いたいがために「少しいいな」という程度の感情を「好きになった」と思い込んでいたに過ぎなかったのかもしれない……。未亜がさみあんだと知って、一緒に暮らすようになって、どんどん本当に好きになっていって、その結果、トラウマが見えないところで無意識に折り合いを付けて……。
そんな俺を見捨てずにしっかりと向き合ってくれる未亜。未亜と出会えていなかったらどうなっていたのかな。26日は最後までは無理としてもその前まではやっぱりしたいよな、知識が全然ないからあらためてちゃんと調べておこうって、そんな感情も出てくるようになったのか、俺……。これも未亜のおかげだよな……。身体のことはじっくり直していくしかないけど、それ以外のことはちゃんとしていきたいと思いを新たにした。
シャワーから出て戻ると未亜は椅子に座ってぼんやりと外を眺めていた。
「出たよ。」
「あっ、おかえり。」
「なんか物思いに耽っていたけど大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。前の名古屋のことを思い出していたの。あっ!変な意味じゃないからね。」
「奇遇だな、俺も前の名古屋のことを思い出していたよ。あのときは本当にごめんなさい。」
「ううん、大丈夫だよ。私の方こそ、あのときは理由がわからなかったとはいえ、なんか強く迫っちゃってごめんなさい。」
「そんなことないよ。」
「あのとき願っていたことはかなり叶っているなあって思いながら外を眺めていただけだからね。だから大丈夫。安心して。」
「ありがとう。本当にありがとう……。」
「圭司の『相手役』だからね!じゃあ寝よっか!」
「そうだな。今日も一緒に未亜のぬくもりを感じながら寝られるのが嬉しいよ。」
「えっ!あっ!?……うん……そうだね……。」
未亜の顔が真っ赤に!?
「あれ!?どうしたの!?」
「……もう、突然そんなこというから照れたの!いいから寝るよ!」
照れてる未亜もやっぱりとてもかわいいなあ。そんなことを思いながら一緒の布団に入り、今日も抱き合って眠りについた。
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