第156話○さらに広がり深まる関係
配信が終わると私だけいったん16階の更衣室へ行って通常モードになってしまう。そのあと、11階まで降りて、太田さんのデスクに設置されている宅配ボックス?へ専用のクリーニングバッグに入れたウイッグを収納してから再び20階の会議室へ戻る。ウイッグはこのまま太田さんを経由して専門業者さんのクリーニングへ回してもらうのだけど、仕上がりが自分でやるのとは違う上に長持ちするようになって、結果として、安く済むようになった。いいウイッグは結構なお値段するからね……。
「じゃあ、早緑さんも戻られたので、改めて順番に自己紹介と関係の説明をしていきましょうか。この際、伝えておきたいことがあれば話しておくと良いと思います。」
大石さんのそんな仕切りで私たちは自己紹介をはじめる。あらためてまとめるとこんな感じだった。
・朋夏→VTuber日向夏へべす。
・紗和→ボカキャラPママダPこと儘田海夢。同じ大学ではないけどみんなと親しくしているから呼ばれたことを説明。この場では本名を名乗らないことにしたみたい。
・私→アイドルシンガー早緑美愛。
・華菜恵→単なる大学生。VTuber赤梅エンジェルと朱鷺野澄華の大ファン。朱鷺野作品は舞台化したものまで全部追いかけている。
・志満→単なる大学生。早緑美愛の大ファン。腐女子で友達とファジケに出ているけど毎回100部頒布の小規模サークル主。
・彩春→元VTuber西陣つむぎ、現在は声優岡里いろは。
・幸大くん→絵師帯屋わたる。
・慧一くん→歌い手マスケイ、引退宣言はしていないが活動は完全に休止している。日向夏さんの彼氏。
・圭司→作家雨東晴西。改めて報道で真実だった部分についての説明もした。
・明貴子→作家朱鷺野澄華。
・瑠乃→歌い手夜野月光、現在はアイドル候補生。
華菜恵と志満がものすごい恐縮しちゃっているけど、なにこの豪華ラインナップ!?偶然集まりましたなんていっても誰も信用してくれないよ!?
この話の流れで私たちはいろいろな話をする。
慧一くんから私がファーストネーム呼びにこだわっている理由を聞かれたのでいい機会だと思って、高校の時のことをまだこの話を知らない4人に話す。でも不思議なことに前ほどそこへのこだわりが薄くなっていることもあって、志満と華菜恵には「呼びたいように呼んでくれればいい」と伝えた。
そしてそうした話の流れで、男性陣二人の素性も見えてきた。
まず、幸大くんは有明で年二回開催されているファンジンマーケット、通称ファジケでサークルというのをやっていて、そこでKAKUKAWAの人にスカウトされて、いろいろなラノベの挿絵や表紙絵を描くようになったそうだ。本当はマンガを描かないかって誘われたらしいけど、マンガはこれまで描いたことがないので、お断り中なんだとか。それで雨東先生のコミカライズは別の人だったのね。
そして、慧一くんが、実は100万再生動画を20本以上持っている超有名歌い手マスケイだったことが一番の衝撃だ。マスケイさんって、歌ってみたに詳しくない私でも名前くらいは聞いたことがあるよ!なんなら同級生たちが「マスケイスト」とかいって熱を上げて追っかけていたよ!そういえば唯一私のことを知っている担任の先生もマスケイさんの大ファンだったなあ……。「西脇さんがマスケイさんと共演するようなことがあったら呼んでね」とかいわれた記憶が。
あと、慧一くん関係で私が知らなかったこととしては、儘田海夢が多くの人に聞かれるようになったのはマスケイが「明るい暗闇」を歌ったことで着目を集めたからだということ。そして、マスケイの歌ってみたが大好きで、マスケイにあこがれていた日向夏へべすが超長文メールでコラボをお願いしたこと。そのメールがきっかけでマスケイとへべすは3曲コラボをしていること。へべすの歌ってみたは基本的に早緑美愛だけど、その3曲だけが「ボカキャラオリジナル曲を歌ってみた」の動画だということ。慧一くんは当時へべすのことを単なる歌い手だと思っていたこと。瑠乃はマスケイの歌ってみたに惚れ込んで歌い手をはじめたこと。大崎の音楽セクションほか、たくさんの事務所がスカウトをしたけどプロとしてデビューする自信がないと断ったこと。大学に入ったあと、マネージャ業には興味が出てきて、スカウトされたときの伝手を使ってこの前大崎のアルバイト面接を受けたこと。
「そのとき、好きなタレントを聞かれて、真っ先に日向夏へべすと早緑美愛って答えたんだよね。実は大崎でアルバイトをやりたいと思ったのは日向夏さんとさみあんが所属しているからで、特に日向夏さんにはリアルで一回会って、もしマスケイのことを憶えていたら、いつも見ている配信のこととかを話したいなあっていうファン心理があってさ……。」
「ちょっと!?慧一、それ本当!?ええっ、へべすの配信見てるの!?」
「コラボをしたときに初めて知って、興味を持って、それから果肉になって、実はほぼ毎回配信を見ているんだ。ちなみに昨日も見てたよ……。」
「うそっ!?そんな前から!?ええっ、太田さん、大石さん、これ、ドッキリでどこかにカメラがあるとかじゃないですよね?!」
「いやいや、もちろんドッキリじゃないですよ。」
「恋人があこがれの人でしかも自分のファンだったなんてそんなことあるんですか!?ドッキリじゃないのに!?ええっ!?」
「いやいや、それはこっちもいいたいよ!まさか大ファンだった日向夏さんが朋夏だったなんてさ……。」
うん、この流れ、懐かしいね。圭司も同じことを思っているようだ。二人で見つめ合って、うなずいてニヤニヤしてしまった。二人ともなんか混乱状態になっているからちょっとフォローしたほうがいいよね。
「ドッキリじゃなくてもそんなことあるよ、朋夏。朋夏も慧一くんも圭司と私の関係を思い出してよ!」
「……そうだ!未亜と圭司くんはそうだった!」
「そういえば二人はそうだな!」
朋夏も慧一くんもちょっと落ち着いてきたみたい。フォローに入って良かったかも。太田さんが話を拾って続ける。
「それで、私に話が来てね。マスケイさんがうちのアルバイト面接受けたけど早緑美愛のファンなんだって、っていわれて紹介されたのよ。」
「じゃあ、慧一くん、太田さんのアシスタントになるんですか?」
「私じゃなくて、沢辺さんのアシスタント。日向夏さんが八面六臂の活躍をしているんで、沢辺さんって、12月1日から日向夏さんの専属になったんだけど、それでも彼女一人ではもう業務が回らないくらいの引き合いがあるのよ。それで、会社で事務作業をするアシスタントアルバイトと企業周りとかをフォローするアシスタントマネージャが入ることになったのね。」
「はい、沢辺さんから年明けにまずはアルバイトさんが来るっていう話は聞いてました。でもまさかそれが……。」
「俺も日向夏さんが担当だっていうのは聴いていて、ラッキーって思ってたんだけど、まさかねえ。」
「ちなみに日向夏さん、彼氏が出来た件は沢辺さんは知っているの?」
太田さんが朋夏にそう尋ねた。
「はい。告白されてOKした翌日にすぐ伝えました。今度機会を見て、私が日向夏へべすだって伝えて、沢辺さんに紹介しようと思っていたんですけどね……。」
「いま沢辺さんに連絡した方がいいですね。」
「うん、状況を伝えた方がいいと思う。」
マネージャ二人に促された朋夏は慌てた様子で電話を掛けに出ていったけど、なんかいろいろな関係性があるんだなあ。なんとなく話が止まり、朋夏が戻ってくるのを待つ感じになった。特に問題がなければいいけど。
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