第162話○サイン会大阪後半戦からラジオ局へ

 お父さんにまさか二回も驚かされるとは思わなかったけど、結婚する前から家を出てしまったので寂しいのかもしれないとちょっと反省した。マメに帰るのは難しいけど、圭司とも相談してたまに食事会とかを考えよう。朋夏にいいお店がないか聞いてみよっと。


 そして、いま私は周囲をブラジリアさんのスタッフや大崎エージェンシー大阪支社の皆さんに囲まれて移動中。何やら注目を集めているような気もするけど、単なる団体客と思われているようなので問題が起こることはなさそうだなあ、と思いながら歩いていたらあっという間にツノハズカメラさんに到着した。お店の方の案内でここでは直接会場まで誘導される。サイン会は地下のツノハズホールというところでやるみたい。楽屋はサイン用の机が置いてある大きなついたての裏に設置されていた。なるほど、これならすぐに出られて便利だなあ。


 12時から始まったツノハズカメラさんのサイン会も無事に終えて、次はトーチレコード難波店さんでのサイン会。ここは距離がそれなりにあるのでタクシー移動かな、と思っていたら、そのまま地下の駐車場へ誘導される。そこにはロケバスが止まっていた!


「えっ、ロケバスですか!?」

「ブラジリアさんで用意してくれたのよ。みんなで移動するからね。」


 ブラジリアさんと大崎エージェンシー大阪支社の方々、総勢20人での移動となった。軽食としてサンドイッチをいただいたので、車内で食べてしまう。なんか、ロケバスで移動しながら軽食なんて、私も芸能人なんだなあ、とぼんやり思ってしまった。


 15時に定刻通り始まったトーチレコードさんのサイン会も滞りなく完了。ブラジリアの皆さんとはいったんここでお別れだ。今度は大崎エージェンシー大阪支社の社用車でFM720なにわさんへ向かう。私たちは後部座席、太田さんは助手席に座っている。運転して下さっているのは大阪支社で、関西を中心に活動しているタレントのマネージメントをしている横井よこい栄彦ひでひこさんという方。元々は東京出身、今は転勤で大阪にいるんだとか。太田さんとは同期だそうで、当然面識がある。


「横井くん、今日はありがとうね。」

「いえいえ、早緑さんも雨東先生もお疲れ様です。安全運転で行きますのでよろしくお願いします。」


 車は一路北へ向かう。


「本当に息つく暇がないね。」

「俺はついて回るだけだけど、それでも大変だったから早緑さんはもっと大変だったんじゃないか?」

「まあね。でもファンのみんなが本当に嬉しそうでね。なんかこういう人たちのおかげで私はいま板の上に立てているんだなあ、って改めて感謝しながらサインと握手をしたよ。」

「美愛のその姿勢好きよ。」


 FM720に着くと横井さんの案内で打ち合わせルームへ。そこで待っていたのはFM720の方と番組のMCをしている大崎エージェンシー大阪支社でいま注目度ナンバーワンの泉沢いずみざわりあさん。デビューは今年の4月なんだけど、あっという間にファンの支持を集めて、10月から土曜日18時台のMCに抜擢されたんだとか。年齢は私や圭司と同じ学年になるけど大学には行ってないそうだ。ちなみに泉沢りあさんの担当マネージャが横井さんという関係。


「は、はじめまして早緑さん!き、今日はよろしくお願いしましゅ!」


 あっ、泉沢さん、かんだ。なんかガチガチに緊張している!太田さんも気になったみたい。


「泉沢さん、なんかすごい緊張してるけど大丈夫?」

「あっ!しゅ、しゅみません!私、早緑さんと雨東先生の大ファンで、それでお目にかかれるのが嬉しいのと緊張とで……。」

「えっ、そうなんですね!嬉しいです!」

「……だいぶ前になりますけど、紅白おめでとうございます。」

「あっ、ありがとうございます!」

「えーっと、あの……。」


 ものすごい緊張してるなあ。FM720プロデューサーの高鳥たかとり達哉たつやさんも困っている感じ。

 うーん。朋夏とか彩春とかならこんな時どんな感じで話をするかな……?

 そうだ!紗和と最初にラフな感じで話しかけたのって年齢の話題だったよね。よし、同い年だっていうところから話をしてみよう。もう少し砕けた会話が出来れば緊張がほぐれるかも!


「泉沢さん、確かいま19歳ですよね?今年の3月に高校卒業でいいですか?」

「えっ!あっ!はい!」

「私は細かいプロフィール公開していないんですけど、実は私も来月19歳なんです!」

「そうなんですか!?」

「そうなんです!同じ学年なので、良かったらお互いラフな感じで話してもいいかな?」

「うん、それはいいな。あっ、あらためて、はじめまして、雨東晴西といいます。」


 さすが圭司、ナイスフォロー!本当にこういうときに以心伝心でうれしい!


「あっ!雨東先生!私、雨東先生の物語も大好きで……。」

「ありがとうございます!俺も早緑さんと同い年なので、良かったらラフな感じで行きましょう!」

「えっ!?いいんですか!?」

「もちろん!」

「OKですよ。」

「……グスッ」


 泉沢さん、泣いちゃった!?しくじったかな!?


「えっ、泉沢さん、大丈夫?」

「……なんか、嬉しいです。とても有名なお二人なのでもっと敷居が高いと思っていたので……。」

「あっ、なるほど!ほら、私もまだまだ駆け出しのアイドルだから!」

「そうそう。日々勉強だから。あっ、そうだ、早緑さん、RINEを交換してもらったら?」

「あっ!そうだね!泉沢さん、RINE交換しよう!」

「ええっ!」

「大阪の事情とかも教えて欲しいし、仕事で東京へ来たときは一緒に食事とかしたいので、ぜひ!」

「あっ、はい、ありがとうございます……ウウッ。」


 泉沢さんがまた涙目に!


「ごめんなさい、あこがれていた人たちにこんなに優しくしていただけるなんて思わなかったので嬉しくて……。」


 横井さんが嬉しそうに声を掛ける。


「りあさん、よかったね。」

「はい!」


 泉沢さんの震えが止まっているからもう大丈夫かな?


「緊張も取れたみたいだね。」


 番組プロデューサーの高鳥さんもほっとしたような感じで場を仕切りはじめた。


「えっ……あっ!」

「よかったよ。じゃあ、打ち合わせしちゃいましょうか。みなさん、よろしいですか?」


 さあ、いい番組にするぞ!

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